悪役令嬢と十三霊の神々

悲劇の悪役令嬢に転生してしまった少女はうっかり、町人Sに恋をした。
冴條れい
冴條れい

第9話 学校は怖いけど

公開日時: 2021年9月26日(日) 21:15
文字数:1,251

 サイファにデゼルの家庭教師になってもらって、十日ほどが過ぎたけど、聖女の杖を探しに行ってくれた人達は、まだ、帰ってきていない。

 他国の辺境を三ヶ所も回らないとならないから、仕方がないの。


「――ねぇ、デゼルは学校には行かないの?」


 私はふわっと微笑んだ。


「うん、行かない。サイファ様の教え方がわかりやすいから、行かなくていい」


 ほんとうよ。


「でも――」


 サイファが少し視線を下げて、それから、私をじっと見た。


「デゼルなら友達もたくさんできると思うし、これだけできたら、デゼル、一番になれると思うよ。もったいなくない?」

「ふふ、もったいなくない」


 もう一度、私がやわらかく微笑んで、頬杖をついてサイファを眺めたら、サイファが少し驚いた顔をして、デゼルには敵わないなって、微笑み返してくれたの。

 サイファが微笑むと、もう、うっとりする優しさなのよ。

 そんな笑顔を見る度に、私、心から思うの。サイファのことが大好きだって。


 学校にはね、行きたくないの。

 現世でも、死ぬほど行きたくなかったけど、そんなことは許してもらえなかったから、行ったよ。

 つらかった。

 試験で一番なんて、いつもだったから、もういいよ。

 一番になったって、何のいいこともなかったもの。

 どうして全教科満点とれないんだって、叱られるだけ。


 デゼルはいいなぁ。

 学校なんて行かなくても叱られないし、きっと、一番になったら褒めてもらえるのかもしれないね。

 それでも、行かないよ。

 試験より、友達が怖…………


 あれ?


「サイファ様、お怪我は、どうして……?」


 サイファはよく、怪我をしているの。

 あんまり、やんちゃなイメージじゃないから不思議だったけど。


 サイファは、帝国が攻めてくることを教えてさえ、逃げないで闘おうって言ったもの。

 そういう人は――


「……なんでもないよ、生活の授業とか……」


 ふっと、サイファが目を逸らした。

 たぶん、本当のこと、言えないのね。


 この世界の小学校は、国語と算数と生活だけで、時間も平日の午前中だけ。

 生活の実技は、森や野原で食べられる草や木の実を探したり、釣りをしたりして、その場で料理して食べたりするの。

 だから、私なんて本当によく怪我をするけど。


「やっぱり、デゼルも学校に行こうかな。――サイファ様と同じクラスに編入できたら、行きたい」


 サイファが息をのんで私を見た。

 三年、飛び級するつもりだってことに驚いたのかもしれないけど。

 それとも、私がサイファと同じ、庶民向けの小学校に行くつもりなことかな。


 でも、きっと――


「そんな、四年生の生活の実技とか、デゼルにはまだ無理だよ」

「背が届かなかったら、サイファ様が助けて下さいね」


 やっぱり――

 真っ青になったサイファの恐怖が、痛いくらい伝わってきたから。


「サイファ様のいないクラスには通いたくないの。デゼルができない、生活の実技をなるべく教えて下さい。来週、編入試験を受けてみますね」

「来週って!」

「サイファ様、今から教えて下さい」


 言って、サイファの手を取った。

 こっそり、闇魔法をかけて、サイファの気持ちを落ち着かせるために。

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