悪役令嬢と十三霊の神々

悲劇の悪役令嬢に転生してしまった少女はうっかり、町人Sに恋をした。
冴條れい
冴條れい

第11話 悪役令嬢はキノコりたい

公開日時: 2021年9月28日(火) 19:15
文字数:1,845

 生活の授業で、近くの森にキノコと木の実を採りに行くことになって、私はいつも通り、サイファに手を引いてもらって、ついて行ったの。


「キノコりたい~♪ キノコりたい~♪」


 私がきげんよく歌っていると、サイファもつられて楽しそうな笑顔になった。


「なにそれ、デゼル」

「キノコりたい歌」

「キノコるってなに」

「生き残るんだよ!」


 野外での授業になると、いつも、私を構いたいクラスメイトがすぐに集まってきて、この日もそうだった。

 私が小さくて可愛いのと、闇巫女が珍しいのとで、動物園のパンダかコアラみたいな待遇よ。


「「キノコりたい~♪ キノコりたい~♪」」


 たちまち、他の子供達がしなくていい合唱を始めるし。


「なにそれ」

「キノコりたい歌」

「キノコるってなに」

「生き残るんだよ!」


 真似して、涙を流して笑う子や、草の上に仰向けに寝転がってじたばたしてまで笑う子もいる。

 先生が困るからやめろ。歩けおまえら。


「こらー! 授業を始めるぞー!」


 先生が声を張り上げた。

 小学校の先生って大変よね。


 まず、先生が見せてくれたキノコと同じのをサイファと探して、一緒に採ったの。

 同じのか、違うのか、ビミョ~なキノコとかあるのね。

 小さすぎたらいけないのか、大きすぎたらいけないのか、シミがあるのは病気のキノコなのか、さまざまな罠があるのよ。

 となりにウ〇コが落ちてるキノコを採るかどうか、これも迷うところね。やめておいた。


 採ったキノコを先生に見てもらって、次は、木の実を採ろうって、見つけた木の実に手が届かないから、サイファにだっこしてもらおうと思った時だった。


「デゼル、ほら。やるよ」


 ジャイロっていう体格のいい子が、集めた木の実を私に寄越したの。

 自分の分も、もう、集めてあるみたい。

 ガキ大将っていうやつね。

 このクラスで一番、成績のいい子だけど、私の真逆で、生活がほぼ満点なタイプ。

 頭はふつう、そこらの十歳の子供と同じ。

 だから、わかってないの。

 強い子が採り過ぎると、弱い子の採り分が足りなくなるとか、私は自分で採りたいのよってことが。


 この手の男の子は、めんどくさいのよね。

 親切のつもりだから、ムゲにすると逆恨みされるし。

 私、あからさまにサイファに懐いて見せてるんだから、こういうことしないで欲しかった。

 あぁ、トラウマがよみがえってきた。

 なんだかすごく、気が重い。


 私は自分で採りたかったし、サイファにだっこしてもらいたかったの!


 はっ!

 過去形になってはダメよ、頑張れデゼル。

 余命三年かもしれないんだもの、チャンスは大切にしなくちゃ。


「ありがとう、ジャイロ」


 なるべくジャイロを怒らせないように、嬉しそうな笑顔で御礼を言って、受け取った木の実をリュックに詰めた。

 それから、私は何事もなかったように、サイファにだっこをねだってみた。

 ジャイロにもらった木の実は後で、足りない子にあげればいいもの。


「デゼル、あの木の実を採りたい!」


 緊張した顔で見守っていたサイファが、ほっとした顔をして、私をだっこしてくれた。

 わぁい。


「サイファー、調子に乗ってんじゃねーぞ」


 ジャイロが低くつぶやいて、サイファをにらんだ。

 ちょっと! 愛し合う二人の幸せな時間を邪魔しないで!

 ジャイロのすっとこどっこい!

 サイファが緊張した様子で私を下ろして、ジャイロから庇うように、私とジャイロの間に立った。


 ジャイロがボキっと、私が木の実を採ろうとしていた枝を折って、私に寄越した。

 なんてことをするの!


「駄目よ、枝を折るなんて!」


 少し、驚いた顔で私を見たジャイロが、いやな笑い方をした。


「きゃ」


 ジャイロが私に手を伸ばしてくるのを感じて、私が小さな悲鳴を上げたのと、サイファがジャイロの手をつかんで強い声で制止したのは、同時だった。


「やめろ!」


 うわぁ、カッコイイ!!

 サイファってほんと、並の十歳児じゃないよね。

 絶対に、今、サイファを見詰める私の目は、すごくキラキラしてると思う。


「スニール」


 え!?

 ジャイロが呼ぶと、別のクラスメイトがサイファにつかみかかったの。

 スニールの方はなんていうのか、すごくこう、暗い感じの子よ。

 オーラが病んでるの。

 ケンカとか、いかにも弱そうなんだけど、信じられない。


 『だからサイファなら殴らない』って、わかってて、つかみかかるの!?


 スニールがぎゅっと目を瞑って、サイファにしがみついたところを、ジャイロが容赦なく、サイファの顔を殴ったのよ!

 その体格で二対一って何なのよ!

 サイファにスニールみたいな弱い子は殴れっこないのに!


 怒りに我を忘れたのは、デゼルに転生してから初めてだった。

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