「炎弾!」
自身に向かって放たれた数個の炎の塊を光壁を再度発動させて防ぐと、炎弾の煙に隠れて男性が黒い剣を握り締めて斬りかかってきた。
ギリギリその攻撃を身を捻じって躱すと、黒い剣を弾くために連続で剣を振るう。
「急に強くなった!? どうして剣を吹き飛ばせないの!」
狭いビルの隙間で戦っているので、立ち回りが上手くいかなくなってくる。
すると焦っている美桜に気が付いたのか、男性が距離を取り黒い剣を地面に刺して両手で魔法を発動しようとしていた。
「狭い場所に来たのが間違いだったな!」
「どういうことよ!」
「こういうことだよ! 火槍!」
両手を合わせて燃え盛る槍である火槍を作り上げた男性は、勢いよくそれを美桜に向けて放った。美桜は迫る火槍を光壁で防ぐが、速度と威力が高いためか防ぎきることが出来ないでいる。
足に力を入れて踏ん張るが徐々に押されてしまい、その美桜の姿を見た男性はもう一本の火槍を作って投げようとしていた。
「吹き飛べ! 俺の邪魔をするな!」
2本の火槍を光壁で防ぎきれずに路上に吹き飛ばされてしまった美桜は、地面に何度か全身を叩きつけられると、うつ伏せで倒れてしまう。
ビルの隙間から男性が出て美桜に近寄ると、大通りでは悲鳴を上げて逃げ惑う人や驚きのあまりにその場で動けない人で溢れていた。
「小娘が英雄なんて偉そうなことを言うからだ! このまま死ね!」
勢いよく頭部に向けて黒い剣が振り下ろされると、誰かがダメと叫ぶ声が美桜の耳に入る。その声が聞こえると目を勢いよく開けて左に体を動かした。
避けた地面に黒い剣が突き刺さり、周囲に金属音を鳴り響かせる。武器で戦っている姿など見る機会がない周囲の人々は、身に迫っている命を危機を感じ取ったのか悲鳴を上げて逃げ始めてしまう。
「逃げろ! 殺されるぞ!」
誰かが殺されると叫んだことが切っ掛けで、美桜のいる大通りが阿鼻驚嘆の渦になってしまう。子供がしゃがみ込んで泣いている姿や、走る際に押されて地面に倒れてしまう人などが目立つ。
「お前が素直に殺されていえば、こうはならなかったのにな。英雄だか何だか知らないが、子供が大人の真似事をするな」
「私は……私は……それでも英雄なの!」
剣を握り締めて立ち上がると、男性が黒い剣の切っ先を地面に座って泣いている子供に向けている姿が目に入った。
「何をしているの!?」
「何をって、決まっているだろう? 子供を殺すのさ。姿を見られた以上はお前以上の英雄が来るだろう? その前にこの力を示しておこうと思ってな」
子供に向けて黒い剣を振り下ろそうとする男性に対して一気に駆けだして、その攻撃を防ぐことが出来た。
「何度も何度もお前は俺の邪魔をする!」
「私は英雄なの! 救える命は救うの!」
男性の力が強いのか、自身の剣が押し込まれてしまい左肩に触れてしまう。
鋭い刃が左肩を斬りそこから赤い血が流れるが、痛みを気にせずに両腕に力を込めて剣を押し返す。
「守ると言ったわよね? 私は魔法を笑顔を守るために使うの! あなたとは違ってね!」
歯を喰いしばりながら剣を押し返すと、男性が右足で美桜の腹部を蹴る。
重い鈍痛に耐えていると、背後に子供の姿がまだ見えたので早く逃げてと叫んだ。
「でも、お姉ちゃんが!」
「私のことはいいから、早く逃げて! 駅側の通りでお母さんたちが心配そうに見ているわよ!」
駅側の入り口で子供を心配そうに見ている夫婦の姿がそこに見える。
子供は夫婦を見るとママと声を発して震える足に力を入れて駆け出した。
「早く行きなさい! ママが待っているわよ!」
美桜の声は耳に入っておらず、親の元に一生懸命走っているようであった。
「ちゃんと親との時間を大切にしなさい。壊れるのは一瞬なんだから……」
呟きながら剣を構えて目の前にいる男性を見据えると、時間をかけすぎたと呟いて何かを諦めたかのような顔をし始めた。
「逃げる時間が無くなってしまった……俺はもうすぐ捕まるだろう……その前にお前だけはここで殺す! お前は邪魔をし過ぎた!」
邪魔をしたお前が悪いと叫びながら上段下段と斬りかかってくる攻撃を剣で防ぐ。
美桜は目の前に何度も迫る黒い剣を見ながら歯を食いしばって鍔ぜり合う。
(これが実戦……教わっていた時とは違って命を懸けた戦い……お父さんたちはこれを毎回していたのね……)
親のしていたことを凄いと感じながら、目の前にいる魔法犯罪者を捕まえないとと再認識した。
(真剣を持つ戦いってこんな感じなのね。一度のミスが命を奪っていく……私は負けられないし、琴音を悲しませるわけにはいかないの!)
