【悲報】最強の勇者御一行様、死に損ないの魔王に呪いをかけられ最弱パーティにされてしまう!(略して悲報勇者)

九季さくら
九季さくら

第10話 勇者御一行と魔法学校の優等生

公開日時: 2020年10月24日(土) 17:39
文字数:5,400

 武器屋からまんまと生還した俺達は、再び祠の前に来ていた。

 今は皆、無事逃げられた安心感から、その場に腰を下ろし、安堵の溜め息を吐いている。


「ほいよ。ギルちゃん、これ」

 疲れから一気に老けたエイオスがギルに魔剣を手渡した。

「わぁ! ありがとうございます!」

「わぁ! じゃねぇんだよ。二度と売ったりするんじゃねぇぞ?」

 言って、俺は俺達の苦労を知らない能天気なギルの頭を小突いてやる。

 と同時に、今は一人も欠ける事なくまたここに皆が集まれたことを素直に喜ぼうじゃないか。


「え、てかさ。結局どういう感じになったん? 俺とアネちゃんは死に物狂いで逃げたから、その後の展開が皆目見当つかないんだけど」

「怖かったねぇ」

 いつの間にか再び人間の姿に変身した言い出しっぺは、言葉とは裏腹ににっこりと笑った。絶対楽しんでただろ。


「うむ、とりあえずあの場を切り抜ける為、俺とニアは正体をバラしてしまった。俺達が賊から魔剣を取り返してくるから、オヤジは大人しく店で待ってろって事にしてある」


 それを聞いたエイオスは、

「え、嘘でしょ? 俺とアネちゃん賊って事になっちゃったの?」

「まぁもうこの街には来る事もないだろうし、悪いがそこは割り切ってくれ」

「いやいやいや、割り切れないよね?」


 エイオスは苦虫を噛んだような顔で反論するが、俺は次なる作戦を説明し始める。


「とりあえず俺とニアは、一旦武器屋に戻る。これで全てまとまる予定だから、残りの皆は祠の中にでも隠れていてくれ」

「私も行くの!?」

「一緒に捕まえに出て俺一人で戻るのも変だろうよ。それに、総資産を管理してるお財布係はお前だ」

 言いながら、俺は地面の泥を顔や腕、ありとあらゆる部位に塗りたくる。


「なんか華麗に流されたけれども……遂に勇者御一行からおたずね者が誕生しちゃうって事で良いのかな? 良くないけどさ」

 エイオスは余程自分が賊に成り下がったことがショックなようだ。

 でも、あぁでも言わなきゃあの場を切り抜けられなかっただろうし、致し方ない。

 それにエイオスとアネモネのおかげで全員がおたずね者にならなかっただけ良かったと思いたい。


 だから、

「せめてもの償いだ。このローブをお前に託す。いつかきっと返しに来い」

 そう言って、脱いでいたローブをエイオスの頭から乱暴にかぶせてやった。

 姿を明かしてしまった以上、俺がこの街に居ると言う噂はあっと言う間に広がるだろう。

 もうローブで顔を隠す必要もないからな。


「そんなシャン○スが麦わら帽子渡す時みたいに印象的に渡す必要ないでしょ? 伏線でも何でもないクセに余計に腹立つわ」

 ぶつくさ言いながらもしっかりローブを整え、深々とかぶるエイオス。


「よし、それじゃあ俺とニアは一回武器屋に戻る。後はこの俺に任せろ」

 言いながら立ち上がると、ニアも溜め息混じりに俺に続いて立ち上がった。


「勇者、何をするつもりかはわからないが、無茶だけはするなよ」

「気をつけてねー!」

 俺の背に投げ掛けられたエイオスとアネモネの声に、俺は手を振るだけで返事とした。



 そして舞い戻った武器屋。

 俺は入る前に今一度体に砂をかけまくる。

「さっきから何してんのよ?」

「まぁ見てなって」

 ニアの質問に不敵に微笑みながら答えた俺は、それ以上に乱暴に店のドアを開け放った。

 そして、

「ち、ちくしょう……!!」

 言うが早いか、俺はそのまま店の入り口に倒れ込んだ。


「ゆ、勇者様! それにニア様もお戻りに!」

 と、泥だらけ砂まみれとなった俺の姿を見たオヤジが大声を上げながら駆け寄ってくる。

 ドタバタと言う振動で、さっきエイオス達に突き破られた天板の屑がパラパラと落ちてきた。


「クソッタレ! すまねぇ、オヤジさん……! ヤツら、一筋縄じゃ行かなかった……ぜ……」

「そ、そんな……伝説の勇者様の力を持ってしても太刀打ちできない相手だったのか!?」

「ヤツら、手に入れたばかりの魔剣をまるで使い方を熟知しているかの様に、早々に使いこなしやがった……俺の聖剣と良い勝負……いや、あの禍々しさ。それ以上の力を持っていた」

