確かに、言われてみればそうかもしれない。
卒業制作を作っているって事は、もう卒業間近って事だろ?
新たなメンバーが加わる流れが一変。不穏な空気が流れ出した時、
「そうなんです。実は5日後、卒業試験がありまして……」
セレナが申し訳なさそうに、重い口を開いた。
「一緒に行きたいのは山々なのですが、その試験を受けないといけなくて……」
「えぇええええ!? じゃあセレナは一緒に来ないの!?」
アネモネがセレナに抱きついたまま頭をポカポカと叩いた。
「でも、試験自体は目を瞑っててもパス出来ると思うので、タイムリミットの5日後まで、この死の秘本から呪いを解くヒントを手に入れ、皆さんをサポートします。一緒に行けないのは残念ですけど……」
言って、セレナはシュンと肩を落とした。
テストについては随分余裕っぽいが、ここでヒントを探すとして、どうやって俺達にそれを伝えてくれるんだ? まさか、リミットの5日間ここでセレナの調べ事待ちになってしまうのか?
「僕らも僕らで、やれる事はやりたいですからね……さすがにずっとここに居る訳には」
「俺とアネちゃんに至ってはこの街では賊って事になってるからね? 早く次の街に行きたいってのが正直な所だよ」
そう言えば、エイオスとアネモネはおたずね者コースなんだったな。
武器屋のオヤジが街の衛兵に事件を話していれば、街の掲示板にWONTEDとして貼り出されているかもしれない。
さてどうしたもんかと眉根をしかめる御一行に、
「ちょっと待ってて下さいね!」
死の秘本を抱き抱えたまま、セレナが他の部屋に駆けて行った。
が、なんだ? と思っている内に、セレナは直ぐに戻ってきた。
「これを皆さんに! 持っていって下さい!」
言うセレナから、獣の歯の様な形をしたピンバッチを手渡された。
「これは?」
またセレナ印のアイテムか?
「はい、黒魔術アイテムの一つで、女鬼《めき》の歯の形を模したピンバッチです。その名も“Her My 鬼《オニ》”」
「最後の最後にまたぶっ込んでくるのやめてくれない? やっと終わるかなって時に、しかもそんなモロな名前のアイテムやめて?」
またエイオスが頭を抱えた。
「で? またセレナ印のアイテムだ。このハーマイ鬼、ただのピンバッチって事はないんだろ?」
俺はしげしげとそいつを見つめながら口にした。
セレナは、
「はい。これは皆さんの現在地を把握出来るレーダー的な役割と、ピンバッチにはスピーカーとマイクが付いていますので、離れていても会話をする事が出来るんです」
言いながら後ろ手に隠していたもう1つ。アイテムではなく、一匹の魔物を、まるで小鳥を指に乗せるかの様に、俺達の前に差し出した。
「こいつは……?」
「伝書バット?」
突如目の前に現れた小さな魔物を見、ニアが言って首を傾げる。
「さすがニアさんです! この子は伝書バットと言うコウモリの魔物ですが、魔法使いの間ではフクロウと同じ様に、昔からペットとして飼われているんです。ちなみにこの子の名前は“ロン”と言います」
セレナは言いながら伝書バットの小さな頭を撫でた。良くなついている様に見える。
エイオスは無表情で天井を仰ぐだけで、遂に何も言わなくなった。
「先程、ピンバッチは皆さんの現在地を、とお話しましたが、そのピンバッチからはこの子、伝書バットが好む周波数が出ているんです。ですので、今どこに皆さんが居るのか、私はこの子に教えてもらう事が出来ます。それに、もし渡したい物があれば、この子にそのピンバッチの周波数目掛けて飛んでいってもらい、皆さんに物を届ける事も出来るんです。
さすがに伝書バットですので、重いものではなく、封書でしたり、軽い物オンリーになってしまいますけどね」
「要約すると、離れていてもセレナさんとコンタクトが取れて、軽い物であれば物のやり取りも出来る……って事ね?」
いつの間にかニアの肩に飛び乗った伝書バットの頭を撫でながら、ニアがセレナの説明を簡潔に訳した。
「そう言う事です」
と、セレナは頷き、
「物のやり取りに関しては基本的に私からって感じにはなりますけど」
「って事は、俺達は俺達で好き勝手動き回っていて良いって事でいいのか?」
「はい! 私はここで調べ、何かわかったら直ぐ皆さんに連絡しますので。その間皆さんもご自由に行動して頂いて構いません!」