連続で斬りかかってくる攻撃を防ぎ、美桜も連続で攻撃を仕掛けていると男性が舌打ちをしながら距離を取って火槍を出現させた。
「一気に終わらせる! 燃え尽きろ!」
火槍が勢いよく放たれると剣を用いて攻撃を防ぐが、勢いと威力が高いために後ろに吹き飛ばされそうになってしまう。
「くぅ……! こんな攻撃なんかに! 負けるかぁ!」
「お前は負けるんだ! 俺は光を浴びた! 浴びていないお前が勝てるわけないだろう!」
光りを浴びた。
意味がわからないことを叫びながら、男性はもう1本の火槍を出現させる。
「お前はこれで死ぬ! 何も果たせないまま消えされ!」
1本目の反動で剣を構えられないまま、2本目の火槍が美桜に迫る。
燃える火の槍が迫る様子が美桜の目に映ると、次第にその動きが遅くなるのがわかった。
(あぁ……これが死ぬ前に動きが遅くなるように見える現象ね……)
避けられずに死ぬんだと察した美桜は動くのを止め、親の意志を継ごうとしたが果たせずに死ぬんだと考えてしまう。
「ごめんね琴音……私も星になるみたい……」
目を閉じて迫る火槍に身を委ねようとすると、空から何かが降ってきた衝撃波に吹き飛ばされて地面に倒れてしまう。何が起きたのか理解が出来ていないまま顔を上げると、そこには見たことがある女性が立っていた。
その女性は日の光を浴びて金色に輝く腰にかかるまでの髪を持ち、背丈は美桜より高い。また白いシャツに半ズボンというラフな格好をしているが、その女性の持つメリハリのあるスタイルが服から強調されてとても似合っていた。
「何をしているのよ? あの人の娘なら、こんなところで諦めているんじゃないわよ。おバカさん」
そう言いながら美桜の方に髪をなびかせながら振り向いてくる。その顔は麗しいと言う言葉が自然と出るほどに美しく、無駄がなく綺麗である。
綺麗な目元に高くスッキリとしている鼻筋。どれをとっても麗しい顔と同性から見ても思える顔立ちをしていた。
「おバカさんじゃないです……まさか東雲久遠さんが助けてくれるなんて……」
「フルネームでどうも。たまたま近場にいて戦いを見ていたのよ。あの人の娘で、訓練を幼少期からしていたのを見ていたから勝てるかと思ってたけど、そんなことはなかったわね」
久遠は深いため息をついて美桜を見ていた。
知らないうちに期待をされて幻滅をされていた美桜は、勝手に期待をしてたのはそっちじゃないですかと口を尖らせて言葉を発した。
「期待をされていたからこそ、その年齢で英雄として採用されたんじゃないの。聞いていたわよ?親の意志を継ぐって。なら、最後の最後まで諦めないで戦いなさい!」
久遠は付けているネックレスを握ると、金色に輝く刀を出現させた。
そしてそのまま右手に刀を強く握り締めると、距離を取っていた男性に切っ先を向ける。
「私が戦いを見せてあげるわ。最低でも私レベルにならないと親に顔向けできないわよ?」
「久遠さんレベル……」
怒られてしまった美桜は今にも泣きそうな顔をしていると、久遠が現れたことで避難をしていた人たちが歓声を上げている声が耳に届く。
久遠は英雄以外にも女優やモデルとして活動し、テレビや映画などで見る機会も多い。近頃は英雄活動よりも芸能活動に重きを置いているとして有名である。
「久々の戦闘だけど、あなた程度なら私でも楽勝よ」
「女優様が久しぶりに英雄活動か? 久々に戦って腕でも鈍っているんじゃないか?」
鈍っていると言われた久遠は刀を構えると、一気に男性との距離を詰めた。
「これでも鈍っていると言えるのかしら?」
「い、いつの間に!?」
驚いた顔をしている男性だが、すぐに鋭い痛みが全身を襲う。
「ぐぁ!? な、何が起こった!?」
男性は体を十字に斬られており、斬られた瞬間が見えていなかったようである。
「何をしたって、ただ十字に斬っただけよ? 私の速さが見えないのなら、他の英雄の攻撃なんて見えないわね。伊達に英雄やってないわよ」
久遠の一挙手一投足を見ている避難をした人たちは、歓声を上げている。
美桜は久遠と避難をした人たちを交互に見ていると、これが本物の英雄なんだと実感をしていた。
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