夕食の後、寝室に戻ると、
「ところで、皆はどんな経緯があってジョジョと行動するようになったの?」
と言うアネモネの質問から、どういう流れで現パーティーメンバーが仲間となったのか、解説タイムが始まった。
こんな事している場合じゃないだろうと言われてしまうかも知れないが、まだ5話。
呪いのタイムリミットまではまだ約6日以上はある。
パーティメンバーの紹介だって最終話(1話)でちょろっと触れただけだったし、良い機会だと思うのでお付き合い頂きたい。
今回から読み始める人もいるかも知れないからな。
とりあえず、あんまり大っぴらにジョジョと呼ぶのはお叱りが来るかも知れないのでやめて欲しい所ではあるのだが、まずは俺からだ。
【勇者 ジョエル・ジョークハルト】
20歳。伝説の聖剣を駆り魔王討伐を果たした勇者。
バランスの良いパラメーターが売り。しかし、魔法の類いは一切使えない。
勇者と言うこともあり偉そうな言動が見受けられるがバカである。
意外と姑息でメンタルは豆腐の様に脆い。
「俺は、物心ついた時からお前は勇者だと洗脳させんばかりに言われ続け、育てられてきた。なんでも幼少期にこの伝説の聖剣に触れ、光を宿せた唯一の存在と言うことでな。それで聖剣を譲り受け、魔王討伐の指名を与えられた」
「どうやら、生粋の勇者たる人間でないと、この聖剣に光を宿す事が出来ないらしいんだわ。その唯一の存在がジョエルってワケ」
と、何故か俺の紹介なのにまるで自分の手柄の様にエイオスが口を挟む。
何でお前が得意気になってるんだ?
「他の人が持っても光らないの?」
聖剣をしげしげと見つめながら、アネモネは問うた。
今エイオスが言った通り、生粋の勇者たる資格のある者が持たないと光は宿らないと聞いた。
母が聖剣を布団叩きの代わりに使っていた時は光を宿していなかった。
と言うか、今まで出会った人間に数回程触れさせた事はあるが、その誰もが光を宿らせることは出来なかったな。
「百聞は一見に如かずっしょ。勇者、試しに剣抜いてみ」
エイオスに促されるまま、俺は頷き剣を抜いた。
すると、柄と刃の間に彫り込まれた龍の紋章が光るのだ。
このように。
俺の手にした聖剣が光を宿すのを見ると、
「おぉー!」
アネモネは拍手した。
この光こそが、俺がどんなに辛く諦めそうな場面に陥ろうと、再び奮い立たせる。俺を甦らせてくれる。
時には、勇者なんかやりたくなかったとか、呪いも跳ね返せないで何が聖剣だよとか言ってしまう事もあるが、この剣こそが俺が俺たる由縁。勇者の証である。
「で、試しにギルちゃん持ってみて?」
「僕ですか?」
エイオスはそのまま聖剣をギルに渡す様に促した。
俺もほらよ、とギルに手渡す。
「ほら。こんな風に、勇者以外が持っても今みたいに龍の紋章は光らないんだよ」
エイオス解説の下、ギルの手の内に握られた聖剣は、
「あれ? うっそ?」
皆が目を丸くする。
聖剣は弱々しくだが輝き出したのだ。
え? 嘘だろ?
生粋の勇者が、俺が持った時しか光らないんじゃないの? ギルも生粋の勇者たる資格を持っている人間って事か?
「なんか……光っちゃいましたけど……誤作動ですかね?」
ギルは鼻の頭をポリポリとかきながら苦笑いをした。
「え、じゃあ私も持ってみたい!」
最早面白半分でニアも続く。どいつもこいつも、まだ俺の紹介の途中だってのに。
そして、
「やったぁあああ! 光ったぁああああ!」
「いや嘘だろぉおおおおお!?」
勇者が持った時しか光らないんじゃないのかよ!?
勇者だらけじゃん! いっぱい素質持ってるヤツいるんじゃんよ!
別に勇者俺じゃなくても良かった感じじゃないか、これ。
「えぇー! 皆凄い! 私も持ってみたい!」
と、アネモネも続く。ウッキウキである。
いやいや、あのねアネモネさんよ。さすがに魔物が勇者の素質持ってるワケないじゃん。自惚れるなよ?
