サイファにデゼルの家庭教師になってもらって、十日ほどが過ぎたけど、聖女の杖を探しに行ってくれた人達は、まだ、帰ってきていない。
他国の辺境を三ヶ所も回らないとならないから、仕方がないの。
「――ねぇ、デゼルは学校には行かないの?」
私はふわっと微笑んだ。
「うん、行かない。サイファ様の教え方がわかりやすいから、行かなくていい」
ほんとうよ。
「でも――」
サイファが少し視線を下げて、それから、私をじっと見た。
「デゼルなら友達もたくさんできると思うし、これだけできたら、デゼル、一番になれると思うよ。もったいなくない?」
「ふふ、もったいなくない」
もう一度、私がやわらかく微笑んで、頬杖をついてサイファを眺めたら、サイファが少し驚いた顔をして、デゼルには敵わないなって、微笑み返してくれたの。
サイファが微笑むと、もう、うっとりする優しさなのよ。
そんな笑顔を見る度に、私、心から思うの。サイファのことが大好きだって。
学校にはね、行きたくないの。
現世でも、死ぬほど行きたくなかったけど、そんなことは許してもらえなかったから、行ったよ。
つらかった。
試験で一番なんて、いつもだったから、もういいよ。
一番になったって、何のいいこともなかったもの。
どうして全教科満点とれないんだって、叱られるだけ。
デゼルはいいなぁ。
学校なんて行かなくても叱られないし、きっと、一番になったら褒めてもらえるのかもしれないね。
それでも、行かないよ。
試験より、友達が怖…………
あれ?
「サイファ様、お怪我は、どうして……?」
サイファはよく、怪我をしているの。
あんまり、やんちゃなイメージじゃないから不思議だったけど。
サイファは、帝国が攻めてくることを教えてさえ、逃げないで闘おうって言ったもの。
そういう人は――
「……なんでもないよ、生活の授業とか……」
ふっと、サイファが目を逸らした。
たぶん、本当のこと、言えないのね。
この世界の小学校は、国語と算数と生活だけで、時間も平日の午前中だけ。
生活の実技は、森や野原で食べられる草や木の実を探したり、釣りをしたりして、その場で料理して食べたりするの。
だから、私なんて本当によく怪我をするけど。
「やっぱり、デゼルも学校に行こうかな。――サイファ様と同じクラスに編入できたら、行きたい」
サイファが息をのんで私を見た。
三年、飛び級するつもりだってことに驚いたのかもしれないけど。
それとも、私がサイファと同じ、庶民向けの小学校に行くつもりなことかな。
でも、きっと――
「そんな、四年生の生活の実技とか、デゼルにはまだ無理だよ」
「背が届かなかったら、サイファ様が助けて下さいね」
やっぱり――
真っ青になったサイファの恐怖が、痛いくらい伝わってきたから。
「サイファ様のいないクラスには通いたくないの。デゼルができない、生活の実技をなるべく教えて下さい。来週、編入試験を受けてみますね」
「来週って!」
「サイファ様、今から教えて下さい」
言って、サイファの手を取った。
こっそり、闇魔法をかけて、サイファの気持ちを落ち着かせるために。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!