【悲報】最強の勇者御一行様、死に損ないの魔王に呪いをかけられ最弱パーティにされてしまう!(略して悲報勇者)

九季さくら
九季さくら

第6話 勇者御一行、今明かされるパーティ結成秘話②

公開日時: 2020年10月18日(日) 21:53
文字数:5,943

 前回に引き続き、どういう経緯で現パーティメンバーがつどったのか紹介タイムである。いつまでやってんだとかは言わないで欲しい。



「次は私ね!」

 と、前回、目前にして出番をぶつ切りにされたニアはのっけからやる気に満ちていた。


「私がジョエル達と出会ったのは、トンボシティと言う街よ」

 長い髪をなびかせて、猫のように鋭い目を輝かせて言い放つニア。



魔術師ウィザード ニア・ノードン】

 20歳。大きな魔杖「ワイズロッド」を駆り、勇者と共に魔王を討伐した。

 パーティの紅一点。HP、物理攻撃力は低いものの、MPが高く、忘れるまでは強力な呪文の数々を覚えていた。

 ワイズロッドの効果により、魔王の動きを封じる事に一役買った。

 作者のせいで影が薄い存在になる事もしばしばだが、それはまた別の話。

 美人だが貧乳で、その思考はお馬鹿。



 そう。俺とニアは、トンボシティと言う大きな栄えた街で出会った。

 確か冒険を始めて10ヶ所目だかに立ち寄った街だ。


 俺とギルは街に入ったその日の内にカジノで大敗を喫し、翌日からの生活をどうするか悩んでいた。

 リベンジ資金を得る為、盗賊狩りをし、賞金稼ぎをしながら生計を立てて────

「よし、早速つっこむぞ? いいね?」

 と、前回と同様にエイオスが遮る。やれやれと俺も首を振る。


「またか」

「またか、じゃないんだよ露骨に不服そうな顔しやがって。もうおかしい所だらけなんだよ」

「どこがおかしいと言うんですか!!!」

 今のエイオスの発言は何故かギルの逆鱗に触れた様で、ギルはその場に乱暴に立ち上がると珍しく声を大にして反論する。


「ギルちゃんもね、何でか急にキレてるけど。お前ら何してんの? 魔王討伐の旅だって言ってんだろ。何カジノで遊び呆けてんのよ? しかも負けてるし」


「装備を充実させるにも金が必要だと思ったんだよ」


「後1000ゴールド、1000ゴールドと思っている内に引くに引けなくなったんですよ! もう少しで当たっていたかも知れないのにッ!」

「うん、馬鹿。ギャンブルにいて後いくらで当たるかもって考えは捨てなさい。てか、ここでギャンブルの怖さをアツく語らなくていい」

 エイオスは依然として立ったままのギルを諭しながら、座らせようと手を引く。


 しかしギルはエスカレートしてしまったのか、

「納得がいかないのはその後です! あれだけ僕がやって当たらなかったのに、後からひょっこり僕の打っていた台に座ったババアは1000ゴールドも使わないで当たりを引いたんですよ!? こんなの遠隔操作でしょう!? インチキです!」

 確かにあれはあんまりだったな。隣の爺さんは召喚術? の使い手なのか、画面に手を沿わせただけで魚群を召喚して当てやがるし。

 こっちは何回死神の女の子に「ごめんね(笑)」と謝られたかわからないと言うのに。


「お前らカジノじゃなかったのかよ。それただのパチ○コじゃんかよ。勇者ともあろうもんが何やってんの。ってか、ギルちゃんすぐアツくなっちゃうみたいだしギャンブル向いてないから辞めた方が良いよ。ギャンブルの話になった途端キャラ崩壊してるし」

 つっこむエイオスの顔にもさすがに疲れの色が見えた時、

「もうその辺のくだり省いてくれない? いつまでも私登場して来ないじゃない」

 痺れを切らしたのは他でもないニアだった。

 実にもっともである。


 では、ニア登場の部分まで話を飛ばそう。


 トンボシティで暮らすニアは魔法使いと言う身分を隠しながら、生活の為、パン屋と宅急便のバイトを掛け持ちしていた。

 元々愛想の良いニアは接客に於いても宅配に於いても客からの評判は良かった。


「うぅん、魔女の宅……いや、もう突っ込まないわ」

 言って、エイオスが首を振った。

 ツッコミがいないと成立しないぞ?


