□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□
~ギル王国王都内のはずれ~
賑やかで人の多い王都中心部から離れた所ー。
人通りが減ったかと思いきや、ジークを誘拐した男たちが更に奥に行くと、そこには結構な数の人でにぎわっていた。
いわゆるチンピラや半グレと言われる様な輩達がたむろしている、街から一番離れた治安の悪い場所。
そこのとある店に二人組の男達は入っていった。
店の看板には親切にデカデカと「闇ショップ」と書かれていた。
「――よぉ。マスター!店の調子はどうだい!」
「…なんだお前達か。」
闇ショップのマスターに話しかける男。
マスターと呼ばれた男はふくよかな体系にスキンヘッドで口ひげを生やしたオジサン。
店のカウンターで座りながら酒を飲んでいるようだ。
「どうしたんだ?」
「ヒャッヒャッ。とんでもねぇブツを捕まえたぜ。見せてやれ!」
「はい兄貴!」
二人組の男はガサガサと袋の中からジークを出した。
「なんだこの猫?」
「驚くなよ(笑?見た目はただの猫だがなんと!言葉を喋る!しかも二足歩行で歩くぜこの猫!すげぇだろ!」
マスターと二人組の男、計三人が一斉にジークを見た。
「ニャ~オ。」
ジークは普通の猫モードになった。
「……ただの猫じゃねぇか。」
「そんな事ねぇ!ほら!喋ってみろよ!」
男がジークに言うがジークは聞かない。
「ニャー。」
「ふざけんじゃねぇ!さっき歩いて喋ってただろうが!!」
「ニャ~オ。」
「…………。」
マスターは呆れ顔だ。
「コイツ売られると分かってわざと猫になってますよ兄貴!」
「なんだと!!猫のくせに生意気だな!コラぁ!!」
ドガッ!!
男はジークを蹴飛ばした。
蹴られて壁まで吹っ飛んだジークは思わず声が出てしまうー。
「…痛って!」
「ほら!喋った!!」
二人組の男達はハイタッチで喜んでいる。
「動物虐待だぞお前…。」
フラフラッっとジークが立ち上がった。
「ほぅ…。本当に立って喋ってるな。」
「な?言っただろ!激レアモンスターじゃねぇか??いくらだ??」
「焦るんじゃない。…確かに喋る動物やモンスターは珍しい。それだけで高値が付くこともある。ちょうど良かったな。お前らのボスももうすぐここに来る。」
「え。そうなのか?ボスは一体何しにここへ…」
「今日は月に一度の“オークションデー”だ。普通の取引より客が多い分高値が出る。ラッキーだったな。お前らのボスもとんでもないブツ手に入れたらしいぞ(笑。」
「マジか!とことんツイてるじゃねぇか!!」
「やりましたね兄貴!!」
喜ぶ男達をよそに、ジークがマスターを睨みつけるー。
「…胸糞悪い事してるなぁ。」
「状況が分かってるのか。賢い猫だな。」
「まさか他にも動物や生き物で売買してるのか?」
「当り前だろ。金になるからな。お前みたいな猫もモンスターも“人間”も!売れる物は売る。買いたい奴らもいるからな。需要と供給が成り立ってんだよ。」
「吐き気がする場所だ。……よし。予定通り閉店させた方がいいみたいだ。」
「…??何訳の分からない事を言っているんだこの猫…」
…カランカランっ…!!
ジークとマスターが話していると、店の奥の方から音が鳴った。
「来たみたいだな…。」
音のした方を見るマスターと男達。つられてジークも同じ方向に視線を移す。
すると、物凄くガタイのいい男が現れた。
「「ボス!!」」
男達は声を揃えて言った。チンピラ共のボスらしい。
「なんだ。お前らも来ていたのか。」
「はい!喋る猫を捕まえまして!」
「そうか。…マスター!オークションの準備は出来ているか?」
「ああ。勿論。」
そう言うとマスターは徐に、カウンターにあるボタンを押した。
…ブワンッ…!
