「俺のような魔法を使えなかったやつに光をくれたんだ。あの光はいいぞ……体の奥から湧き出るような暗く深い漆黒の光をくれる!」
ゲヒた笑みを浮かべながら漆黒の光をくれたことを話し、大いなる進化の兆しをくれると言う。
「漆黒の光と大いなる進化の兆しってなによ! もっと教えなさい!」
鍔迫り合いながらさらに情報を聞き出そうとするが、男性はそれ以上は話さなかった。
「もう教えることはない。これ以上教えたら俺が殺されるからな。ただ、言えることと言えば闇の組織というだけだ」
「闇の組織!? それって昔に私のお父さんたちが滅ぼしたっていうやつじゃないの!?」
黒い剣を上部に弾いて距離を取ると、目の前にフードの女性が勢いよく降りてきた。
「お前は口が軽すぎる。殺すぞ?」
「へいへいすみませんね。ついこの力を手に入れて気持ちが高揚してしまってね」
「そんな軽口のために力を授けたわけじゃないわ。あなたは生まれ変わったんだから、ちゃんと指示通りに動きなさい」
「そうしますよ」
そう言いながら黒い剣の剣身が黒く輝き、男性が一気に終わらせると叫ぶ。
決めに来るのねと呟き、歯を食いしばって剣を握る力を強めると目でギリギリ終える速度で斬りかってくるのが見える。鋭く速いその一撃を体を捻じって躱した瞬間、頬の薄皮を斬られた気がした。
「避けたはずなのに……避けきれていない!? それでも、それでも私は!」
叫びながら放った光弾が男性の腹部に当たった瞬間、耳を劈く程の音を上げて破裂した。男性は数歩後ろに下がると、痛いなとにやけた顔で言うと連続で斬りかかってくる。
「ぐぅ! あの魔法でも効果がないの!? 一体どうなっているのよ!」
「生まれ変わった俺の体は強靭になったんだ! もう誰にも負けない強さを手に入れたんだよ!」
鋭い一太刀で何度も斬りかかってくる男性。
その鋭さゆえに捌くのも次第に難しくなり、体を捻じって避けるが頬すれすれを通り過ぎるのを見て冷や汗が流れてくるのがわかっていた。
(一太刀一太刀が重すぎるわ…‥手が痺れてきて握力が無くなってきているのがわかるわ……)
「上手く避けるじゃねえか! 避けてばかりじゃ死が近づいてくるだけだぞ!」
「わかってるわよ、それぐらい!」
追い詰められて剣を握る力が無くなろうとしていた瞬間、背後からしゃがんでという声が聞こえてきた。
「え? なに!?」
「しゃがんで!」
その言葉に従うと、背後から小さな氷の粒が数個男性に衝突していた。
男性は黒い剣で防いでいるようで、美桜はその隙を見逃さずに剣を地面に刺して右手の掌に光を凝縮させて一気に放とうとする。
「これでも受けなさい! 私の必殺技! 絶光!」
放った絶光という技は、光を限界まで凝縮して相手に向けて放つ技だ。
その威力は絶大で、巨大な岩石を簡単に貫通する威力を有している。絶光は一直線に男性向けて進むと巨大な音を放ちながら衝突をした。
「これでどうよ! 私の一番威力がある魔法よ!」
一直線に男性に向かって衝突をしたので、倒したと確信をしたが衝突をした光が消えると黒い剣によって防がれていたのが目に入ってしまう。
「そ、そんな……私の最大の攻撃が……」
男性は体に付いた土を払うと、弱いなと言葉を放つ。
「その程度の攻撃しかないのか? いや……生まれ変わった俺が強くなったんだ! そうだ! 俺は強くなった!」
強くなったと何度も男性が叫んでいると、フードを被っている女性が拳を振り上げて殴りつけた。
「ぐふぅ!?」
殴られた男性は血を吐きながら地面に転がると、なぜ殴ったと叫んでいた。
フードを被っている女性は調子に乗り過ぎだと男性の服を掴んで持ち上げる。
「お前は守護騎士の1人であるイニスとなった。騎士であるのなら王の指示に従え」
威圧感を感じさせる声色で、イニスと男性の名前を呼びながら地面に叩きつけた。
イニスは苦しそうに悶えながら息を荒くしているようで、小走りで美桜の横に来た琉衣が何をしているのかなと言いながら不思議そうな顔をしている。
「わからないけど、油断はできないわ。琉衣ちゃんは避難の方はもう大丈夫なの?」
「うん。ちゃんと応援に来ていた他の事務所の英雄に任せたわ。それで私だけ来たのよ」
「そうだったのね! なら、一緒に戦って!」
