~フレア王国・街外れ~
ところ変わらず、ネコラ―紹介を終えたジーク達は王都の方へと向かって歩いていた。
「――それにしても…。未だに自分が猫になったなんて信じられねぇ。」
紅正の言葉に、他の猫三匹も同じことを思っている。
今までと違う目線の高さに四足歩行。人肌とはまるで違う全身もふもふに覆われた体。
一瞬にして全てが変わったのだから無理もない。
「そのうち慣れるよ。ちなみに…四足歩行も出来るが普通に二足歩行も出来るからな。」
「マジ?……あ!本当だ!」
ジークに教えてもらった紅正がすぐさま二足方向を試すと、なんの違和感もなく人間の頃と同じ感覚で歩く事が出来た。
「そういう事は先に教えてくれ。」
聞いていたシドもつい猫の先入観から四足歩行をしていたが、二足歩行に変えた。
キャンディスとグリムも二足歩行スタイルに切り替えた。皆スタスタと歩くが見た目は猫。
「やっぱこっちの方が歩きやすくていいわね♪」
自分の周りに二足歩行する猫が五匹。この異様な光景を見たレベッカは今更ながら苦笑いしか出来なかった。
「でも、人目に付くとこでは普通の猫モードじゃないと危ないぞ。俺は二足歩行で喋ってるとこ見られて誘拐された挙句売り飛ばされそうになったからな(笑。」
「笑い事じゃないぞそれ…。気を付けよう…。確かに喋る猫なんてレア過ぎるもんな。」
「そういえば私、猫になった自分の姿見た事ないわ…。不思議な事に服はそのまま着てるし。どんな感じかしら?」
「確かに!それは俺も気になる。良くも悪くも俺の刀も猫サイズに合わせてくれたのか、この体でもジャストの長さになってるし。」
「お前さっき湖で自分の顔映ってなかったか?」
早朝湖で顔を洗っていた紅正。一緒にいたジークは何気なく水面に姿が映っていた事を思い出した。
「…はッ!見るの忘れた!…全然気にしてなかった…。」
「あなた結構馴染んでるじゃない猫に。普通一番に気になるでしょ。」
「そんな早く馴染む訳ないだろ。猫になってるのは分かってるから、外見は後で鏡でも見ればいいじゃん。この体で唯一分かってるのは、自分の毛なのにもふもふ過ぎて気持ちいいって事だけ!」
「認めたくないけどそれは正しいわ。もふもふがクセになる。」
「だろ?ちなみにキャンディス、お前毛の色茶色だぜ!」
「そんなの腕…というか前足?見れば分かるわよ。紅正は黒ね。」
「そうみたいだな!ひょっとして髪色が関係してるのかもな。服もそのまま猫サイズになってるし!」
「―!言われてみれば…。」
キャンディスは前を歩いていたグリム猫とシド猫に目を移した。
紅正が言った通り、黒髪の紅正は黒い毛。グリムは深緑の髪だったが、それがそのまま毛の色になっている。
シドも黒髪だった為か、毛の色も黒だ。
紅正とシドの違いと言えば、元の身長も影響しているのか、シドは皆よりスラっと細長い手足をしているし、髪が長かった紅正の方が毛が長く、前髪…ではなく顔上の毛をいつも通りに束ねている。
一番髪が長いキャンディスと短いグリムを比べると、毛の長さも一目瞭然だ。
キャンディスの美貌は猫になっても反映されており、毛質がツヤツヤふわふわで高級猫に見える。
「―お前だけ元の姿見た事ないけど、髪シルバーなの?ジーク。」
「ああ。そうだよ。」
「そういえば私もジーク見た事ない!」
レベッカも思い出したかのように会話に入ってきた。ジークとレベッカが出会った時も既にジークは猫。
本来のジークの姿を見た事あるのは創造神だけだった。
「へぇ~気になるわねぇ!凄いイケメンだったりして!」
「そりゃあもう!キャンディス姉さんが一目惚れするぐらいの男ですよ僕は!」
ジークは自信満々に言い放った。
「いや。本当はたいした事ない超普通男かも(笑。むしろオタク気質の根暗クンか?」
「そんなわけねぇだろ!!そこそこのビジュアルだ!」
「自分で言ってる奴は絶対ダメ(笑。」
「なぁ~んだ。やっぱりただのスケベだったのね!」
「そんなわけねぇって言ってるだろ!!」
「――おい!そんなどうでもいい話よりこれからどうすんだ?」
少し前を歩いていたグリムが、振り向きながらジーク達に問いかけた。
「デューエルに参加するのは兎も角、“普通の生活”の方はどうするつもりだ?」
「普通の生活って…?」
「バカか…よく考えろ。俺もキャンディスも戻らないなんてなったら、ギルド中…いや、それ以上に余計な事が知れ渡るぞ。」
「そりゃそうだ。。」
「こんな話、現実味が無さ過ぎて逆に誰も信じないだろうけど、俺達が猫の姿になってるのは事実だからな。場合よっちゃ誤魔化しようがねぇ。疑われるぞ。」
ここまでドタバタだったジーク達に、少しづつ目の前の問題が浮き彫りになってきた。
グリムの言う通り、一般の人達ならつゆ知らず、マスタークエストや創造神に理解ある魔導士達がこの話を聞けば、少数だが話を信じる者もいるだろう。
そして現実に、自分たちのギルドのトップとも言えるグリム達が、あろうことか猫の姿になってしまったとバレた日には、余計な混乱を招きかねない―。
「それは困るわね。私も家族に余計な心配掛けたくないし、弟や妹の面倒も少しは見ないと。それに友達にも誤魔化しきれないわ。」
「俺も同じだ。」
キャンディスの意見にシドも同意する。
「なんだ?お前意外とホームシックになるタイプか。繊細だな。」
「やめなさいグリム。人にはそれぞれ事情ってのがあるのよ。アンタみたいに好き勝手自己中出来る人ばかりじゃないの。」
シドを冷やかすように言ったグリムに対し、キャンディスが注意する。
「はは~ん(笑。やっぱお前問題児だから、差し詰めキャンディス姉さんに子守りされてるお子ちゃまってとこか。偉そうだもんなぁお前(笑。でも羨ましい~。」
「ああ?テメー喧嘩売ってんのかコラッ!!」
怒られたグリムを更にジークが冷やかす。
各々事情がある中、とても猫の姿では帰れない。この切実な問題を打破するべく、「ここぞ!」と創造神が手を挙げて出てきた。
「――それはワシに任せてくれぃ!!」
胸を張る創造神。本来なら、万物を操る絶対的な存在である創造神―。人から崇められる神の存在だ。
だが、悲しいかな…ここにいる誰もが一切信用していなかった―。
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