「なら良かったわ! 逐一電話をしてほしいけど、戦闘になるとそうはいかないわよね。でも無事ならそれでよかったわ」
「心配をかけてごめんなさい。ちゃんと生き残りました!」
葵と話をしていると、久遠が電話を貸してと話しかけてきた。
「あ、はい。どうぞ」
「ありがとう」
そう言ってスマートフォンを手渡すと久遠が何やら話し始めている。
自分のスマートフォンてすればいいのにと思うが、久遠が既に話しているので何も言わないことにした。
「何を話しているんだろう?」
「私たちにはわからないわね。とりあえず、今は話が終わるのを待ちましょう」
周囲の確認が終わったであろう琉衣が隣に立ちながら待とうと話しかけてきた。
突然現れた琉衣に驚いてしまうが、元気な姿を見て安堵をしつつその言葉通りに今は待つしかないだろうと考える。
「そうね。体も痛いし、あの愛理ってフードを被っていた人が気になるわ」
「フードの人の名前? 教えてもらったの?」
「うん。急に私を見たことがないかと言われて、名前を教えてもらったわ。どこか私に似ている気がしなくもなかったけどね」
腕を組んで悩んでいると、通話が終わった久遠が帰りましょうと話しかけてきた。
「わ、私も事務所に帰っていいんですか?」
「当然でしょ? 当分は私の事務所に通勤で良いわよ。そのように話したからね」
「ありがとうございます!」
「美桜ちゃんも一緒で良かった! 一緒に帰りましょう!」
琉衣に手を掴まれてよろけながらも共に歩いて行く。
後ろを向いて久遠を見ると小さく笑っており、琉衣が楽しそうで良かったと呟いているようであった。
久遠の事務所に到着をすると、社長室に向かう。
そこでは既に久遠が仕事をしており、いつの間に移動をしたのか謎であった。
「久遠さん早くない!? いつの間に移動したんですか!?」
机に向かって書類を片付けている久遠は、空を飛んだだけよと書類を見つつソファーに座ってと言ってくる。
「琉衣ちゃんもですか?」
「そうよ。2人共、あの変な魔法犯罪者と戦ったでしょ? だから話を聞こうと思ってね」
「そうなんですね。でも、あまり情報はないですよ?」
「私もそこまでないです……」
美桜と葵が口を揃えて言うと、久遠が向かい側のソファーに座りながら少しでも情報が欲しいわとお茶を飲みながら話を続けていく。
「情報ですか……例えば、あのフードを被っていた女性は私と同い年くらいで、名前は愛理と言うらしいです」
「名前がわかったのね! 他には何か言ってた?」
「私を見て思い出さないかとか、それぐらいでした。後は私と容姿が似ているくらいです」
容姿が似ていると答えると、久遠が目を見開いて本当に似ていたのと再度聞いてくる。
「茶髪の長髪で、碧い瞳をしていました」
「茶髪の長髪で、碧い瞳……顔はどうだった?」
「マスクをしていてわからなかったですけど、目の形とか私に似ている気がしました……」
似ていると聞いた久遠は、やっぱりそうなのかしらと小さな声で呟いている。
何がそうなのかと思うが、深く追求をしてはいけない気がしたので黙ることにした。
「情報をありがとう。琉衣の方は特にないかしら?」
「そうですね。久遠さんが戦ったあの男性がイニスという名前しかないですし、漆黒の光や闇の組織という名前しか聞いていないです」
「それでも充分よ! ありがとう!」
久遠は立ち上がると今日は帰りなさいと言い始めた。
疲れ切っている美桜にとっては帰りなさいという言葉がとても嬉しく、早く琴音に会いたいとの気持ちが溢れていた。
「疲れたでしょう? 既に夕方になりつつあるし、美桜ちゃんは初日でしょう?」
「もうそんな時間ですか!? 全然気が付かなかったです」
部屋にある壁掛け時計を見ると時刻は既に17時を回りつつあった。
昼食を食べずにここまで戦っていたので、腹部から音が鳴り始めてしまう。
「あらら、昼食を食べていなかったのね。今日みたいなことは滅多に起きないから、次からはちゃんと食べれると思うわ」
「うん! 明日は一緒にお昼食べようね!」
琉衣にそう言われて美桜はとても嬉しかった。
英雄になって初めて出来た友達であるためにある種、心の拠り所となっていたのである。どのようなお昼を食べようかすぐに考え始めてしまうが、考える力すら湧き出てこない。
「ありがとう! 明日は一緒に食べようね!」
「楽しみだわー」
琉衣と楽しく話していると、久遠が早く帰りなさいと話しかけてくる。
