「確か本部は、私の住んでいる武蔵の中心部だったわね。駅は英雄公社駅に行けばいいのね」
(しかし駅名になるほどに英雄公社って凄いのね……よく私が入れたものだわ。やっぱりお父さんたちの功績や娘だからなのかしら?)
それほど能力が高くもなく魔法も未だに上手く扱えてはいないので、よく試験を通って研修を終えられたなと電車に乗りながら考えていた。
「琴音のことは言えないけど、私もまだ魔法を上手く扱えていないのよね。この属性を早く扱えるようにならないと」
掌に小さな光を出現させると数秒とも持たずに拡散して消えてしまったので、深いため息をついて空いた椅子に座る。
「地元の駅から乗り換えなしで行けるのが嬉しいわね。だいたい40分くらいだったかしら?」
乗車時間のことを呟きながら外の景色を見る。
外では楽しそうに歩いている子供たちや、忙しそうに走っている社会人の姿が見えた。こんなに平和ないつも通りの時間が流れているが、魔法を悪用をする魔法犯罪者によってあっという間に恐怖の世界に変えられてしまう。
「私は親の意志を継いで世界を救うの。絶対に」
改めて英雄公社で働く意味を確認すると、英雄公社駅に到着をしていた。
英雄公社駅は国が設立をした英雄公社や、それに関連する企業が建物を構えている地域である。
「ここでも多数の人が下りるわね。降りる人が私たちのフォローをしてくれていたり武器を作ってくれているのかしら?」
小首を傾げて考えながら電車から降りた。
ホームから階段を下っていくと、壁に英雄公社の広告がずらりと貼られているのが見える。
「こんなに広告を張ってる……やっぱり凄い企業なんだな……お父さんたちはこんなに凄い企業で英雄として働いていたんだなー」
壁に貼られている広告を見ながら美桜は階段を下りていく。
改札を抜けると、駅内の柱から働いている多くの英雄たちの姿が空中に投影されている。
「見たことない英雄や、テレビに主に出ている英雄も投影されてる。知らないだけで沢山いるのね」
口を開けて投影をされている英雄たちを見ていると、出社時刻が迫っていることに気が付いた。
「ヤバイ! 早く行かないと!」
出社時間が迫っていたので、一気に駆け出して英雄公社を目指す。
焦りながら駅から出ると駅前にはロータリーが広がっており、そこから続いている道を進むと目の前に英雄公社が見えてくる。
「大きい建物だなー。全面ガラス張りだし、10階建てで横長の建物だ」
美桜は目に映る英雄公社の建物を見て凄いと呟いていた。
「パンフレットでは建物とか見たけど、実際に見ると圧倒されるわ……」
事前に建物の全景を知っていたけれど、間近で見る英雄公社の存在感が凄まじかった。
「ここで働くのね……よし! 平和のために頑張っていくわよ!」
頑張ろうとガッツポーズをして、美桜は英雄公社に向けて歩いて行く。英雄公社の入り口はガラス製の両開きドアであり、美桜は恐る恐る開ける。
すると、目の前に広がる広い空間には走り回っている職員と思われる人たちや受付カウンターに並んでいる人の姿が見えた。
「人が多い! 書類を持って走っている人や、受付カウンターでアポイントを取っている人もいる。私はどこに行けばいいんだろう?」
どこに行けばいいのか右往左往していると、受付カウンターの中にいた1人のスーツを着ている女性が美桜の方に歩いて来ていた。
その女性は栗色の髪色をしており首筋にかかる髪の長さで後ろ髪をふわっとさせていた。また、スラっと伸びている鼻筋とハッキリとしている目元が綺麗な大人な女性と感じる。
ちなみに英雄公社には制服というものがなく、男性も女性もスーツを着て仕事をするのである。
「お困りですか? 何かお力になれますか?」
「え!? あ、ありがとうございます!」
受付カウンターの女性に頭を下げると、再度どうしましたかと話しかけられた。
「あ、えっと……英雄公社の研修が終わって、今日から出社なんです。本部に集合と言われて来たんですけど、来てからどうするのかわからなくて……」
「そうだったんですね! お名前を聞いても?」
「私は黒羽美桜です」
自身の名前を発すると、受付カウンターの女性がもしかしてと口に手を置いて驚いていた。
「もしかして、あの黒羽夫婦の娘さんですか?」
「あ、そうです……」
恐る恐る娘であることを言うと凄い活躍をされていたのにと目元が潤んでいるのが見えた。目元が潤んでいることに気が付くと、守るために戦っていましたから私は意志を継いで頑張りますと言って笑顔を向ける。
