「どういうことだ? 魔法具が発動していない?」
「そんなことはあとだ。ひとまずはあれを止めないと」
「私でも見破れない幻視の魔法。その使い手が殺されている。しかも魔法具の上から。不味いな。生徒の避難を最優先だ。メルセに連絡も忘れるな。応援は赤か紅だ」
「はい」
校長の指示で生徒の避難が始まる。マオは戦闘態勢の教師三百名に取り囲まれていた。
「憎い。憎い。憎い。全てが憎い」
「やばいな」
「ああ。グサグサくる。今にも感情が塗り替えられそうだ」
「でも、時間ぐらいは稼がないとな」
マシュウが初めに切りかかる。だが、いつの間にか近くの壁にめり込んでいた。その流れを目で捉えられたのは教師の中でも数人だった。
「下がって。ここは俺がやります」
先頭に立ったのはトネーだった。
「しかし」
「数年前に引退しましたが一応赤までいったんです。抑えてみせますよ」
雷でできた膜が出現してトネーとマオを包む。
「マオ。雷神と言われた俺の力をとくと見せてやる」
「マオ。起きて」
何もない空間でマオは目をさます。そこには金髪の女性が立っていた。
「お母さん?」
マオは思ったことが口に出てしまう。その女性は何度も夢に出てきた女性なのだ。マオはその女性をとても暖かく感じていた。
「マオ。もっとあなたと話していたい。でも、時間がないの。もう二度と同じことを繰り返すわけにはいかない」
「どういうこと?」
女性は両手でそっとマオの顔に触れる。
「戻って。あれはマオの体でしょう。他の誰でもない。あなたの本当に守りたい人のために。そうしなければ全てを失うことになる。英雄にもなれなくなる。それはダメでしょう?」
「うん。でも、もっと話したい」
「また話せるよ。あなたが英雄に近づけば近づくほど、私は近くにいるから」
「分かった。もう行くよ」
マオはゆっくりとその空間から消えていく。
「うん。頑張ってね。・・・・・・私の為にも」
トネーはボロボロだった。立っているのがやっとな程だ。
「クソ。さすがに厳しいな。現役ならもう少しはやれただろうが。傷一つ与えられないなんて」
「憎い。憎い」
トネーはマオに頭を掴まれる。
「お前が。お前らみたいな奴が俺の大・・・」
頭にかかる力が抜ける。それと共にマオが纏っていた禍々しい空気も消えた。
「先生。俺は何を?」
「戻ったか。よかった」
倒れ込むトネーをマオが支える。役目を終えた雷の膜が消滅する。そこには、赤色のイヤリングをした男が立っていた。
「これが目標か。ずいぶん弱そうだな。まあ、依頼は依頼だ。死んでくれ」
トネーは口を開くが声が出ない。マオは訳もわからず持っていた剣で応戦する。だが、決着はすぐだった。マオは壁に叩きつけられ、剣で足を貫かれている。戦いの中でペイを見たマオは自分に何が起きたか予想がついていた。
「本当に弱いな。あの校長どういう目をしてんだ? 俺じゃなくてもよかっただろ」
男は剣を構える。後悔を胸にマオは目を瞑る。マオは覚悟を決めていた。
「死ね」
「シールド」
男の剣はシールドに受け止められた。
「俺の剣を受け止めるとはいい魔力だな。これの仲間か? 依頼だから容赦しねえぞ」
シールドを発動させたのはメルだった。
「私も容赦しません。マオを傷つける人は絶対に許さない」
「そうだな。マオを殺すなんて許さねえ」
臨戦状態のアーバも登場する。
「二人でも俺には勝てんよ。命の無駄遣いだ」
男は一瞬でアーバに近づき全力で剣を振るう。アーバはそれに反応すらできない。だが、それは間に入った男によって止められる。その男は二人も見たことがある顔だった。
「クロー。なんの真似だ。俺は校長からの依頼でやってんだぞ」
「僕も古い友からの依頼を受けているんだ。もしもの時に生徒を頼むと」
「正式な依頼じゃねえだろ。ここで妨害するならギルドに処分されるぞ」
「それがどうかしたのかい? 本気でやったら死ぬのがどっちか分からないほど、君は愚かじゃないと思うんだけど」
「クソ。無駄足になったじゃねえか」
男は舌打ちして不機嫌そうにその場を去っていった。
「友のために戦う君たちには感動したよ。さあ、お互いに友を助けに行こう」
波乱となった闘技大会は誰にも予想できない形で幕を閉じたのだった。
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