「なんだったんだよあの試合」
「そうだよ」
「相手の人が強かっただけだよ」
準々決勝を終えた帰り道。三人の空気は険悪だった。
「ずっと一緒にいた俺たちを騙せると思ってるのか?」
「何かあるなら相談に乗るよ?」
「私は本気で戦ったよ。でも負けたの」
二人の問いかけにメルは返答する。だが、その答えが嘘であると二人は確信していた。
アーバとマオの試合は第一試合。二人はメルの第四試合を見ることが可能だった。その結果、ありえないものを目にした。メルが手を抜いてわざと負ける光景だ。教師なら気づいているかもしれない。生徒の殆どは気づいていないだろう。そのぐらいの小さな手抜きだった。だが、ずっと連れ添っている二人には分かった。
「メルはそんなに弱くねえだろ」
「そうだよ。あんな負け方ありえない」
「期待に添えなくてごめん。でも、私の実力は私が一番分かってるから」
「一番目指して頑張るんじゃなかったのか? 階級だって有利に進むんだぞ」
「いい加減にしてよ。一番じゃなくても階級は有利になるよ。ベスト8だって十分なはずだよ。そんなに私を責めないで」
メルは大声で怒る 。だが、マオの目から見たメルの表情は怒りではなく悲しみに近いものだった。メルが怒ったことにより三人に沈黙が訪れる。しばらく歩いた後メルが口を開いた。
「私はマオとアーバと不仲になりたいわけじゃない。でも、私は本気でやったの。信じてほしい」
「分かった。決めつけて悪かった」
絶対に認めないと言っていたアーバがすぐに非を認める。その意図をマオはすぐに理解できた。メルもそれは分かっているだろう。ひとまずはそういうことにして、関係を修復しようということだ。上っ面だけだと分かっていても、そのことを追求することはない。
「それより、マオおめでとう。アーバに勝てたね」
「おいおい。俺の目の前で言うなよ。せめて二人になってから言ってくれ」
冗談を交えながらすぐにいつもの感じに戻る。だが、さっきの一件が消えるわけではない。嘘をついていると言うのは事実なのだ。その会話はいつもと全く同じ、というわけにいかないのは当然だ。
「どう思うマオ?」
部屋でアーバがマオに質問する。
「何か理由があると思う。ああなったメルは何も言わないだろうし、探すしかないかな」
「そうだな。言ってくれるまで待つのが親友かもしれないが、俺はこのまま毎日メルを疑って過ごしたくはねえ。でも、ひとまずは準決勝と決勝の準備だな。後二日だ。頑張れよ」
「もちろん。アーバの分も全力で戦うよ」
次の日。マオは準決勝に全力で挑む。マオはアーバとの対決でアビスを使うことを躊躇しなくなっていた。その力は凄まじく、準決勝まで勝ち抜いた生徒でも相手にならなかった。
「マオかっこよかったよ」
「本当に? ありがとう」
「相手の人が少し可哀想だったけどね」
「仕方ないよ。全力で戦うのが礼儀だと知ったからね。僕はもう自分のアビスを恐れない」
その言葉にメルは少し複雑な表情だった。
「明日は決勝だな。勝てよ」
「もちろん」
マオは明日の試合に胸を膨らませ、眠りにつくのだった。
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