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~異世界「アナザー」~
「――大蛇よ。“その後”どうじゃ?」
「はい。問題なく進んでおります“創造神様”。」
「そうか。期待しとるぞぃ。イリーガルの人間達に制裁を加える時が来たわぃ。」
「勝つのは“我ら竜族”であります。」
「期待してるぞ大蛇!」
大蛇と呼ばれた男は不敵な笑みを浮かべていたー。
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~レベッカの部屋~
「―――なにッ⁉竜族は別の異世界にいるだと⁉」
「そう。」
「そう。…じゃねぇよ!!お前大事な事は先に言え全部!!」
いつも通りジークが創造神を怒鳴りつけるー。
「話が複雑じゃからな。こういうのは順を追って――」
「お前色々情報持ってんなぁ!!“何も手掛かりない”って言ったからタイムスリップしてまで見に行ったんだろ!何もないどころか“エンコが俺の先祖”だの“竜族の居場所”だの全部知ってるじゃねぇか!」
「待て待て!落ち着くんじゃ。」
「落ち着く状況じゃないだろ!」
「ちょっとジーク!一回黙りなさいよ!創造神様が話そうとしてるでしょ!」
「チッ!…なら早く説明してみろよ!」
「ホントにせっかちで短気な奴じゃ…。ええか?まずお前さんの先祖と分かったのは偶然じゃ。色々辿ったらそこが繋がった。それだけじゃ。それとこっちの方が重要なのじゃが、さっき言った“別の異世界”の話じゃ。」
「イリーガル以外にもやっぱあるんだね!世界が!」
「ああ勿論じゃ。だが、このイリーガルのように“生命”が存在する惑星は数少ない―。人間のような“文明”を持つ惑星など更に希少じゃ。その一つが、異世界『アナザー』。」
「そこにいるのか?竜族の奴らは。」
「―ん?でも何で別の所にいるの?さっき見に行ったXXX三六九年では一緒にいたわよね?エンコとクリカラとかいう人達。あの時だけたまたまいたの?旅行とか?」
「いいや。レベッカの言う通り、あの時代には人間も竜族も全て一緒に住んでいたんじゃ。このイリーガルにのぉ。」
「え…⁉それじゃあなんで別々になっちゃったの?」
「それはのぉ…エンコ達が生きていた時代から更に数百年後、この時代はワシら創造神の歴史の中で最も最悪な“暗黒時代”とよばれておる…。」
「「………。」」
創造神の表情が悲惨さを物語っていた―。
「争いに争いが重なったこの時代はもう誰にも止められんかったそうじゃ。この時代に、エンコとクリカラの様な存在がいたらああはならなかったじゃろうなぁ…。じゃが、全ては巡り―。良い時もあれば悪い時もある自然の摂理じゃ…。皮肉な事に、エンコとクリカラが築いた数百年以上の、人間の魔導士と竜族の魔導士の深い絆の歴史にも亀裂が入った―。暗黒時代はこの人間と竜族の仲間割れが全ての発端となっていたそうじゃ。」
「……でもだからってよ…どうやってもう一つ世界が生まれたんだ?」
「この時代は“例外”であった。少し判断が遅ければ全ての生命の危機じゃったんじゃ。それを判断したその時の創造神と、他の惑星の創造神達が神魔法で別の惑星を生み出したんじゃ。そして、そこに竜族を飛ばしたんじゃ。」
「…っは~。話のスケールがデカすぎて想像も出来ん。」
「それでどうなったの?争いは収まったの?」
「ああ。直ぐにではないがのぉ。人間と竜族が発端とはいえ、この時は他の種族やモンスター達も争いに参加し、一つ終わればまた始まり―。それを繰り返していたからのぉ。竜族が消えても他の争いが無くなっていくのに何年か掛かったそうじゃ。」
「聞いてるだけでヤバい時代ね…。」
「それじゃーあの誓約書はどうなってるんだ?こっちに現れたって事はひょっとして向こうにも…?」
「そうじゃ。アナザーの創造神に確認したら向こうにも誓約書が出てきたらしい。」