 言って、俺はさぞ悔しそうに床を殴り付けた。


「そんな……ニア様もついていたのに……」

「え? あ、あぁ! 私も魔法使ったんだけど、なんかあの魔剣を一振りするだけで打ち消されちゃってさー……」

 唐突に矛先を向けられたニアも俺の大方の作戦を汲み取ったのか、しどろもどろになりながら口裏を合わせてくれた。ナイスアシストである。


「あの賊ども……絶対に許せねぇ……」

 と、俺達のせいでオヤジはエイオス達に対しての怒りを増幅させていく。

 エイオス、アネモネ、すまん。


「オヤジさんよぅ……俺は魔王を倒し、目標……みたいなもんを失っていた。だが今、新たな目標が出来たぜ」


「目標……ですかぃ?」


「あぁ。俺がこの手で……必ずアイツを倒して見せる。俺は二度、同じ相手には負けねぇから!」

 言いながら聖剣を天高く掲げ、泣いてもいないのに泣き真似まで入れてみた俺のこの演技力よ。

 オヤジはすっかり感銘を受けたのか、

「くぅー! なんて……何て男気なんだ! 勇者様!」

 と、一緒になって涙ぐんでくれた。

 バカで助かる。ここまで来ればもう一押しだ。


「なぁ、オヤジさんよ……」

 俺は穴の空いた天井を真っ直ぐに見つめたまま、呟くように言葉にした。


「な、なんだ!? 勇者様!」

「もし……俺があの賊に勝つ日が来たら、その時はあの魔剣を俺に譲ってはくれないか?」


 俺の口から飛び出た言葉にオヤジは一瞬驚いた顔をした。


「あ、あの魔剣を……」

「あぁ。あの魔剣は危険だ。持つ者を魅了し、邪心を増幅させる。この世界にあって良いものじゃない。もしアイツを倒して魔剣を奪えた暁には、俺がこの手であの魔剣を……この世から葬る」


 自分でも言っていてめちゃくちゃだとは思うのだが、どうだろう?と、反応を伺うためチラリとオヤジに目をやると、


「あぁ! あれこそ勇者様みてぇな人が持つべきだ! 金なんか要らねぇ! あいつを倒して、邪悪な魔剣を処分してやってくれ!」


 何とも暑苦しいテンションで言ってくれた。


 だが俺は聞いたぞ。確かに聞いたぞ、その言葉を。

 心の中で悪役きっての笑顔を浮かべた。


 そして、

「いやはやしかし、あれだって売り物だろう? タダで魔剣を頂くわけにはいかねぇ。ニア!」

「え、何?」

 唐突に話を振られ、一瞬ニアは訳がわからないと言った顔をしたが、察したのか懐から財布を取り出し俺に手渡した。


 そのまま財布を受け取ると、俺はおもむろに財布を開き、中から札の束を取り出し、

「店の修繕費だってかかるだろう? 魔剣代としちゃ安すぎるかも知れないが、貰ってくれ」

「じゅ、10万Gも……!? 勇者様からこんなに頂くわけには────」

「いいから」

 と、慌てて突き返そうとするオヤジを制した。

 元々、最悪の場合50万G全部使ってでも買い戻すつもりだったのだ。それが10G程度で戻ってくるのなら安いものよ。


 オヤジは手に握ったお金をぐしゃりと丸め込むと、目から大粒の涙を流し、

「お、俺なんかのために!? あんたって人は……なんて神様の様な御方なんだ! 魔王討伐と言い、本当に感謝してもしきれねぇ……かたじけねぇ……かたじけねぇ……」


 鼻水を垂れ流し、嗚咽混じりに途切れ途切れに言葉を紡いだ。



 その後、すっかり機嫌を直したオヤジは、店の修繕や賊への怒りなんてそっちのけで俺達との対面を心底喜び、俺とニアを店の奥の休憩用の部屋へと通した。

「しっかし、本当にあの勇者様とニア様がこんな街にいらっしゃっているとは、思いもしませんでしたぜ」

 言いながら、不馴れな手つきで淹れたコーヒーを振る舞ってくれた。


 俺はまだ熱そうなコーヒーを一口口に運びながら、

「まぁ、無事魔王も倒したしな。これまでに寄った村に立ち寄り、様子でも見ながら始まりの村に帰ろうと思ったんだ」

「なるほど。勇者御一行様のおかげで、またこの世界に太陽の光が戻った。さっきも言いやしたが、俺が生きている間にもう一度こうして陽の光を拝めるとは思っていなかったので、皆さんには本当に感謝しているんだ。俺だけじゃねぇ。この世界の皆、同じ気持ちですだ」

 オヤジは自分の事にうんうんと大きく頷いた。

 そこで何かに気付いたように、

「ちなみに、ギルバート様もいらっしゃいましたよね? ……この世界のシステムだとパーティは最大四人まで組めるから、他にもメンバー様がいるはずですが、他の方々はご一緒ではないのですかぃ?」

