【悲報】最強の勇者御一行様、死に損ないの魔王に呪いをかけられ最弱パーティにされてしまう!(略して悲報勇者)

九季さくら
九季さくら

第18話 勇者御一行と宿屋殺人事件 前編②

公開日時: 2021年1月21日(木) 21:28
文字数:2,809

 そして、全員がエイオスの元に集ったのを確認すると、

「思ったんだけど。これ、なんか俺達も巻き込まれて推理合戦始まる感じじゃん? って事は、あのゴローとか言う探偵も現場である二階に行くワケでしょ? その時チャンスじゃない? 俺達も捜査するフリして外出ちゃおうよ。さっきのアネちゃんの作戦続行でどうかね?」

「それは無駄だ」

 と、エイオスの考えを一蹴したのは、俺ではない。

 片やギルでもアネモネでもない。

 宿屋のオヤジはボケッと突っ立っているだけだし、ベルモットも俯いてしまっている。


 なら他に誰がいるか。ゴローである。

 いつの間にか俺達の密談に加わっていたゴローは、相変わらずふてぶてしい物言いで、

「この宿屋のドアと言うドア、窓と言う窓。外に逃げられる可能性のある箇所にはが爆弾を仕掛けておいた。ネズミ一匹、ここから出ることは出来ない」

「だからなんでだよぉおおおお!? なんでそれをお前がやっちゃう!?」

 それ犯人の仕事だって言ってんだろ!!


 俺の渾身のツッコミを受けたゴローは満足そうにほくそ笑みながら、わざわざ俺達の間を割って突っ切った。ヤツの向かう先は階段。二階に上がるつもりだろう。

 一段上りかけたところで、ゴローは足を止めこちらへと振り向き、

「たった一つの真実を見抜きたければついてこい、勇者ジョエル・ジョークハルト。探偵オレ達の推理が、いや、俺の推理が正しいと言うことを証明してみせよう」



 ば、バレてたぁああああああ!

 やっぱり俺達も下に職業と名前と表示されてたぁああああッ!!

 俺達主人公サイドだから連中の情報が見えてる感じかと思っていたが、関係なしに、漏れなく俺達の情報も他の連中に見えていやがった。

 だがこれでわかったぞ。これはアレか。コ○ンとか、推理モノで登場時に下に名前とか出るアレってことか。さすが事件と探偵と犯人の村だ。

 ってか、勇者って判ってたんならもう少し敬えや! 仮にも世界を救った英雄だぞ!?

 何俺達を犯人に仕立てあげようとしてやがんだ!



 ◇


 両脇の壁に火の灯った薄暗い階段を舐めるように、上へ上へと映して行くカメラ。

 やがて階段を上りきった先にある両開きの木製ドアが、ギィイイイイイ! と激しく軋みながら開いた。


「え? 何今の?」

 俺は突如として発生した謎のシーンを前に困惑する。

「多分ただのアイキャッチだよ。CM前とCM明けに挿入されるヤツ」

 と、今のシーンを冷静に分析したエイオスに、

「どこかで見た覚えのあるアイキャッチでしたね」

 ギルも続いた。

 アイキャッチ? 今のが?

 もう俺も読者も何が何だかわかんなくなってくるぞ?


「とりあえず、アネ達も二階に行った方が良いんじゃないかな?」

 俺達がアイキャッチ談義を繰り広げる傍らで、アネモネが言ってくれた。

「そうですね。このままじゃ僕達が犯人にされてしまう。とりあえず二階に行きましょう」

「となれば、アネモネとエイオスはニアの元に居てやってくれ。まだ犯人がこの宿屋の中にいる以上危険な状態に変わりはない。少しでも数人で集まっている方が良い。もし何かあったらさっきの悲鳴の様に大声を出せ。多分ヤツらは即座に駆け付ける」

