「メル。どうして。僕は君さえいれば良かったのに。僕の夢なんて霞んで見えるほど、君は輝いていたのに」
「何がいけなかったのかな?」
「何がダメだったのかな?」
「君のいない世界に僕の居場所はあるのかな?」
涙を流しながらマオは問いかける。だが、返事はない。
「メル起きてよ。メルがいないと僕は生きていけない」
マオはメルの元へ這い寄っていく。
「返事をしてよ。まだ僕の思いを伝えてないじゃないか。言い逃げは許さないよ」
マオは動かないメルの頬を何度も叩く。
「ほら、起きて。まだまだこれから人生長いんだから。眠ってられないよ」
いつしかマオの目からは涙が消え、不気味な笑みが浮かんでいた。
「どうして起きてくれないの? 僕はこんなに悲しんでるのに。こんなに辛いのに」
狂気的なマオの表情に周囲の人物は凍りついていた。
「これも全部君の責任だ。だから、僕達に手を貸せ。彼女の死を無駄にしないためにも」
ペイはそんなマオに怯えず近づいていく。
「僕のせい? そんなことはないはずだよ。僕は一所懸命生きてきた。誰にも迷惑をかけず、傷つけず、平和を目指して頑張ったのに。その報いがこれなの?」
「そうだ。君の今までの行いが間違っていたからこんな結果になったんだ」
「僕が悪いのかな?」
「だからそう言っているだろう」
ペイの言葉を最後にマオは沈黙する。
「・・・そういうことか。分かったよ。分かったよメル。ハッハッハ」
俯き地面に座り込んでいたマオは急に立ち上がり大声で笑い始める。
「世界が悪いんだね。こうなったのも全部この世界が悪いんだ。僕は全てが憎い。この世界が憎いんだ。こんな世界消えてなくなればいいよね」
(そうだ。憎いなら消してしまえばいい。それほどまでに、この世界は理不尽で残酷なのだから)
マオは闘技大会の時など比にならないほど異様な空気を纏っていた。
(さあ、行け。自分の心に素直に。後先なんて考えず、憎いものを根絶やしにしろ)
マオから黒いオーラがゆっくりと広がっていく。
「撤退しろ」
その光景を目にしたペイは部下に撤退を指示したが、一人が間に合わずオーラに飲み込まれてしまう。
「ああペイ様。助けて」
部下は苦しそうに叫び声をあげて地面に倒れ込む。次の瞬間、ペイは驚愕の光景を目にする。
「ああペイ様。どうして助けてくれなかったんですか。憎い。憎いですよ。自分だけのうのうと生き残って。そんなやつ殺してやる」
再び起き上がった人物は人格が変わったように攻撃的になり周りに襲いかかるようになっていた。
「これが四大アビスの覚醒。冗談じゃ済まなぞ」
ペイが全力で後退するが、その先にマオの姿が現われる。ペイはマオが移動したのを認識できなかった。
「空間転移か」
状況を理解するが一歩遅い。マオの手がペイの体を貫通する。
「お前が、お前みたいな奴が俺の大切な・・・愛している人を奪うんだ。消えてなくなれ。ラース」
巨大な炎魔法がペイの体を消し炭に変える。
「ハハ。ハッハッハハ。ダメだ。満たされないよメル。まだまだ心が満たされない。君がいないと僕は満たされない。君のいない世界はやっぱりダメみたいだ。こんな世界消えて無くならなくちゃ。もう少ししたら僕もいくから待っててね」
発生したオーラは一定の範囲まで広がりマオの周りに存在し続ける。付近にいた戦士は殺し合いを始め、数分で立っているのはマオだけになっていた。
「こんなんじゃ足りない。もっともっと壊したい。僕が辛い時に助けてくれなかった先生も、いじめてきたあいつらも、全てが憎い。全部壊してやる。それがこの世界への報復だ」
メルの体を近くにあった木に預けマオは歩いていく。付近にある数百の死体を踏み潰しながら、目的の場所へ歩いていく。メルを奪ったこの世界を、憎い存在全てを滅ぼすために。
「おい。これは一体どういう状況だ?」
憎しみに突き動かされるマオの前に現れたのは彼だった。この世界において最強の称号を持つ者。第一拠点を殲滅して第二拠点向かって移動をしてきていた。メビウスその人だった。
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