セレナが大きく頷くと、伝書バットも任せとけと言った感じに室内を飛び回った。
そうと決まれば、俺達もとっとと次なる行動を起こすとしますかね。
あまり悠長に長居している場合でもないし。
「ジョエルさん、次はどこに行ってみますか?」
と、ギルが再び次の行き先を求めてきた。
俺がそうだな……と悩んでいると、
「もし行く当てがないなら、雪の都・ブリージアに行ってみて下さい」
と、セレナが進言してきた。
「雪の都……ブリージア?」
「はい。あそこもリンクシティと同じ様に魔法都市ですし。何より、雪の呪術などにも精通した赤い雪の女王が居ますので、何かしらのヒントは得られるかと」
なるほどな、と俺は思った。
確かに以前立ち寄った時、雪によるデバフ効果等に苦しめられた記憶がある。
氷漬けにする呪術があるなら、それを解除する呪術もある……か。
俺達にかかった呪いの全てでなくても、どれかしらを解除する事が出来れば御の字と言えよう。
それに、全く当てのない今、適当な村に行くより、セレナの言う事を真に受けた方が得策かも知れないからな。
「女王……前回行った時その人に会ったっけ?」
「メインクエストをこなしていく中では会う事はなかったですよね。サブクエストをやれば会えたのでしょうか?」
「俺はその時まだパーティに入ってなかったから、そこもお初だしわからんよ」
何て言うニア、ギル、エイオスの会話を余所に、
「よっしゃ! 次は雪の都・ブリージアにでも行ってみるか!」
俺もここぞとばかりに仕切る事にした。
「雪の都かぁ♪ 暖かい格好した方がいいのかな!?」
次の未知なる行き先にアネモネも目を輝かせる。
「あぁ、ブリージアはクソ寒いからな。しっかり防寒着を着た方がいい」
行き先も決まり盛り上がる俺達を、セレナは楽しそうに見ていた。
そんなセレナと目があったので、
「それじゃあ一つ頼んだぜ、セレナ。俺達はきっとまたここに戻って来る」
「えぇ。お気を付けて行ってきてくださいね♪」
友達と言うものがどんなモノなのか。セレナが理解したのかはわからない。
だけど、こんなのは理屈ではない。
友達に、仲間になろうと言って、次の日からなるモノでもない。
勝手に、気付いたらそいつがかけがえのない存在になっていて……ってだけの話だ。
俺達はリンクシティで出来た新たな友と、今一度別れの挨拶を済ませると、夜の内にローブを着て外に出た。
途中、街の看板におたずね者として貼り出されたエイオスの似顔絵を見つけ、エイオスは心底肩を落としていた。
アネモネも一緒におたずね者になったと思っていたら、アネモネはあくまでエイオスが使役する魔物だと判断された様で、賊となったのはエイオス一人だけ。
そんな謎の魔物使いの懸賞金は5000G。雷轟の買取額よりも安い懸賞額と言うことで、エイオスは余計に落ち込んでいた。
そして、俺達は再び転移の祠のワープゲートの前に来た。
次なる行き先の雪の都・ブリージアへの直接リンクはない。と言うことは、一番近隣の街の祠に転移して、そこからは自力で行かなければならない。
最早行き先設定担当になったエイオスがセレナからもらった地図を見ながら、
「えーっと、ブリージアに行くには……タンティータウンって所の祠が近いみたいだね」
言って、行き先をタンティータウンの祠に設定する。
タンティータウン……ここは俺とギルにとってトラウマの村だが、直ぐに出れば何事もなく切り抜けられるだろう。
「よし、設定完了だよ!」
「それじゃあ、行きますか! 雪の都・ブリージア!」
俺の鼓舞に、
「「おぉおおおおっ!!」」
一同が大きく手を上げた。
良い返事が聞けた俺は微笑んで、ワープゲートに飛び込んだ。
嵐の様な半日を過ごしたセレナは疲れから椅子に座り窓の外を眺めていた。
色々な事がありすぎた1日だったが、自分にもやる事が出来た。これ以上友を失わない為に。そして、友を迎えに行く為に。
自分にしか出来ない事を、全力でやるのだ。
御一行が旅立つこのタイミングで、セレナが見上げる夜空を一つの流れ星が駆けて行った。
呪いのカウントダウン
運命の刻まで
あと5日 (レベル137)
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