静かな朝にアレスは嫌気が差していた。
ティリアなら寝坊助なアレスを起こしにくる。
なのにあれからティリアの姿はない。
もういないなんてアレスは受け付けなかった。
絶対に行方不明のティリアを見つけると思っていた。
だからこそに今日と言う今日は旅に出たかった。
一度目の旅は長くなる。
そんな気がした。
胸騒ぎがアレスの決意に火を点ける。
アレスは既に着替え終わり鞘と剣を背負っていた。
密かに鞘と剣は武具屋から雑用の報酬として頂いた。
採寸は丁度良く付け心地も良かった。
自部屋から出ると廊下を渡り台所を目指した。
目的は母親を説得する事だった。
大丈夫だと胸を撫で下ろし扉のない部屋に入った。
「アレス。起きたのね。朝は食べるわよね?」
今は食べるなんてどうでもいいとアレスは思った。
それよりも今以上に今後の事を話したかった。
だからこそにアレスは思いを言おうと意気込んだ。
「母さん! 俺……旅に出たい!」
ちゃんと向き合う為にアレスは母親の傍で止まっていた。
握手するにはほんのちょっと遠いが会話は出来た。
パンの上に目玉焼きを乗せようとしたが動きが止まった。
「母さん。俺はティリアの為に――」
静かにパンの上に目玉焼きを乗せると振り向いてきた。
母親の眼差しはまるでアレスを試しているような感じだった。
威圧に負ければ旅に出たとしても何事にも負ける。
「母さん! 俺! 本気だから! 俺! ティリアを見つけるから!」
もう既に断られる前提になっていた。
確かに母親の態度はあからさまな感じだ。
でもどこかだれかと思い被せているようだ。
「いいわよ、どうせあの人みたいに勝手に行っちゃうんだから」
あの人とはアレスの記憶にはない。
故にアレスは母親がなにを言っているのかが解らない。
だけどアレスの旅立ちに反対する様子はない。
「あの人? あ……でも」
アレスは思わず首を傾げ謎めいた。
だが今の論点はそこではないと振り出しに戻った。
どうやらアレスの旅立ちは許可が下りたようだった。
「アレス! いい? あの人と出会ったらよろしくね」
まるで全ての未来が見えているかのような雰囲気だ。
良くは解らないがアレスは旅が出来ると舞い上がった。
雨上がりの空に虹が出たかのような気持ちの良さだった。
「有難う! 母さん! 俺! 村長に会ってくる!」
だが旅の許可は村長も必要だった。
無暗に旅の許可を出せば村が滅びると思っていた。
もし許可が下りたら当面の最終目的地は帝都方面になる。
なぜなら風の噂で少女が連れられ帝都に向かったとか。
これだけでティリアと決めつけるのはどうかと思う。
でも追いかける価値はあるとアレスは心に決めた。
勢い良く玄関を開け飛び出した。
今にも天翔る鳥のようにアレスは籠を出た。
アレスの軽快な足取りは翼を思わせた。
この世に天使がいるのならそれはきっとティリアだ。
仮に飛べなくなった天使でもアレスは愛する自信があった。
アレスは失って初めて気付いた。
こんなにも近くにいてくれて文句も言わないで健気に笑ってくれて。
それなのにアレスはなにもしてやれなかったと嘆き喚き疼いていた。
だけど今は違うと言わんばかりにアレスは村長の家を目指した。
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