 足りないパーティメンバーの事を口にした。

 さすがに俺とニア二人だけと言うのを不思議に思いやがったのか、また面倒な事を。


「ギルバートと他の仲間は、他にやることがあるってんで現地解散となったんだ。ヤツらもルートこそ違えど始まりの村に向かっているから、また直ぐに合流出来るさ」

 とりあえず適当にあしらう事にした。

 これで本当はギルも他の仲間もここにいると言って、もし会いたいなんて言われた日にゃ、オヤジと賊が再会を果たすことになり俺の作戦は破綻してしまうからな。


 しかし、オヤジは一切疑う事なく、

「そうでしたか」

 とニッコリ微笑み、

「なるほど。現地解散の後、勇者様とニア様は御二人で……」

 俺とニアをニヤニヤ笑いながら見比べた。

 やめろ、その笑顔。気色悪い。


 そして、

「まぁ死線を共に潜り抜ける中で、物語は色々ありますわなぁ。勇者様もニア様も美男美女だ。とてもお似合いでさぁ」

 何か勘違いしたようで、突拍子も無いことを口にした。

 俺との恋仲を疑われたニアは、

「────なっ!?」

 顔を真っ赤にして立ち上がる。

 ニアはこの手の話に苦手なうぶな所があるのだ。

 ニアの反応からしても、オヤジの読みはあながち間違いでもないようで、俺もまんざらでもない顔をしようとした。


 ────その刹那。


「んな訳ねぇだろ……あんまり馬鹿な事言ってっと殺すぞ、おっさん」

「ひぃっ!!?」

 ニアは光の速さでオヤジの胸ぐらを掴み、例の般若のごとき表情でオヤジに詰め寄った。

 その殺気を目の当たりにし、俺も緩みかけた顔を虚無の顔へと切り替える。

 そして、まんざらでもないとか軽率な考えをした命知らずな自分に、しっかり反省させるため、心に今一度渇を入れた。


「もう行くわよ、ジョエル」

 オヤジに恐怖を植え付けたニアは、不機嫌そのものの物言いで、俺の手を取り店の出入口へと連行した。

 もう少し旅の話とか色々したかったのだが、残念だ。



「でもどうよ? 上手く行ったろ?」

 祠への帰り道、未だ機嫌が悪そうなニアのご機嫌取りを試みた。

「凄い讃えようだったわね。まるで神様を前にしている様だった」

 返答するニアはいつものそれに戻っていた。どうやら怒りの化身にはなっていないようで安心した。


「全くだ。まぁ、まんまと10万G程度で魔剣も戻ってきたし、作戦通りよ」

「でも、あの感じだと、最初から勇者の身分明かして事情説明したら気前よく返してくれてた可能性もあるわよね?」

「え?」

「いや、だから。あの感じならちゃんと事情説明すれば、タダで返してくれたのかもなぁって。エイオスとアネちゃんを生け贄にする事もなく、あんな作戦決行するまでもなかったのかなって」


 そう言われると、そんな気がしないでもない。

 でも、そうしたら10万Gを失った意味もエイオスとアネモネが賊になった意味もなくなり、前話からのこの話自体がなんだったのか、と言う話になりかねない。

 だからここは、

「その線は考えたくないな」

 色々諸事情もあるし、ぶった切らせて頂く。



 ◇


「あっ! ジョエルさん、ニアさん! お帰りなさい」

 祠の扉を開けると、ギルが明るい声で俺達を出迎えた。

 それに続き、エイオス、アネモネも、

「どうだった? 上手く行ったんか?」

「おかえりー!」


 更にその奥から、

「お初お目にかかります。私、セレナ・イングナーと申します」

 深々とお辞儀をしながら、金髪の小柄な女子が現れた。


 突如として現れた新キャラを前に、俺は自己紹介をし返す事すら忘れ、反射的に、

「いや、誰やねん」

 当然の反応を返した。


 そんな俺の後ろから、

「セレナさん! 来てくれたのね! ありがとう!」

 パアッと表情を和らげたニアが、声を上げながらセレナと言う少女へと駆け寄り、手を取り握手した。

 え? だから誰なの?


「セレナはねぇ……」

 と、他の誰でもなく、アネモネが得意げな表情で切り出した。

「ジョジョ達が遊んでいる間に、私とニアで声をかけた今回の助っ人さんなのです!」


「なんだと?」

「えぇ。アネさんとニアさんに声をかけられたとの事で、先程ジョエルさん達が武器屋に行っている間に合流したのです」

 訝しげな顔をする俺の傍らでギルバートが不十分な説明した。

 いや、だからどちら様だよ? どこのセレナなんだよ?


 ギルでは役不足と思ったのか、ニアはお立ち台になりそうな石の上に立つと、

「私から改めて説明するわ。彼女はセレナ・イングナーさん。この街の魔法学校に通う学生さんで、現在は三年生。特待生として入学されてから三年間、ずっと主席と言う、超将来有望な優等生様よ!」

 人の事だと言うのに、さも自分の事の様に誇らしげに言った。


 しかし、当の本人、セレナは微塵も胸を張る素振りもなく、寧ろあまり持ち上げないでくれと言わんばかりに申し訳なさそうに、

「そ、そんな大層なモノじゃないですけどね」

 と笑い、

「魔術や呪術の事でお困りと伺ったので、少しでもお力になれれば……と思いまして」

 か細い声でそう付け加えた。



 呪いのカウントダウン

 運命の刻まで

 あと6日 (レベル147)

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