 しかし、いつまでもエイオスは口を開かず、本当にもう突っ込む気がない様だったので、俺も話を続ける。


 パン屋と宅急便のバイトは表の顔で、実はニアには裏の顔があった。

 それは、魔法を使って治療を行う闇医者だった。

 患者は一般人から裏社会の者まで幅広いが、如何せん非合法な闇医者業だ。

 どちらかと言えば、裏社会に生き、表立って治療を受けられない身分の人間の方が多かった。


「わかった!」

 と、そこで授業中一人だけ正解がわかった生徒の様に元気良く挙手したアネモネは、

「賞金稼ぎの最中に怪我をして、それでニアに治療してもらってスカウトしたとか!?」

 自信満々に言ってくれた。


 が、

「惜しいな。俺達は魔王を討伐する為に冒険をする勇者一行だぞ。そんな俺達がそんじょそこらの賞金首ごときにやられると思うか? 俺達は賞金首を倒し、懸賞金を受け取った」


「そしてその足でカジノにリベンジに向かったんです」

「またパチ○コ屋出てくんの!? お前らが討伐しようとしてるの欲望と言う名の魔王かよ!」

 さすがに再びツッコミを入れてきたエイオス。突っ込まないと言ったり突っ込んで来たり、忙しい奴だ。


「あぁ。俺達は同じ相手に二度負けはしないと思ってな」


「しかし、現実は甘くなかった。僕らはまたもやすかんぴんにされてしまったんです」


 思い出し再び怒りが湧いてきたのだろう。ギルは奥歯をギリリと噛みながら、

「僕らが血の滲むような思いをして得た金を、ヤツらはインチキを使い、物の数分で全て奪っていく。そんな一切の情けもない、卑劣さ、極悪非道さに心底腹を立てた僕は、一心不乱で店の台を壊したんです」

「もうお前らただのチンピラじゃんかよ。勇者たる資格も糞もないじゃん。こんなヤツらですら聖剣光らせられるのに何で俺は光らせられないかね? コイツら以下なのか?」


「頭に血が昇った俺も、ここぞとばかりに一緒になって台を壊していたら、店員に事務所に連行され、怖いお兄さん達にボコボコにされ、路地裏に捨てられたんだ。店員に羽交はがい締めにされながらも、まだ台を壊してやろうと暴れるギルの鬼気迫った表情を俺は忘れない」

「賞金首には負けずにギャンブルに負けたワケか」

 言ってしまえば、俺達が旅を始めて、初めて味わった敗北だった。


 俺達の心の中を表すかの様な土砂降りの雨の中、財布の中を表すかの様な寒さの中、ぼろ雑巾の様に横たわっていた時、闇医者ニアの存在を耳にし、ニアの働くパン屋を訪れたんだ。


「二人してボコボコのジャガイモみたいな顔で店を訪ねて来た時はびっくりしたもんよ」

「そりゃそうだ。でも、何で普通の病院に行かなかったのよ?」


 それはあれだ。魔法で治療してもらえばすぐ治るだろう? 注射もしなくていいし、痛くないだろうし。


「で、来る者拒まずで治療をしてあげたら、治療の後に無一文だと言い出す始末。裏社会の人達は筋が通ってるから金払いは良かったし、こんな食い逃げみたいな事されたの初めてで。ちゃんと治療代を払って貰うまでどこまでも付いていく事にしたの」

