悪役令嬢と十三霊の神々

悲劇の悪役令嬢に転生してしまった少女はうっかり、町人Sに恋をした。
冴條れい
冴條れい

第15話 優しくて甘い夜

公開日時: 2021年10月2日(土) 15:15
文字数:1,278

「サイファ様、あのね」


 月をかたどったナイトライトをつけて、サイファのとなりに座って、寄りかかったら、とっても安心できた。


「私、明日ね、ジャイロと話をつけるから。ジャイロがもし、サイファ様に助けを求めたら、許してあげてね」

「えっ……!?」


 サイファがびっくりした顔で私を見た。


「サイファ様、ジャイロがたまに怪我をしてるのは、気がついた?」

「うん、それは。何度も、ケンカで僕が殴ったことにされたし」


 だから先生は、サイファが一方的に殴られているだけだと気がつかなかったのね。


「ジャイロとはたぶん、お友達になれるよ。でも、スニールとは――サイファ様、ごめんなさい、デゼルはサイファ様に、もうスニールとは関わってほしくない」

「えっと、スニールと? ジャイロじゃなくて? スニールは、ジャイロに逆らえないだけだよ?」

「もとは、スニールがジャイロにいじめられてた?」

「……なんで……そんなこと……、そうだけど、クラスの誰かから、聞いたの?」


 ううんと、私はかぶりをふった。


「スニールは弱すぎて、今日、私がジャイロに撃ったような闇魔法を放てば発狂してしまうし、私の手には負えないの。スニールはサイファ様に、あの子より惨めであって欲しがってる。世界で一番、弱くて惨めなのは自分じゃないと思うために、あの子より惨めな誰かを求めてる。スニールは、サイファ様にどんな酷いことでもできる、だからお願い、スニールがどんなに可哀相でも、もう、関わらないで欲しい」


 怖い。

 スニールはサイファの優しさにつけこむから。

 恐怖に支配された弱い子は、どんな、卑劣な裏切りもできるから。

 他人の不幸ばかり望む限り、救われることなどできないのに。

 どんなに弱くても、惨めでも、他人の幸いを望む子なら、助けてあげられるけど。


 スニールみたいな子は、ジャイロみたいな子の子分でいるのがしあわせだと思う。

 あれほど病みの深い子をそばに置いて、感染しないジャイロは、その意味では思ったよりも強いのね。


 サイファはスニールを、ジャイロのサンドバッグから、ジャイロの子分に格上げしてあげたんだもの。もう十分に、助けてあげたと思う。


「そんな……」

「……やっぱり、いい。その時には、デゼルが今日みたいに、サイファ様を守るから」

「駄目だよ、それは!」

「へいき」


 だって、一人きりだった現世でだって、死ななかったもの。

 何の力もなかった現世でだって、卒業まで、たった一人で耐えたもの。

 今は、闇巫女の力があるし、サイファがいるから、ずっと、強くいられるよ。ほんとうに、へいき。


「サイファ様、キス、してもいい?」

「……」


 サイファが優しく髪をなでてくれて、キス、してくれた。

 唇の後、額に、ほっぺに、首筋に。

 すごく、甘くて優しい感触が降って、魂がとけるかと思った。

 十七歳だったら、抱いてもらえたかなぁ。

 あと十年、待たないといけないんだぁ。


「デゼル」


 私が心地好さに酔った目でサイファを見たら、しばらく私を見詰めていたサイファが、もう一度、キスしてくれた。


「…んっ……」


 舌、挿され――

 胸の奥から指先まで、甘さに痺れたみたいになって、何にも、わからなくなった。

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