五日間に及ぶ試合を三人は負けることなく終える。その結果、ベスト8にまで上り詰めていた。準々決勝の試合はマオ対アーバとなっていた。
「いよいよだな」
「うん」
お互いに開始位置につく。会場全体が試合の開始を今か今かと待ちわびていた。
「始め」
開始の合図と同時にアーバの体が赤く発光する。
「三分だ。三分に俺の全てをつぎ込む。こい」
「わかった。三分で終わらせる」
目に見えないほどの速度で拳と剣が何度もぶつかり合う。その度に衝撃波が発生し、観客を守るためのシールドを激しく損傷させる。損傷したシールドは教師によって次々と張り替えられていく。
張り詰めた空気の会場に反し、二人の表情には笑みがこぼれていた。この状況で笑い合う二人の姿は観客からすれば狂気そのものだった。
「さすがマオだ」
「アーバもね」
苛烈さを増していく撃ち合いを制したのはアーバだった。剣で防いだが勢いを殺しきれず、マオは上空に吹き飛ばされてしまう。
「技は足の力が重要だ。空中では足を踏ん張れない。俺の勝ちだ」
アーバは地面を蹴り、一気にマオに近づいていく。
「シールド」
「無駄だ。シールドごときで」
シールドはアーバとの間には出現しなかった。それは吹き飛ぶマオの頭上に出現する。
「なんだと」
マオは反転してシールドを足場に使い、迫ってくるアーバを迎え撃つ。
「六番 テン」
「負けるか」
マオとアーバは激しい撃ち合いになる。下方から追う形で飛んだアーバ。上方から足場を使い迎え撃つマオ。どちらの方が優勢かは明白だった。アーバは地面に向かって勢いよく吹き飛んでいく。
「シールド」
その言葉の意図をアーバは瞬時に理解できた。だが、間に合わない。アーバは受け身を取れないままシールドに叩きつけられる。追撃に備えようと瞬時に立ち上がり足を踏ん張った瞬間にシールドが消える。
「なんだと」
予想を超える魔法の使い方にアーバは翻弄される。
「ヘルフレイムホールド」
設置型で動かせない代わりに威力が高い魔法だ。本来ならあてるのが困難な魔法だが、発動されたのはアーバの下方。当たらない訳が無い状況だった。覚えた魔法の中から状況に応じた一番適切な魔法を選択する。魔法に関しても努力を怠らなかったマオゆえに辿り着いたものだろだ。
「俺は負けねえ。まだ負けてねえ」
アーバは空中から火球に向かって拳を放つ。その拳は衝撃波を放ち魔法をかき消す。
「流石アーバ。そんな君に昔から憧れていた。そんな君に勝ちたい」
お互いに着地して状況は振り出しに戻る。再び苛烈な撃ち合いが始まった。 だが、気持ちで強さは変化しない。一回目の撃ち合い同様にマオが押されていく。その状況にアーバは拳を止めて一歩後退する。
「マオ」
「何?」
「どうしてアビスを使わない? このままなら俺が勝つぞ」
その質問にマオは少し困ってしまう。マオは自分のアビスを多少は理解できていた。それ故に、アビスを使うのを躊躇していたのだ。
「俺だってアビスを使ってる。俺が戦いたいのは本気のマオだ。アビスも含めてマオだろ」
「分かった。僕の本気をぶつけるよ」
僕に力を貸してください。
心の中でマオは唱える。数秒後、マオの目つきが変わった。
「これが僕の本気だ」
始まった撃ち合いは一歩的なものだった。マオの使う技は今までよりも更に速く、洗練されている。一つ一つの技が今までと比べられないほどの威力をもっていた。アーバの体に徐々に傷が増えていく。
「これがマオの本気か。だが、だからこそ挑む価値がある」
アーバの体が更に赤みを増す。傷からは血が吹き出し始める。
「これが俺の本気だ」
アーバが渾身の力を込めて正拳突きを放つ。それを受け止めたマオの剣は粉々に砕け散った。ここからが本番だと会場全体が思っていた。だが、アーバの体は限界だった。出血が酷く地面に向かって倒れていく。マオはすぐに体を抱きしめて倒れないように支えた。
「もっていけたのは剣だけか。マオの勝ちだ」
「勝者マオ」
アーバは教師によってすぐに回復魔法がかけられ、医務室に運ばれていく。
会場全体からの歓声が一人佇むマオを包むのだった。
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