~ギルド超 猫~
ギルドに戻ってきた三人。
夢のリゾートが名前一つでこんなにも見方が変わってしまうものなのかと、入り口で茫然とギルドを眺めるジーク達であったが、こんな時でもしっかりお腹が減るもので、とりあえずギルドで腹ごしらえする事にした―。
―――バクッ!バクッ!バクッ!!
テーブルのある椅子に座る三人。レベッカはコーヒーを飲み、創造神もお茶を飲んでいる。
「…猫のくせに凄い食欲。」
猫ジークは器用にお箸を使いカツ丼をバクバク食べていた。
「食欲に猫も人間も関係ないだろ。まだまだ育ち盛りなんだよ。」
普通の人間のように食べる猫の姿に、今でもふと違和感を覚えるレベッカであった。
「…ところで創造神様。」
「なんじゃ?」
「仲間候補ってどこにいるの?何人ぐらい?」
「皆バラバラじゃがのぉ…一応デューエルに必要な人数が五人じゃから、ジークを除く四人に目星を付けてみたんじゃ。ワシが知る現状の魔導士の中では、この四人が有望じゃ。」
「へぇ~。別の大陸か?」
「そうじゃ。四人とも別の大陸じゃが、それそれの大陸では一、二を争う強いギルドに所属している魔導士達じゃ。」
「やっぱ強いのね!」
「まぁ全員俺程ではないけどな!あ~…食った食ったぁ。ごちそーさま!」
「アンタが強いのは分かってるけど、本当に一番なの?」
「当り前だろ!なんせ俺はマスタークエストをクリアした唯一の魔導士だぜ?」
ジークは誇らしげに言う。
「まぁアンタだけ強くても意味ないけどね!チーム戦だし!」
(…そこじゃな問題は…。残りの四人がどこまで強くなるか…古来から伝わるデューエル通りなら、“ジーククラス”が五人必要じゃ…。今と昔では環境も大分変ったから一概には言えんけどのぉ…。竜族の実力も未知数…。不安ばかりじゃのぉ…。)
創造神はそんな事を考えながら、目の前のテーブルにあるお茶を飲んだ。
「――ジイさん!飯も食ったしとりあえず行くか!」
「ほぉ。妙にやる気だのぉ」
「他の大陸のお姉ぇ……じゃなくて魔導士を早くメンバーに加えないと。」
「よいよい。お前さんはそういう奴じゃ。」
ジークのお姉さん目当ても最早受け流す創造神とレベッカ。
「よし。出発だ!」
「楽しみ~♪他の大陸なんて行った事ない!どんなところかしら!」
「それじゃぁ行くぞぃ。」
創造神は魔法で瞬間移動する――。
魔法の光が三人を包んでいく…。
かと思いきや――。
「――あ!」
突如創造神が声を出す。
「どうした?」
「よくよく考えたらワシらが行かんでも、四人をここに集めればよいか。そっちの方が話が早い。」
「…そりゃそうだな。そうしよ。」
ジークと創造神が話をそっち方向にまとめようとしたが、それをレベッカが怒鳴るように遮った。
「何バカな事言い出してんのよ!!!」
「「…え???」」
「言ったでしょ!私は色んな世界を見に行きたいし、色んな人や文化とも触れ合いたいの!それにもう体が冒険モードに入ってるんだから、候補をここに集めるだけなんて今更そんなの無しよ!!仲間集めなんてRPGの醍醐味の一つでしょ!!なに端折ろうとしてんのよ!!」
「いや、そんなに怒らなくても…。」
軽はずみな発言が余程レベッカの逆鱗に触れたのか、勢いが止まらないー。
「大体ねぇ!!今回はこっちがお願いしに行く立場でしょ!アンタらのバカな先祖達のせいでね!!それ分かってんの⁉」
「「ゔッ…!」」
ぐうの音も出ない創造神とジーク。
「なのにそれを棚に上げて“向こうから来てもらえばいい”ですって?どの口が言ってんだッ!!あぁ?甘ったれるな!!」
「「…は、はいッ!!」
「その四人にだってそれぞれ人生があるでしょ!!それを突然別の大陸まで飛ばされた挙句に、ジジイとエロ猫の世界を救う話なんて誰が聞くのよ!!創造神だからって何をしてもいいのか!あ?どうなんだ!!」
レベッカの表情が、あの時お城で見た“悪魔レベッカ”の顔になっている事に創造神は気付く―。
「…い、いえ…そういうわけじゃ…。すいません!!偉そうでした!!」
(…とんでもない地雷踏んじゃった…猫だけに…踏んじゃった…)
この時ジークはとんでもなくアホな事が頭を過った―。
「そう!!分かればいいのよ分かれば!じゃあさっさと行くわよ!“私達が”!!」
「はい!直ぐに行きましょうレベッカ様!!えーーい!!」
―――ビシュンッ!!
創造神は目にも留まらぬ超スピードで魔法を繰り出し、三人は一瞬で消えた―。
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~アレフ大陸・とある場所~
―――ビシュンッ!!
創造神の瞬間移動で三人は六大陸のうちの一つ、アレフ大陸に着いた。
「――どこ?」
悪魔レベッカから元に戻ったレベッカが聞く。
そこには数秒前と全然違う、キラキラ楽しそうな顔をしたレベッカがいた。
「アレフ大陸じゃ。」
「アレフ大陸かぁ。前に二、三回依頼で来たことあるな。」
「見て!アレってこの大陸の国⁉」
レベッカが指差す方向には、遠くからでも分かる程大きく、多くの人で活気づいている国が見えた―。
「そうじゃよ。アレはフレア王国。ギル王国と似てて、人も街も活気がある王国じゃわぃ。」
「早く行きましょうよ!なんか珍しい物あるかしら!」
レベッカはどんどん走ってフレア王国へと向かって行く―。
「…やれやれ。はしゃぎ過ぎな子供だなぁ。迷子になられたら困るぞ…俺達も早く行こうジイさん。」
「そうじゃの。ホッホッ。まぁ楽しそうで何よりじゃ!」
ジークと創造神がレベッカの後を追おうとしたその時――。
―――ごぎゅるるるるぅぅるるるるずごごごぉぉごぉ!!!!!
「「・・・・・・???」」
「ジイさん今オナラしたか?」
「何を言うか。あれがオナラの音だったら間違いなくワシ病気じゃわぃ。」
「確かに。」
「お前さんの腹の音ではないのか?」
「さっきカツ丼食ったばっかだぜ?いくら育ち盛りでもそれは燃費悪すぎるだろ。」
「じゃあ一体何の――⁉⁉」
辺りをキョロキョロしていると、創造神の視界の先に“何か”が動いた。
「………人か??」
二人が目を凝らして見ると、そこにはゾンビのように地面を這ってる男の姿が。
男はジークと創造神に気付いた。
「――何か…食い物を……恵んでく…れ…。」
―バタッ……。
男は空腹で力尽きたようだ。
「「・・・・。」」
困ったように目を会わせるジーク達。
「死んじゃった…?」
「いや。生きておるぞ。」
「どうすんの?」
「どうするって…いくらなんでもこのままにしておけんじゃろ。」
「やっぱそうだよなぁ…。なんか凄い面倒くさい事起こりそうな予感…。」
皮肉にも、この悪い予感が当たるとはまだ知らないジーク達。
これが、ジークと男の最初の出会い―。
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