扉から出て右にある階段を3人は下り始める。
3階に降りる階段の壁には多数のポスターや、空間に投影をされているライブの告知などが貼られていた。
「これからモデルもしている英雄の打ち合わせなのよ。最近人気になってきた子でね、美桜ちゃんと年が近いわよ」
「そうなんですか!? そんな人いましたっけ?」
「もしかして天道琉衣さんですか?」
横並びで階段を下りながら葵が天道琉衣と名前を口にした瞬間、目の前に貼られていたポスターから美桜と似た年齢の少女が空間に投影された。
「うわっ!? びっくりした! あ、最近雑誌でよく見る人だ」
美桜は自身と年齢が近いと思われる少女をまじまじと見ていると、久遠がその子よと話しかけてくる。
「そうなの!? 凄い落ち着いているように見えるわ」
「この子はね英雄活動よりも、モデルとしての才能を開花させたと有名なの。天道家って知ってる?」
知ってるかなと久遠に言われた美桜は、首を横に振って知らないですと答える。
「英雄界隈では結構有名よ? 天道家は美桜ちゃんみたいに家族全員が英雄として活動をしているのよ。各地方都市で日々魔法犯罪者と戦って、表彰もされている凄い家族なの」
「それは凄いです……お父さんたちとも会ってたのかなー」
もしかして会っていたかもなと呟いていると、階段を下りた先にある自動販売機の前についさっき見た少女が目の前に現れる。
少女はポスターに映っていたようにとても綺麗であり、とても自身と年齢が近いとは思えなかった。
「琉衣ー、ここにいたのね。今から会いに行くところだったわよ」
小走りで近づいた久遠は、琉衣を思いっきり抱きしめた。
抱き心地が良いと何度も呟いている久遠に対して、琉衣は何か諦めたように離れてくださいと言う。
「あ、紹介するわね。今日から英雄事務所の方で活動をする黒羽美桜ちゃんよ。前に話した私の恩人の娘さんで、隣にいるのが担当官の東雲葵さんだから仲良くしなさいね」
「わかりました。天道琉衣です。よろしくおねがいします」
久遠に紹介をされた美桜に対して琉衣は頭を下げて挨拶をする。
琉衣の声は綺麗で耳触りが良いとても澄んだ声色をしており、その声を聞いていると同じ女性でありながらも胸が一瞬高鳴ったのを感じて胸に手を置いてしまう。
また琉衣は綺麗な絹のようにしなやかで腰に届く銀髪の長髪をし、美桜と変わらない身長であるにも関わらずその顔は見目麗しく、文句を言う隙がないほどに美しい。
そして女性らしいメリハリのあるスタイルだが、引き締まっていて筋肉も程よく付いていると琉衣が着ているスポーツウェアの上から見えた。
「こ、こ、こちらこそよろしくお願いします!」
「よろしくね。そんなに緊張をする必要はないわよ」
言葉を噛みながら返事をすると琉衣は小さく笑った。
その笑った声を聞いて綺麗な声だと自然と口から言葉が漏れると、ありがとうございますと目を見て言われてしまう。
「美桜さんに葵さんですね。これからよろしくお願いします」
「じゃ、挨拶も終わったことだし打ち合わせをしましょうか。明日のこともあるし、英雄活動も少しはしないと怒られちゃうからね」
琉衣の両肩を掴みながら久遠が3階の右奥にある会議室に進んで行く。
2人の姿を見ながら美桜は葵と顔を見合わせてついていくことにした。
「なんか久遠さんって琉衣さんのこと好きみたいに感じるわ」
「そうね。美人だし、美桜ちゃんより落ち着いているようだし、一緒にいて癒されるんでしょうね」
自身より落ち着いているといわれた美桜は、そんなに落ち着いていないかなとモヤモヤとした気持ちになってしまう。
モヤモヤとした気持ちのまま小首を傾げながら通路を歩いていると、久遠が会議室の前で待っている姿が見えた。
「これから打ち合わせをするけど、2人も参加する?」
「します! 参加します!」