「期待していますね! あの方々の娘さんなら、きっと大活躍をされますよね!」
重い期待が突然のしかかるも、笑顔を崩さずに頑張りますと返す。
「あ、話がそれてしまいましたね。黒羽さんの集合場所はここで大丈夫です。英雄公社では職員という扱いですが、町を巡回して魔法犯罪者を見つけた際に対処をしたり、個人で通報を受けて対処をするのが主な仕事となります。英雄公社で依頼をされる任務よりも、個人で発見をして捕まえることが多いと思いますよ」
「なるほどですね……」
「はい。研修を受けたのなら知っていると思いますが、魔法犯罪者に対して英雄はすぐに対処をしなければなりません。また、大規模な作戦の例としては魔法犯罪者のアジトに警察と協力をして突入をすることもあります」
研修で受けた内容を改めて教えてもらった美桜は、英雄の仕事の幅の広さや大変さを実感していた。
「さて、話が長くなりましたが、黒羽さんには最終試験として窃盗犯を捕まえてもらいます」
「窃盗犯ですか!?」
「そうです。ニュースなどにもなっていますよ? 魔法を使って相手を傷つけて、持ち物などを奪っていくんです。警察などでは対処が不可能なので、英雄公社に逮捕依頼がされました」
「そうなんですね。どこに行けばいいですか?」
どう動けばいいのかわからない美桜は、受付カウンターの女性にこれからどうすればいいのか聞くことにした。
「警察の方が現れるであろう場所で待っているので、そこに移動をしてください」
そう言いながら1枚の紙を手渡される。その紙には英雄公社から離れた場所の住宅街にある商店街が示されていた。
なぜ英雄公社のある地域で犯罪を犯そうとするのかわからないが、紙に指示されている場所に行けばわかると言われたので行くことにした。
「あ、言い忘れていました。最終試験では武器の携帯が許可されます」
「武器ですか!?」
「そうです。凶悪な魔法犯罪者から軽微な犯罪者まで近頃は武器を持つことが多いですので、英雄だけは武器の携帯が許可されているのです」
「そうなんですね……私は武器を持っていないのでどうしたらいいでしょう?」
頭を抱えてどうしようと悩んでいると、受付カウンターの女性が武器は届けられていますと受付カウンターの中から剣を取り出した。
「黒羽さんのお父様が使用をしていた剣です」
「お父さんが使っていた剣……」
剣を受け取った美桜は鞘から剣を引き抜く。
銀色に輝く鞘と共に、剣身も鮮やかな銀色の輝きを放っているのが良く見える。
「剣身が輝いてる…‥間近で見るとより輝いて見えて美しいわ……」
剣の輝きに目を奪われていると、美桜は剣の名前が気になってしまう。
「確か剣には名前があったと思うけど、特に聞かされたことがないのよね」
「そうなのですね。ご家族なので知っているものだと思っていました」
知っているものだと言われ、家族でも知らないことがあるのだと少し落胆をしてしまう。だが、今は落胆をしている場合ではない。仕事をして1人でも多くの国民を救わないといけないからである。
「あ、言い忘れていました。英雄が持つ武器は特殊な素材で作られています。なので、武器に魔力を流して念じると形状を変えて持ち運びやすくなりますよ」
「本当ですか!?」
言われた通りに魔力を流して持ち運びやすくなれと考えると、剣が淡く光って簡素な銀色の指輪に変化をした。
「指輪になったわ。これなら指に付ければいいから英雄だとわからないわね! じゃ、指示された場所に行ってきます! 武器、ありがとうございます!」
「いえ、応援をしていますので頑張ってください」
「ありがとうございます!」
受付カウンターの女性に一礼をすると、美桜は紙に書かれている場所に移動をすることにした。
英雄公社から出て右に進むと閑静な住宅街が広がり、その住宅街を少し進んだ先に目的地である商店街が見えてくる。
「商店街に来たけど、警察の人はどこにいるのかしら?」
住宅街を抜けた先にある商店街の入り口に到着した美桜は、キョロキョロと周囲を見渡す。数分間、その場で周囲を見渡していると突然捕まえてという可愛らしい叫び声が聞こえてきた。
「うひゃ!? な、なに!?」
「あなたの方に窃盗犯が逃げているの! 捕まえて!」
「あ、わかりました!」
指輪に魔力を流して剣を出現させる。
鞘から抜こうと考えたが、気絶をさせて捕まえることに決めた。
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