「わかりました。明日またここに来ます!」
そう言って右肩に手を置くと持って来ていた鞄がないことに気が付いた。
「あ! そういえば鞄を持って来ていたんだった! どこに置いちゃったの!?」
持って来ていた鞄がないことや琴音に作ってもらった弁当を食べていないことに気が付くと、琴音に怒られると冷や汗をかいてしまう。
「私の鞄を知りませんか!?」
「鞄? ここに来た時から持ってなかったわよね? 本部に置いてきちゃったんじゃない?」
琉衣が持って来ていないというと、久遠が聞いてあげたわよとスマートフォンを見ながら言葉を発する。
「葵さんが本部に鞄が置いてあったから宅急便で家に送ったらしいわ。もう到着しているみたいよ」
「本当ですか!? ありがとうございます!」
焦ったと思いながら頭を下げると、既に琴音が帰宅しているだろうから受け取っているわねと考える。
「これで失礼します! お疲れさまでした!」
久遠と琉衣に挨拶をすると勢いよく部屋を出て行く。
早く家に帰って琴音と会いたかったし、琴音の料理を食べたいからである。
「琴音元気にしてるかなー早く会いたいな」
そんなことを考えながら家路を急ぐ。
電車を乗り継いで地元に到着をすると、何やら突然緊張感を感じた。
「何かしら? 人が沢山いるのはいつも通りなのに、妙な緊張感を感じる」
違和感を感じながらも家のある場所に移動をすると、家の前に立っている琴音を見つけた。
「琴音!」
小走りで琴音の名前を呼ぶと、美桜の目に愛理の姿が映った。
「あ、あんた! ここで何をしているのよ!」
叫びながら剣を出現させると勢いよく愛理に斬りかかろうとするが、愛理は体を下げて美桜の攻撃を避けるとそのまま右足で腹部を蹴ってくる。
「がふ!?」
向かい側の家の塀に衝突をすると地面に背中を叩きつけられてしまう。
「お姉ちゃん!? お姉ちゃんに何をするの! いきなり現れてわけわからないことばかり言って!」
琴音の前に現れた愛理はフードの被っておらず、髪や顔を晒していた。
その姿を見て琴音は知らない人だと思っているようで、蹴られた美桜に駆け寄って怪我は大丈夫と何度も言い続けてくる。
「お姉ちゃん大丈夫!? 怪我はしてない!?」
「大丈夫よ。琴音は離れて! こいつは組織で動いている魔法犯罪者の一員なのかもしれないの!」
魔法犯罪者という言葉を聞いた琴音は悲鳴を上げて美桜の背後に隠れてしまう。
そこまで悲鳴を上げるのかと思うかもしれないが、琴音は両親が魔法犯罪者に殺害されたことをトラウマに感じており、その姿を目にすると震えてしまうのである。
「早く家に入ってなさい!」
「こ、怖くて動けないよ……」
怯えている琴音は地面に尻もちをついている。
ここで戦うしかないのかと思い、剣を握って愛理と対峙する。
「私はそこにいる琴音に用事があってきただけよ。お前には用はないわ」
「あなたにはなくても、私にはあるのよ!」
剣を構えて愛理に向けて振り下ろすと体を横にずらして躱されてしまい、右頬を殴られてしまう。
「扱えない武器を使うことないわ」
「扱えなくはないわ! これは私に託された剣よ!」
右手を剣身に添えて光属性の魔力を流す。
白く輝く剣を愛理に向けると、邪魔な存在だわと言いながら右手に金色の剣を出現させた。
「まだ剣の名前を教えてなかったわね。この剣は私が託された剣で葉桜と言うわ」
葉桜と聞いてその意味はわからかったが、金色に輝く剣からは想像が出来ない剣の名前であると思っていた。
「良い名前だとは思わない? 花が散るって意味もあるらしいわ……滑稽よね」
「意味がわからないわ」
「あなたは知らなくても良いことよ!」
葉桜で上下左右、連続で振るってくるが、その攻撃をギリギリ防ぐことが出来た。
しかしその攻撃はとても重く、少しでも力を抜けば体を両断される勢いを持っている。美桜は声を上げながら剣を上部に弾くと、右手の掌に魔力を集めて絶光を放とうとする。
「もう家族流行らせない! 絶対に! 絶光!」
近距離で絶光を放つと愛理はほくそえんだ笑みを浮かべ、簡単に絶光が上空に弾かれてしまう。
「確かこれが必殺技だったかしら? 軽い攻撃ね」
「私の攻撃が……」
まさか軽々と防がれると思っていなかったので、愛理が片手で弾いた現実が直視できなかった。
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