光った。
「やったぁあああ!」
有り得ねぇだろぉおおおおお!?
「いや、やったぁあああ! じゃなくて! なんで光らせられるの!? キミ魔物! MA! MO! NO!! どっちかと言うと敵サイド!!」
アネモネはすっかりご機嫌に聖剣を振り回す。
「しかも心なしか他の誰が持ってる時より力強く光ってない?」
「ィェエエエエエエイ!」
と、女子二人はノリノリだ。
ってかマジだよ。俺が持ってる時より神々しく光ってるじゃんかよ。どうなってんだよこれは!?
「え、ちょ、まじで? まさかこれ全員勇者の素質ある的な? ジョエルだけの専売特許じゃなかった感じ?」
すっかり面白がっているエイオスがアネモネから剣を受け取る。
もうわかったよ。勇者のパーティメンバーは皆勇者の素質持ってました。俺は別に特別な存在でも何でもありませんでした。
それでいいよもう、だから終わりにしよう。
「あれ? うっそ?」
「うわ、ダッサ! エイオス光らないし!」
「え……? 俺だけ光らない感じ? 魔物ですら光らせられたのに? 嘘でしょ……?」
エイオスの手に握られた聖剣は一筋の光も放たない。むしろ、くすんでいるようにすら見える。
さっきまでのハイテンションから一転、大きくショックを受けているエイオスから聖剣を取り返すと、剣は再び俺の手の内で光りだす。
アネモネが持った時程ではないが、確かに光っている。壊れたワケではなさそうだ。
「え、このメンツの中で俺だけ勇者の素質ないって事? 俺このパーティにいる必要……ある? てか、いてもいいのかな?」
「光を宿せないのが普通だ。気にするな」
俺は剣を鞘に納めながら、エイオスを慰める。
「いやいやいや、今の見てたら宿せるのが普通だったよね? 明らかに異端なの俺だよね? てか勇者よ、安心するのも判るけど、嬉しそうな顔すんのやめてくんない? 腹立つから」
「何なら、宿屋のオヤジさんにも持ってみてもらってはどうでしょう? 光らないのが普通と証明されれば、エイオスさんの心も穏やかになるのでは?」
なんて提案をしたのはギルだ。
しかしエイオスは、
「それで万が一にも光ったりした日にゃ俺の心が砕け散るからやめとくわ」
よっぽどショックだったらしいな。
とりあえず、紹介に戻ろう。
「そんなこんなで18歳にまですくすくと成長した俺は、村の皆に送り出され、聖剣片手に魔王討伐の旅に出たんだ。そして立ち寄った“ユヤの村”って所で……」
「そこで、僕はジョエルさんと出会ったんですよね」
と、ギルは懐かしそうに頷いた。
【剣士 ギルバート・アイン】
19歳。稲妻の様な歪な形をした魔剣「雷轟」を駆り、勇者と共に魔王を討伐した。
攻撃力に秀でており、基礎HPも高い。
雷轟の効果により、魔王の動きを封じる事に一役買った。
クソ真面目で敬語キャラで、パーティ内唯一の常識人的立ち位置。しかし残念な事にバカ。
あぁ、そうだ。俺が冒険に出て最初に立ち寄った村だし、良く覚えている。
村に入って早々に置いてあった御馳走がとても美味しそうで、我慢しきれず食べてしまった俺は、気付けば豚になっていた。
精神と肉体が切り離────
「ちょっとモノローグ中ごめんよ?」
と、モノローグを遮りエイオス。
何だよ。ここからが良いところなのに。
「冒険に出て最初の村でいきなり何してんのキミ? まがりなりにも勇者だよね? 何置いてある人様の御馳走勝手に食べてんの?」
「いやぁ、あまりにも美味そうだったし、腹も減ってたんで」
「まぁ百歩譲って食べちゃったのは仕方ないとして、何? 豚になってたって」
「それをこれから話すんだから、いちいち止めんな」
「おぅふ……なんで俺が悪いみたいな言い方するかね」
エイオスは小さく毒づいて黙り込んだ。
そして、肉体は豚になってしまったワケだが、精神は元の姿のまま、別の所に放り出された。
幽体離脱の様なイメージをしてもらえれば、それが一番近いと思う。
俺の精神はと言うと、謎のお風呂屋さんに居た。
そこには世界各国の神様的な人達が客として来て、汗を流して帰って行く。至って健全なお風呂屋さん、銭湯だった。