右腕を上げながら美桜は2つ返事で参加しますと返答をした。
モデルもしている英雄の芸能活動に興味があったので、どのように打ち合わせや仕事をするのか見てみたいと目を輝かせているのである。
そんな美桜は自身を引いた目で見ている葵に気が付き、出来心でしてと突然言い訳を始めた。
「そんな出来心あるわけないわよ。素直に見たかったでいいじゃない」
クスクスと笑っている葵を見ていた久遠が、結局どうするのよと話しかけてくる。
「私も参加するわ。美桜ちゃんと2人でね」
「葵さんも!?」
まさか葵も参加をするとは思っていなかったので、心強いような不思議な感覚を感じていた。
「2人共参加をするのね? じゃ、部屋に入ってちょうだい」
部屋に促されて入ると、そこは小さなテーブルと4人が座れるギリギリなスペースと壁掛けのホワイトボードが置いてあるだけであった。
「小さな部屋で驚いたかな? いつも琉衣と打ち合わせをする際はこの部屋なのよ」
どっこいしょと言いながら久遠は手前にある椅子に座る。
美桜は久遠に習うように近くにある椅子に座ると、琉衣や葵も近くにある椅子に座った。
「さ、全員座ったかしら? とりあえず打ち合わせを始めましょうか」
そう言って久遠は琉衣に1枚のA4サイズの紙を手渡す。
首を伸ばして紙に書かれている内容を見ようと美桜は試みるも、どうあがいても書いてある内容が見えない。
「見えないわ……なんて書いてあるんだろう?」
腕を組んで悩んでいると、無理に見ようとしないと葵に怒られてしまう。
「ごめんなさーい。でも気になっちゃって」
気になると言葉を発すると、琉衣が一緒に見ようと声をかけてくれた。
「いいの!? ありがとう!」
「うん。一緒に見ようね」
優しい笑みで話しかけてくれた琉衣を見て、心が癒されると感じる。
とても優しい笑顔であり、側にいるだけで癒しオーラを発している気がした。
「終わったかしら? 話を初めわね」
「ご、ごめんなさい……」
少しはしゃいでいたと反省をし、久遠にごめんなさいと謝ると琉衣にここ最近はと話しかける。
「最近はモデル業ばかりで英雄の仕事は少なめだったわね。これからは英雄の仕事も増やす方向でいいかしら?」
「そうですね……英雄の仕事もしなければならないですし、芸能界の仕事だけに偏ることはダメですね」
何度か頷きながら琉衣は、英雄の仕事もしていきますと答えている。
久遠は琉衣の気持ちを尊重して仕事を増やしていくわねと言うと、英雄公社に入って3年が経つのねと不意に言い始めた。
「琉衣が英雄になって3年かー。初めはがむしゃらだったわね」
「右も左もわからなかったですから……でも久遠さんと出会えて変わりました。ありがとうございます」
「そんなに感謝されることはないわよ。ただ琉衣ならモデルとしても活躍できると思っただけだからね」
2人が笑いながら打ち合わせをしている風景を見ていると、とても仲が良いと感じた。実の親子ではないのに上司と部下という立場ではなく、どこか距離が近い雰囲気を出していると見える。
「あ、3年目で私と年齢が近いってどういうことですか?」
ふと思ったことを言葉に出すと、琉衣が今は19歳よと年齢を教えてくれた。
「私より3歳年上じゃないですか!」
「それくらい同じでしょ? 美桜ちゃんに年が近い子は琉衣しかいないのよ」
「そうなんですか!? 結構若い人が多いと思っていました……」
「他の事務所とかに入るかもしれないけど、私の事務所には琉衣しかいないの。ごめんなさいね」
「い、いえ! 大丈夫です!」
どもりながら大丈夫と言うと、いつから英雄の仕事をするのかと久遠が琉衣に話しかけていた。いつからやろうかと顎に手を置いて琉衣は悩んでいるようで、今ある仕事を終えてからやりますと久遠に返答をした。
