悪役令嬢と十三霊の神々

悲劇の悪役令嬢に転生してしまった少女はうっかり、町人Sに恋をした。
冴條れい
冴條れい

第16話 まじょのどれい

公開日時: 2021年10月3日(日) 14:15
文字数:1,513

 あー……


 翌朝、サイファの腕の中で目が覚めて、そういえば、神様が見てるんだっけって、ぼんやり思った。


 たいしたことはしてないけど、サイファの魔力、少し上がったりしないかな?


 サイファ、すごく、優しかったもの。

 私のこと、宝物みたいに大事に抱いて眠ってくれたの。


 誰かと傷つけあった、その日のうちに、熱が引いてラクになれたのなんて初めてなんだけどな。


「サイファ様」

「ん……」

「おはよう」

「…デゼ……」


 サイファがたちまち真っ赤になって、顔を覆った。


「あ……えっと……」


 私が微笑んでサイファの胸に頭をもたせたら、サイファがぎゅっと抱き締めてくれて、いつもの優しい声で言った。


「おはよう、デゼル」



  **――*――**



 昨日の今日で、教室はさすがにピリピリして、一部始終を『見ていなかった』クラスメイトが私に向ける視線が痛かった。

 頑張ろう。

 授業が終わったら、ジャイロと話をつけなくちゃ、いけないもの。


「ジャイロ、ちょっと」


 始業の前に先生がジャイロを呼んで、しばらくして戻ってきたジャイロが、表情を強張らせて私を見た。

 先生、何の話だったんだろう。


「デゼル、大丈夫? その……」


 一部始終を『見ていた』クラスメイトが寄ってきて、心配そうに私を見た。


「ありがとう、サイファ様がいるから大丈夫」

「そう?」


 黙っていていいのかなと、迷う様子で、見ていたクラスメイト達が顔を見合わせる。


「下駄箱とか、気をつけてね。嫌がらせされるかもしれないよ」

「わかった」


 ああ、うん。

 小学校だもんね。

 靴を隠されたり、ミミズを入れられたりしたらいやだな。

 でも、大丈夫よ。

 サイファが嫌がらせされないはずだから、靴を隠されたらクレイを呼んできてもらえばいいし、教科書を捨てられたら見せてもらえばいいもの。

 たった一人でも、確かな味方がいてくれるって、すごく心強いのよ。


「あれ」


 教室を出ていたサイファが雑巾を持って戻ってきて、何、してるんだろうと思って見に行ってみた。

 そうしたら、サイファの机に大きく、汚い字で『まじょのどれい』と書いてあったのよ。


「デゼル、デゼルのせいじゃないから。これくらいのことは、前からあったんだ。デゼルのおかげで、最近はなかったけど」


 私はきっと、泣きそうな顔をしていたんだと思う。


「大丈夫だよ、綺麗にするから」

「……うん」


 守れなかった。

 一緒のクラスになったら、サイファのこと、守れるかもしれないと思って、学校に通おうと思ったのに。

 それに、魔女の奴隷って、本当かもしれない。

 私はサイファを平和から遠ざけて、悪役令嬢の悲劇に巻き込んで、不幸にしてるだけなのかもしれない。


「デゼル、泣かないで。こんなこと、本当になんでもないんだから」


 私が懸命に涙を拭っていたら、ジャイロが腹立たし気に自分の机を蹴り上げた。

 すごい音がしたから、私もみんなも、ぎょっとしてジャイロを見た。


「おい、誰がやった。サイファはオレが殴る、手ぇ出すんじゃねぇよ。オレとサイファのケンカだ!」


 ジャイロに睨まれたクラスメイトが、あわてて、僕じゃない、私じゃないと首を横にふる。

 私もびっくりした。

 まさかジャイロが、サイファを庇うようなことを言ってくれると思わなかったから。


 目を丸くしてジャイロを見ていたサイファが、私だけに聞こえるようにささやいた。


「すごいや、デゼルの言った通りだね。ジャイロと友達になれるって、言われた時には、信じられなかったけど……」


 うん、私もジャイロを見くびってた。

 話をつける前に、助けてくれるとは思っていなかったもの。


「おい、デゼル。放課後、話がある」


 自分の席の机に行儀悪く足を乗せたまま、ジャイロが大きな声で私に言った。


「――心配するなよ、サイファも一緒でいいぜ? 殴るつもりだけどな」

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