サイファがいてくれて、よかった。
一人だったら、頑張れなかった。
「サイファ…さま……」
夜の帳が降りた頃。
気がついた私がサイファを探して右手を宙にさまよわせると、ずっと、傍にいてくれたのか、サイファがきゅっとその手を握ってくれた。
「デゼル、気がついてよかった。何か食べられる? お水なら飲める?」
「…キノコ……サイファ様と一緒に採ってきたキノコ……デゼルと一緒に、焼いて食べよう?」
サイファがクスっと笑って、優しく私の髪をなでてくれた。
「キノコだね。わかった、焼いてくるから、少し、待っていて。お水はここにあるからね」
私がこくんとうなずくと、サイファがリュックごと、キノコを持って部屋を出て行った。
あ、サイファが行っちゃった。
私は頑張って起き出すと、後を追った。私も一緒に焼くのよ。
現世でも、いつもこうだった。
「あのクソアマ!」って、私のことを怒ってるクラスメイトの悪意が重たくて、身体にこたえた。
だけど、この世界では、サイファが傍にいてくれるから。
サイファが私のことを知っていてくれるから。
私はへいき――
私が起きてきたから、サイファはすごく驚いたけど、キノコをどうやって焼いたらいいのか教えてくれた。
サイファは上手なのよ。
「美味しく焼けました」
アツアツのキノコを頬張りながら、私が幸せいっぱいの笑顔で言ったら、サイファがおかしそうに笑ってくれた。
「よかった、デゼルが元気になって」
「うん。でも、今夜は帰らないで、サイファ様」
デゼルには両親がいないの。
どうしてなのかは、ゲームでは語られなかったし、私の記憶にもない。
両親は亡くなってしまったのか、もしかしたら、闇巫女としての魔力を持って生まれた私を神殿に売ったとか、その逆で、闇巫女になれる私を神殿に取り上げられてしまったとか、いろんな背景を思いつくけど、真相がどうなのか、私は知らない。
ただ、物心ついた頃には、身の回りのことは神官長のマリベル様と侍女達がしてくれていたの。
キノコにブロッコリーとじゃがいもを添えた料理を食べてお腹がいっぱいになると、私はふらふらとお風呂に入りに行って、歯を磨いて、パジャマに着替えて寝室に戻ったの。
その間に、いろいろ考えた。
ジャイロのこと、スニールのこと、先生のこと。クラスメイトのこと。
これで終わりじゃないもの。
これが始まり、後戻りはできない。
現世で、私がサイファの立場だった時にはわからなかったけど、サイファを見ていたら、いろんなことがわかった気がする。
「サイファ様、一緒に寝よ~」
私が枕を抱いてそう言ったら、サイファがかたまって、そうかと思えばうろたえて、ふふ、すごく可愛い。
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