「モデルの仕事が明日で一段落しますので、明日以降から英雄の仕事もしていきます」
「わかったわ。明日以降から英雄の仕事も回していくわ。モデルの仕事に支障が出ない程度に回すわね」
「ありがとうございます。あ、美桜ちゃんとも一緒に英雄の仕事をしたいです」
突然自身の名前が出て驚いてしまうも、一緒に仕事をしたいと言われて嬉しい気持ちが溢れてしまう。
「本当ですか!? ありがとうございます! 私も一緒に仕事がしてみたいです!」
「ありがとう。敬語じゃなくてタメ口で良いわよ? 年が近いんだしね」
「ありがとうございます! あ、ありがとう!」
急には敬語に出来なかったが、タメ口で良いと言われて嬉しかった。
それに年が違い英雄の仲間が出来たことも嬉しいし、心細かったが琉衣と出会えて良かったと思えていた。
「あ、そろそろ時間ね。打ち合わせはいつもあっという間ね。この後は仕事だっけ?」
「そうです。雑誌の撮影ですね」
そう言って琉衣がスマートフォンの画面を久遠に見せていた。
画面にはどこかの公園と思われる画像が表示してあり、ここで撮影ですと説明を始めている。
「ここから少し遠い場所の国立公園ね。庭園もあって良い雰囲気だわ」
「そうなんです。ここで撮影なので凄い楽しみなんです」
笑顔で琉衣の説明を聞いていると、美桜は綺麗なところだと呟く。
画面には綺麗な花々や湖があり、とても都会にある公園とは思えない風景がそこには映っていた。
「美桜ちゃん興味があるの?」
「ある! 超ある!」
何度も勢い良く頷いて言うと、琉衣が一緒に行こうと誘ってくれる。
本当に行っていいのかと再度聞くと、久遠が2人で行っていいわよと了承してくれた。
「やった! 撮影を見れる!」
両手をあげて喜んでいると、葵に喜びすぎよと怒られてしまう。
「調子に乗っていたら迷惑をかけちゃうから、気を付けてよね? 私は本部に戻るから、何かあったら連絡をしてね」
「わかりました! 撮影を楽しみます!」
美桜のその言葉で打ち合わせが終わり、4人は会議室から出ると1人の男性社員が慌てて久遠の前に現れた。
その男性社員は社長と叫びながら久遠に話しかけると、問題が発生しましたと汗をかきながら詰め寄っているようだ。
「ちょ、ちょっと落ち着きなさい! 何があったの?」
「あ、す、すみません! ふぅ……所属している英雄が突然奇襲されたようで、重体です!」
「何ですって!? 奇襲って、やっぱりあの組織が関わっているの?」
腕を組んで考え始めた久遠だったが、すぐに病院に行くわと男性社員に話す。
「あの組織って何ですか?」
興味本位で聞いてきたであろう男性社員に対して、久遠は知らなくていいこともあるのよと暗に聞いてくるなと言う意味の言葉を返していた。
「すみません!」
「いいのよ。私の事務所で働く人には死んでほしくないからね。じゃ、私は行くから琉衣はしっかり仕事をしなさいね」
「はい。お気をつけて」
久遠一礼をした琉衣は、美桜に行こうと話しかけてくる。
「あ、行くわ! 楽しみー!」
ウキウキしながら先を歩く琉衣を追いかけていく。
どのような撮影方法なのか、どのように琉衣はモデルとして活動をしているのか気になっていた。
どのように活動をしているのか気になりつつ事務所を出ると、琉衣が入り口で立ち止まる。何かがあったのかと思い、琉衣の前に回って話しかけることにした。
「何かあったの?」
「車があるはずだったんだけど、入り口にないからどうしたのかなと思って」
「車! 乗れればすぐに到着するの?」
「そうだよ。車なら10分くらいかな? 歩いたら30分かかるわ」
意外と時間がかかると思いながら、美桜は行きましょうと話しかけた。
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