あー……
翌朝、サイファの腕の中で目が覚めて、そういえば、神様が見てるんだっけって、ぼんやり思った。
たいしたことはしてないけど、サイファの魔力、少し上がったりしないかな?
サイファ、すごく、優しかったもの。
私のこと、宝物みたいに大事に抱いて眠ってくれたの。
誰かと傷つけあった、その日のうちに、熱が引いてラクになれたのなんて初めてなんだけどな。
「サイファ様」
「ん……」
「おはよう」
「…デゼ……」
サイファがたちまち真っ赤になって、顔を覆った。
「あ……えっと……」
私が微笑んでサイファの胸に頭をもたせたら、サイファがぎゅっと抱き締めてくれて、いつもの優しい声で言った。
「おはよう、デゼル」
**――*――**
昨日の今日で、教室はさすがにピリピリして、一部始終を『見ていなかった』クラスメイトが私に向ける視線が痛かった。
頑張ろう。
授業が終わったら、ジャイロと話をつけなくちゃ、いけないもの。
「ジャイロ、ちょっと」
始業の前に先生がジャイロを呼んで、しばらくして戻ってきたジャイロが、表情を強張らせて私を見た。
先生、何の話だったんだろう。
「デゼル、大丈夫? その……」
一部始終を『見ていた』クラスメイトが寄ってきて、心配そうに私を見た。
「ありがとう、サイファ様がいるから大丈夫」
「そう?」
黙っていていいのかなと、迷う様子で、見ていたクラスメイト達が顔を見合わせる。
「下駄箱とか、気をつけてね。嫌がらせされるかもしれないよ」
「わかった」
ああ、うん。
小学校だもんね。
靴を隠されたり、ミミズを入れられたりしたらいやだな。
でも、大丈夫よ。
サイファが嫌がらせされないはずだから、靴を隠されたらクレイを呼んできてもらえばいいし、教科書を捨てられたら見せてもらえばいいもの。
たった一人でも、確かな味方がいてくれるって、すごく心強いのよ。
「あれ」
教室を出ていたサイファが雑巾を持って戻ってきて、何、してるんだろうと思って見に行ってみた。
そうしたら、サイファの机に大きく、汚い字で『まじょのどれい』と書いてあったのよ。
「デゼル、デゼルのせいじゃないから。これくらいのことは、前からあったんだ。デゼルのおかげで、最近はなかったけど」
私はきっと、泣きそうな顔をしていたんだと思う。
「大丈夫だよ、綺麗にするから」
「……うん」
守れなかった。
一緒のクラスになったら、サイファのこと、守れるかもしれないと思って、学校に通おうと思ったのに。
それに、魔女の奴隷って、本当かもしれない。
私はサイファを平和から遠ざけて、悪役令嬢の悲劇に巻き込んで、不幸にしてるだけなのかもしれない。
「デゼル、泣かないで。こんなこと、本当になんでもないんだから」
私が懸命に涙を拭っていたら、ジャイロが腹立たし気に自分の机を蹴り上げた。
すごい音がしたから、私もみんなも、ぎょっとしてジャイロを見た。
「おい、誰がやった。サイファはオレが殴る、手ぇ出すんじゃねぇよ。オレとサイファのケンカだ!」
ジャイロに睨まれたクラスメイトが、あわてて、僕じゃない、私じゃないと首を横にふる。
私もびっくりした。
まさかジャイロが、サイファを庇うようなことを言ってくれると思わなかったから。
目を丸くしてジャイロを見ていたサイファが、私だけに聞こえるようにささやいた。
「すごいや、デゼルの言った通りだね。ジャイロと友達になれるって、言われた時には、信じられなかったけど……」
うん、私もジャイロを見くびってた。
話をつける前に、助けてくれるとは思っていなかったもの。
「おい、デゼル。放課後、話がある」
自分の席の机に行儀悪く足を乗せたまま、ジャイロが大きな声で私に言った。
「――心配するなよ、サイファも一緒でいいぜ? 殴るつもりだけどな」
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