何故か俺はそこの従業員として働かされる事になり、そこで、
「ギルと出会った」
「えぇ、その風呂屋は湯婆ちゃんと言うお婆ちゃんが経営しているのですが────」
「さすがに止めるよ!? 止めるよ、いい!?」
と、すかさずカットインしてくるエイオス。
いちいち流れを止めるエイオスに、ニアもアネモネも頬を膨らせる。
「聞いた事あるなぁ……って思いながら聞いてたけど、さすがにここまでだわ。これ以上語らせねぇよ!? ってか、勇者がなったのそれ幽体離脱じゃない。神隠しって言うの! しかもさらっとお婆ちゃんみたいに言ってるけど、何だよ湯婆ちゃんって」
「ここからが良いところなんですよ? 本当に」
ギルも言いたくてウズウズしている様子だ。
「良いところとか、そう言うんじゃないんだよ。ってか、ギルちゃんもそこの従業員だったの? 礼儀正しいし、もっとこう……普通に由緒正しき剣士の家の出なのかと思ってたわ」
「なるほど」
と、エイオスの傍らでニアが頷く。
「ギルのその一見礼儀正しい所は、そのお風呂屋さんで働いていて身に付いたものなのね?」
「えぇ、まぁ。経営者の湯婆ちゃんがとても怖い人で、お客様も神様とかが多いので粗相があったら大変ですので」
「もうこの話自体が粗相以外の何物でもなくない?」
「それで! どうなったの!?」
勇者御一行のやり取りをかき分け、興味津々なアネモネが続きをねだった。
こいつめ、なかなか欲しがるじゃないか。
「そこからは大スペクタクルでした。ひょんな事から神様の一人が暴走しまして」
「もうオチわかったよ。龍に乗って勇者がその神様と戦って追い払った感じでしょ? で、その乗ってた龍の正体がギルちゃんで────」
「いえ、僕はジョエルさんに付いてまわる影の様な存在でした」
「そっちかよ!!!! あのアッアッ言ってる方!? カオダケの方かよ!」
最早くどいツッコミをするだけとなったエイオスを無視し、俺も話を続ける事にする。
「荒ぶった神、言うなればアラガミをギルと一緒に討伐した事で店は守られ、湯婆さんもすっかり上機嫌だったんでな。ここぞとばかりに事のあらましを説明し、豚になった俺の体を元に戻してもらって、そのまま解放してもらったんだ。豚を何匹も用意され、どれが俺の豚か当てなきゃ元に戻さない! なんて言ってきやがった」
「僕もそれに便乗して解放して貰ったんです。元々僕もジョエルさんと同じで、御馳走を勝手に食べた罰としてその精神世界に閉じ込められてしまっていたので……」
言って、ギルはあの時の事を思い出し、どこか遠い目をしながら、
「そうして解放された僕は他に行く当てもなく、ジョエルさんから魔王討伐の話を聞き、お供させて頂く事になったんです」
「あぁ。強い仲間を引き入れろと言われていたしな。一緒に共闘して見せてもらったが、ギルは剣も立つ。思わず勧誘してしまった」
「そっかぁ、それからずっと一緒なんだ。ギル様とジョジョはそんな長い付き合いだったんだねぇ」
俺達の出会いを聞いたアネモネは満足そうに微笑んだ。
「で、次に一緒に旅することになったのがニアだ」
そうね、とニアも頷く。
「ニアは、どういう経緯があって仲間になったの?」
と、アネモネは問うて来る。
こちらとしても語りたい気持ちは山々だ。
しかし、あまりこんな事は言いたくないのだが、エイオスのくどいツッコミのおかげで文字数をだいぶ使ってしまい、想定外のボリュームになってしまった。
一話で纏めるはずが、この体たらく。
大変恐縮ではあるのだが、続きは次回にする事にする。
良いから早く呪いを解けって?
こうやって過去に行った村などを思い返せば、それっぽい場所を思い出すかも知れないだろう。
そう言えばあの村に呪術師いたな! とか、あそこの洞窟に命の泉があったな! とかな。
アネモネはこれ以上ないくらいにいい笑顔を浮かべながら、どこから取り出したのか、大きな看板を掲げた。
「つづく」
と記された看板を。
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