生活の授業で、近くの森にキノコと木の実を採りに行くことになって、私はいつも通り、サイファに手を引いてもらって、ついて行ったの。
「キノコりたい~♪ キノコりたい~♪」
私がきげんよく歌っていると、サイファもつられて楽しそうな笑顔になった。
「なにそれ、デゼル」
「キノコりたい歌」
「キノコるってなに」
「生き残るんだよ!」
野外での授業になると、いつも、私を構いたいクラスメイトがすぐに集まってきて、この日もそうだった。
私が小さくて可愛いのと、闇巫女が珍しいのとで、動物園のパンダかコアラみたいな待遇よ。
「「キノコりたい~♪ キノコりたい~♪」」
たちまち、他の子供達がしなくていい合唱を始めるし。
「なにそれ」
「キノコりたい歌」
「キノコるってなに」
「生き残るんだよ!」
真似して、涙を流して笑う子や、草の上に仰向けに寝転がってじたばたしてまで笑う子もいる。
先生が困るからやめろ。歩けおまえら。
「こらー! 授業を始めるぞー!」
先生が声を張り上げた。
小学校の先生って大変よね。
まず、先生が見せてくれたキノコと同じのをサイファと探して、一緒に採ったの。
同じのか、違うのか、ビミョ~なキノコとかあるのね。
小さすぎたらいけないのか、大きすぎたらいけないのか、シミがあるのは病気のキノコなのか、さまざまな罠があるのよ。
となりにウ〇コが落ちてるキノコを採るかどうか、これも迷うところね。やめておいた。
採ったキノコを先生に見てもらって、次は、木の実を採ろうって、見つけた木の実に手が届かないから、サイファにだっこしてもらおうと思った時だった。
「デゼル、ほら。やるよ」
ジャイロっていう体格のいい子が、集めた木の実を私に寄越したの。
自分の分も、もう、集めてあるみたい。
ガキ大将っていうやつね。
このクラスで一番、成績のいい子だけど、私の真逆で、生活がほぼ満点なタイプ。
頭はふつう、そこらの十歳の子供と同じ。
だから、わかってないの。
強い子が採り過ぎると、弱い子の採り分が足りなくなるとか、私は自分で採りたいのよってことが。
この手の男の子は、めんどくさいのよね。
親切のつもりだから、ムゲにすると逆恨みされるし。
私、あからさまにサイファに懐いて見せてるんだから、こういうことしないで欲しかった。
あぁ、トラウマがよみがえってきた。
なんだかすごく、気が重い。
私は自分で採りたかったし、サイファにだっこしてもらいたかったの!
はっ!
過去形になってはダメよ、頑張れデゼル。
余命三年かもしれないんだもの、チャンスは大切にしなくちゃ。
「ありがとう、ジャイロ」
なるべくジャイロを怒らせないように、嬉しそうな笑顔で御礼を言って、受け取った木の実をリュックに詰めた。
それから、私は何事もなかったように、サイファにだっこをねだってみた。
ジャイロにもらった木の実は後で、足りない子にあげればいいもの。
「デゼル、あの木の実を採りたい!」
緊張した顔で見守っていたサイファが、ほっとした顔をして、私をだっこしてくれた。
わぁい。
「サイファー、調子に乗ってんじゃねーぞ」
ジャイロが低くつぶやいて、サイファをにらんだ。
ちょっと! 愛し合う二人の幸せな時間を邪魔しないで!
ジャイロのすっとこどっこい!
サイファが緊張した様子で私を下ろして、ジャイロから庇うように、私とジャイロの間に立った。
ジャイロがボキっと、私が木の実を採ろうとしていた枝を折って、私に寄越した。
なんてことをするの!
「駄目よ、枝を折るなんて!」
少し、驚いた顔で私を見たジャイロが、いやな笑い方をした。
「きゃ」
ジャイロが私に手を伸ばしてくるのを感じて、私が小さな悲鳴を上げたのと、サイファがジャイロの手をつかんで強い声で制止したのは、同時だった。
「やめろ!」
うわぁ、カッコイイ!!
サイファってほんと、並の十歳児じゃないよね。
絶対に、今、サイファを見詰める私の目は、すごくキラキラしてると思う。
「スニール」
え!?
ジャイロが呼ぶと、別のクラスメイトがサイファにつかみかかったの。
スニールの方はなんていうのか、すごくこう、暗い感じの子よ。
オーラが病んでるの。
ケンカとか、いかにも弱そうなんだけど、信じられない。
『だからサイファなら殴らない』って、わかってて、つかみかかるの!?
スニールがぎゅっと目を瞑って、サイファにしがみついたところを、ジャイロが容赦なく、サイファの顔を殴ったのよ!
その体格で二対一って何なのよ!
サイファにスニールみたいな弱い子は殴れっこないのに!
怒りに我を忘れたのは、デゼルに転生してから初めてだった。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!