「マジかよ…。その話でいくと竜族の奴ら相当恨んでんじゃねぇか?」
「そんな事はないぞ。あくまでそれはその当時の出来事じゃからな。それから何千年と経っている。この歴史自体
誰も知らんわぃ。その証拠に、ジークもレベッカも竜族を恨むどころか知らんかったじゃろ?」
「確かに。」
「アナザーの人類やモンスター達もそうじゃ。時が経ちすぎてそんな事は誰も知らん。このイリーガルと同じ、皆平穏に暮らしておるわぃ。」
「そうなのか…。そんな事聞くとますますデューエルなんて迷惑だよなぁ。…つか、竜族って“人間”だよな?クリカラも普通に人間だったし。」
「みんな人間じゃよ。じゃが竜族は名の通り“竜(ドラゴン)”の血を引く者達じゃ。これまた大昔じゃが、ドラゴンと人間の間に子供が生まれ、何百年、何千年と子孫を増やしてきた。見た目は人間とほとんど変わらん。尻尾や翼が生えたのもおるけどのぉ。後、人間よりも体が頑丈じゃ。体格や筋力も強靭じゃな。その分人間の方が魔力や魔力操作に長けているがのぉ。」
「へぇ~。会ってみてぇな!その竜族達に。」
「また一緒になれる時がくれば全て解決じゃがのぉ。」
「きっとなれるわよ!だって同じ人間だし、元々一緒だったんだから!ね!」
「珍しく意見が合ったな。俺も元通り一緒にさせてみたいなぁ。人間と竜族が暮らす世界に!」
「…………。」
この時創造神は言葉を失った――。
目の前で話すジークとレベッカの他愛もない会話に、“イリーガルとアナザーが再び一つになる”という壮大なビジョンが一瞬……。
本当に一瞬だけ、創造神にはその世界が見えた――。
(…まさかのぉ……)
あまりの事の大きさに、創造神も一人で微笑んでしまった―。
「何にニヤけてんだジイさん?」
そんな創造神にジークが話しかける。
「まさかジークみたいにイヤらしい事考えていたんじゃ…。」
「なんだよ俺みたいって!」
「アンタの事だからどーせ“竜族のお姉さん狙い”でしょ?」
「―チッチッチッ。考えが甘いな小娘(笑。俺は“竜族”だけじゃなく“アナザー全てのお姉さん”狙いだ!」
「くたばれ。」
「イリーガル中の美女にアナザーまで加わったらと考えると……。グフフフッ♪こりゃ人生一回じゃ足りんなぁ~。」
「猫の顔で鼻の下伸ばしてんじゃないわよ気持ち悪い。」
「よっしゃー!急にやる気が漲って来た~!」
「現金な奴じゃ全く…。」
「私も凄い気になる!そのアナザーってところ!」
「これは願い変更だな…。」
「何が?」
「デューエルで勝った方には“何でも願いが叶えられる”!俺はそれでイリーガルとアナザーをまた一つにして、今度こそハーレム生活を手に入れる!!!」
「キーモッッッ!!ていうか何でアンタ一人で願い叶えてもらおうとしてんの!」
「これこれ…。イリーガルとアナザーを一つになんて、そんな簡単に言うとるがのぉ…色々問題もあるぞぃ。」
「大丈夫!元は一つだったんだからまた仲良く出来るさ。」
「ねぇ!一つにするのは賛成だけど後半の願いは絶対認めないからね!!……でも待って?アナザーの人達はそんな事望んでないかもしれないじゃない?」
「ん?…そう言われると…確かにそうだけど…。まぁ、本当に一つにくっ付けるかはまたその時決めればいいじゃねぇか。な!お姉さんに会えるって期待ぐらい持ってないとデューエルまでモチベーション保てないだろ?(俺の願いは絶対邪魔させないぜぇ!!ヘッへッへッ♪)」
「その願いは絶対認めない。」
「楽しみだなぁ~♪アナザーのお姉様方♪」
思うところそれぞれに、ジーク達はデューエルに向けて少しづつ前へ進みだした―。
これから待ち受ける壮絶な出来事を、まだこの時は誰も知らずにいるのであった―。
ジーク、レベッカ、創造神が抱く平和とは裏腹に、もう一つの異世界では虎視眈々と“イリーガル消滅”を企てているのであった――。
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