ボタンを押すと突如壁一面にプロジェクターが映し出された。
そこには二十人程の人達も映っている。
「今回も集まっているな。…今日は珍しいものが入ったぞ!せいぜい楽しんで帰ってくれ!」
マスターが画面に向かって喋った。
「待ってたぞ!オークション!」
「今回は何がある?」
「俺は人間の奴隷が欲しいぞ!何人いる?」
「前回のモンスターの仕入れで儲けたわぃ!!」
画面に映るのはオークションの常連客だろう。
初めてではないのがジークにもよく分かった。
「今回のオークション!ここにいる“ガンテツ”が大物を仕入れたらしい!」
マスターがガンテツと呼んだ男。先程現れたガタイのいい男。ボスと呼ばれていた奴だ。
ガンテツが口を開く。
「…集まっているな!今回のブツはここにいる全員が驚くことになるだろう!…おい!連れてこい!!」
ガンテツがそう言うと、奥からガンテツの手下が女の子を連れて入って来たー。
「ン”ン”ッ…!!…ン”ーッ…!!」
女の子は口にテープを張られ、両手はロープで縛られていた。
スタイルのいい体に整った顔。ブロンドの髪が抵抗で揺れている。見た目はジークと同い年ぐらいだ。
「「「…!!!!」」」
それを見た何人かが明らかに驚いた表情を見せた。
「ガハハハッ!もう気付いてる奴がいるなぁ!…そうだ!!今回のブツは今ギル王国の超目玉!!“王国四姉妹の一人、レベッカ王女”!!」
「「「おおーー…!!」」」
画面の向こうで歓声が上がる。
(…なに…⁉…あれが噂の美人四姉妹のうちの一人だと…!)
ガンテツの言葉にジークも驚く。
「噂通りの美女だなぁ!!」
「ブロンドの女はたまらん。。」
「こりゃとんだ上玉だ!」
「闇オークションでも過去トップクラスのブツじゃないか(笑?」
まさかの王女登場に、オークション参加者たちが異様な盛り上がりを見せた。
「このブツは一番に高値を付けた奴で即決だ!!どこの誰でもいい!!とにかく金額が一番高い奴だ!!」
ガンテツが煽ると始まったばかりのオークションの熱気はピークに達したー。
「5,000,000B(ベル)!!」
「10,000,000B(ベル!!」
「俺は20,000,000B(ベル)」
B(ベル)はこのイリーガル共通の通貨だー。
ギル王国の王女とあってなのか、値がどんどん吊り上がっていく。
「ガハハハハハハッッ!!!」
「…ン“ン”ン”ーー!!…ン“ン”…!!」
王女は必死に逃げようとしているが力では到底敵わない。
「うるせぇ王女だな。。もっと王女らしく行儀よく大人しくしてな。」
「ン”ン“ン”!!!」
…ドンッ!!
王女は最大の抵抗としてガンテツの足に思いっ切り蹴りを入れた。
だが全く効かない。
「マッサージにちょうどいい強さだな(笑。それにしてもさっきから五月蠅過ぎる。。」
そう言うとガンテツは雑に王女を壁に突き飛ばしたー。
……ドカッ…!
「…ン”ン”⁉⁉」
飛ばされた王女は壁にぶつかりその場にゆっくり座り込んだ。
「……おい。お前本当に王女なのか…?」
ちょうど王女が飛ばされた先にいたジークが、声を潜めながら聞いた。
「……!!ン”ンン“ンンッン”!(猫が喋った!)」
「シー!静かに。質問に答えろ。お前は王女か?」
王女はウンウンと頷く。
「俺の“お姉さんレーダー”が反応しねぇなぁ…。お前俺と同い年か年下だな。いくつ?」
喋る猫にも言っている事にも不信感しか生まれなかったが、とりあえず王女は後ろで縛られている腕をジークの方に見せて指で「2」「1」と表した。
「二十一?じゃあ俺と同じか。やっぱりな。で?お前は姉妹の中で何番目だ?」
問われたレベッカは再び指で「4」と表した。
それを見たジークは何だか嬉しそうである。
「うっし!って事は残りの三人は間違いなく“お姉さん”!…まさか四つ子なんてオチは無いよな?」
やはりこの猫の質問の真意が分からないが、王女とりあえず頷いた。
「よしよし!これが最後の重要な質問…。お姉さん達は美人か?」
…コクンっ…。
王女は頷いた。
そして理解した。この猫はただのスケベ猫だと。。
だが、そんな風に思われているとはつゆ知らず、ジークは浮かれてこう言った。
「よっしゃ!そうと分かれば直ぐに行くぜ!美女お姉さん達がきっと俺の助けを待っている!」
「……………。」
これが、ジークとレベッカ王女の最初の出会いーー。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!