「そのつもりよ」
琉衣は敵を見据えながら耳に付けているピアスを触り刀を出現させる。
その刀は水色に輝くとても美しい色合いをし、見惚れてしまうほどに綺麗であった。
「私の刀が綺麗で見惚れるのはもういいから、前を向いて!」
「ご、ごめん!」
怒られてしまったがごめんと言い、剣を構えて前にいる2人を睨みつける。
その視線に気が付いたのかフードを被っている女性が私に敵意を向けるなんて愚かな行為だと右手に魔力を貯め始めた。
「弱いお前が武器を向けるな。さらに弱く見えるぞ?」
美桜に向けて挑発をしたフードを被っている女性だが、琉衣がその言葉に乗っちゃダメだよと声を上げた。
「ありがとう……琉衣ちゃんのおかげで少し落ち着いたわ……」
「それでいいの。戦いじゃ冷静さを欠いた人から死ぬわ」
「うん……気を付ける!」
琉衣と話をしていると、無駄口が多いとフードを被っている女性が輝く魔力の球を美桜に向けて飛ばしてくる。
輝く魔力の球を剣で弾こうとするが威力が強すぎて弾くことが出来ず、逆に押されてしまう。その美桜の姿を見た琉衣は刀に魔力を通して声を上げながら輝く魔力の球を上空に弾き飛ばすことに成功をした。
「あ、ありがとう! あの攻撃はなんなの!?」
「私にもわからないけど、ただの魔力を集めた球体だと思うわ! たったそれだけなのにあれほどの強度と威力があるなんて!」
おかしいわと琉衣が言葉を発した瞬間、上空の輝く球体が大爆発を起こす。
その爆発は上榁国立公園の周囲にあるビルのガラスが衝撃波で割れてしまうほどの威力を有していた。
割れて地面に落ちていくガラス片を見た美桜は、それほどの威力があの魔力を集めた球体にあったのかと恐怖を抱いてしまう。
「気を付けて! あのフードの敵の攻撃を受けたら一撃で死ぬわ!」
「そ、そうだけど……だけど……怖いわ……」
怖い。
ただただ怖い。その感情で心が埋め尽くされていた。
初めて見る強大な威力の魔法。それを目の前にいるフードを被っている女性が自身に目掛けて放った。もし体に当たって爆発をしていたらと考えたら恐怖で足がすくんでしまう。
「止まっちゃダメよ! 動かないと! 恐怖に負けないで!」
「で、でも! 怖くて動けない! 手と足が震えるの!」
自身で制御できない震えを琉衣に訴えると、フードを被っている女性が戦意を失ったかと声を発する。
「弱い者が邪魔をするな。ここで殺してもいいんだぞ?」
フードを被っている女性が右指に付けている指輪を触ると、その手に金色の剣が現れた。その剣は美桜の持っている剣ととても似ており、違いは色しかないように見える。
「私の持っている剣と同じ? 色だけ違う?」
どうして同じ剣をと叫ぶと、フードを被っている女性が同じじゃないと突然声を上げて叫ぶ。
「お前の剣と一緒にするな! この剣がお前のそのガラクタと同じなわけないだろう!」
声を上げながらフードを被っている女性が美桜に斬りかかろうとするが、琉衣がさせないよと魔法を発動させる。
「氷壁!」
フードを被っている女性の目の前に氷で作られた3メートルを超す高さの壁が出現した。その壁を見たフードを被っている女性は剣で軽々と氷壁を砕き、勢いに乗ったまま美桜に斬りかかろうとする。
「目障りだわ! 邪魔ばかりして!」
「私が何をしたというの! 魔法犯罪を犯す方が悪いのよ!」
振り下ろしてくる剣を防ぐと、今まで経験した攻撃の中で一番重く感じていた。
鋭く重い一撃によって両手が痺れ、足が地面にめり込んだ感覚がする。その瞬間、脳裏に気を抜いたら死ぬという言葉が不意に駆け巡った。
「恐怖に支配をされているんじゃなかったの? 早く死になさい!」
「怖いわ……確かに恐怖で押し潰されそうだけど、だけど、私は英雄なの! 恐れてちゃダメなの!」
歯を食いしばって震える足に力を入れる。
自身に迫る剣を上に弾いてフードを被っている女性に斬りかかるが、金色の剣によって左腕が逆に切り裂かれてしまった。
「くぅ……腕が……」
鮮血が左腕をつたって地面に滴り落ちる。
自身から流れている鮮血を見ると死神が目の前にいると錯覚をした。
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