 大きく頷きながら、俺も次なる指示を出した。

 が、エイオスは、

「でも大丈夫なのかい?」

 何かを不安視しながら問うて来た。


「大丈夫とは?」

「いや、彼らのボケ結構強烈だし、勇者とギルちゃん二人で対処出来るかな? って。一緒になってボケてたらいつまでもこの件終わらないから」

「さっきだって突っ込んで魅せただろ? だから大丈夫だ。それに、今回ばかりはここに泊まると言う発言や、探偵の神経を逆撫でするツッコミとか、エイオスが居る方が不安だ。俺がとっとと謎を解いて、真犯人を暴いて見せる」

「まぁ……そこまで言うなら。何だかんだで俺リンクシティ編出ずっぱりだったから、今回は休ませて貰うわ」

 俺の意見にエイオスはどこか納得しない様子だったが、唇を尖らせながら小さく頷いた。


「よし、行くぞ」

 言って俺が先頭を切って階段を上りだすと皆も後に続く。

 そして二階の廊下で今一度別れの挨拶を済ませると、俺とギルは騒がしい声が聞こえる探偵達が群がる部屋へ、エイオス達はニアの眠る部屋へと分かれた。



 現場となった部屋は俺達の部屋と対となる左奥の部屋だった。

 室内を軽く覗き込むと、部屋の真ん中には被害者と見られる影が横たわっている。


 ────その瞬間、


「おや、ここは探偵以外立ち入り禁止のはずだが。部屋を間違えたのかな?」

【探偵 シャーロット・ハームズ 55歳】

 入り口に佇む俺達に気付いたそいつはあたかも不審物を見るかのような目を向け、声をかけてきた。


 た、探偵ぃいいいいい!

 また新手だぁあああああ! 一体この宿屋だけで何人居やがるんだよ!!


「ふん。来やがったな」

 と、俺達を一瞥し不敵に微笑むはゴロー・アケチコ。


「じっちゃんの何かけて」

 四つん這い姿勢の証拠探しを切り上げ、身を起こしながらそんな事を言うは先程のキーン・ダイチ。

 深々とかぶっていた帽子はしまったようで、今は長髪を後ろで一つに結んでいた。

 何かけてだ? 知らねぇよ、ふりかけでもかけてろ。


「ペロッ……これは、青酸カリ……じゃない!?」

 と、窓際のサッシを姑がするように指で這わせペロリと舐めるは先程のコパン・エドリバー。

 小学生の様なナリをしたそいつは、あれれ~? と甲高い声を上げた。

 明らか青酸カリじゃねぇだろ。それただの窓際に溜まった埃だ。


 こんな感じで部屋の中には既に四人の探偵と、

「あ……あの、あなた達も探偵さん……なんですか?」

【旅行者 ミハネ・プリーツ 22歳】


 被害者の相方となる、先程の悲鳴の主であろう、ミハネなる女性が一人。

 俺達を見ながら、声を震わせそう言った。


 そして、

「…………」

【旅行者 ギャラン・プリーツ 27歳】


 部屋の真ん中に横たわる、ミハネの相方。ギャランなる男性。

 チラッと視界に飛び込んできたが、男の胸には刃物の様な物が刺さっていた。


 お世辞にも広いとは言えないこの部屋に、これだけの人数が集っている。

 未だかつて、探偵モノの二時間ドラマとかでも一部屋にこんなに探偵が集結した絵面は見たことがない。

 なんとも異様な光景が広がった。


 今、ここに前代未聞の推理合戦が幕を開ける!



 と、含みを持たせた終わり方をし、次回に繋げたい所だが、一つだけ言っておこう。


 そもそもこれは推理小説ではない。

 大層な推理もトリックもない、ただのギャグ小説だと言うことを、読者の皆様には常に念頭に置いて頂きたい。

 俺達と一緒になって真面目に推理するのは労力の無駄かもしれない。

 頭を空にして、次はあの探偵はどんなバカな発言をするのかと生暖かい目で見届けて頂ければ、それだけで幸いに思う。


「俺達も、混ざらせてもらうぜ」


 言って、俺とギルは探偵達に睨み付けられながらも、事件現場となった一室に足を踏み入れた。

 ギシッと床の軋む音が、やけに大きく聞こえた。



 ネクスト ジョエルズ ヒント……彫像



【勇者御一行と宿屋殺人事件 中編】へ続く。

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