 言うニアは、懐かしいわぁと小さく付け加えた。


「え、治療代取り立てる為に一緒に旅してたの? って事は、ニアがまだここにいるって事は、まだお金貰ってないの?」

 と、アネモネがニアの顔を覗き込む。


「一緒に旅をしていると、ニアの魔法が、これがまた実に便利でな。これはひょっとして、ずっと治療代払わなければ魔王の所まで一緒に来てくれるんじゃないかと思ったんだ」

「キミ本当に勇者? 何その姑息な考え!?」

 腕組みをしながら大きく頷く俺に、エイオスが目を飛び出させる程のオーバーリアクションをした。


「いや、道中で戦闘をこなしていく内にお金も貯まって、全額どころか色を付けて返してもらったわよ」

 と、そこでニアがフォローを入れてくれる。


 そして、

「その過程でジョエル達の事情も聞いていたけど、何かトンボシティで働いているより儲かりそうだし、皆と居ると退屈しなさそうだったし、それ以降も一緒に旅することにしたのよ」

 優しげに微笑みそう付け加えた。


「それで、ニアが二人目の仲間になったんだね♪」

 と、アネモネも納得したと頷く。


 しかし違うのだ。

「いや、トンボシティは10ヶ所目だかに立ち寄った街だと言ったろ? それまでに他に三名程仲間にはなったんだ」

「そうなんです」

 とギルも続く。

「実は武闘家の方や、他にも魔法使いの方、槍使いの方と仲間になっていたんです」


「え? そうなの!?」

「私もそれは初耳なんだけど……」

 エイオスもニアも目を丸くする。


「しかしどうにも皆、僕らと歳が離れすぎていることもあってかウマが合わなくて……」

「特に俺は、事ある毎にこれ見よがしに筋肉を見せつけてくる武闘家のおっさんが大っ嫌いだった」

「僕も気持ち悪いと思っていたのですが、それ以上に、この様にジョエルさんが心底毛嫌いしていまして。道中で立ち寄った村に酒場があったので、そこに置いて来たんです」

 当然の事をしたと言わんばかりに大きく頷くギル。


「え? って事は、まだその人達はキミらが迎えに来ると思って酒場で待っているって事?」

 と、エイオス。

 それについてはエイオスの紹介で話そうと思う。


「いや、なんで俺の時に? 俺関係なくない? まぁ良いや。最後は俺だね!」

 満を持して自分の番となったエイオスはこれ見よがしに立ち上がり、決めポーズを取る。


暗殺者アサシン エイオス・レイジ】

 23歳。ナイフやサイレンサー付きの小銃を用いた暗殺術に長け、勇者と共に魔王を討伐した。

 素早さ、運のステータスが高い。

 魔王討伐の際には後方から全面的に勇者達を応援し、皆の士気を上げる事に一役買った。



「……なんか俺の紹介だけアレじゃない? バカとすら書かれていない」

「実際魔王戦ではあんた何もしてないじゃない」

 ニアに睨まれたエイオスはうっ……と息を詰まらせうつむいた。


 書かれていないだけで、あそこまで魔王を追い詰めるまでの過程でも、エイオスは声を枯らさんばかりの、運動部並みの大声で俺達を応援してくれていた。

 俺達が吹き飛ばされれば一緒に吹き飛ばされながらも俺達の身を案じてくれる。

 優勢になればここぞとばかりに煽り倒────

「なんか役立たずに思われそうだ! 早く出会いの件に話を移そう!」


 そうだな。エイオスと出会ったのは旅も終盤。マコトノの村と言う村で出会った。


「俺はその時、フリーランスの殺し屋をやっていたんだ。で、ある依頼を受けてマコトノの村に来ていた」

「フリーランスの殺し屋?」

 首を傾げるアネモネに、そうだ、とエイオスは頷き、

「いくら金を払うから、アイツを暗殺してくれって依頼されるの。ゴ○ゴ13的な? その村は、魔物が成り済ました神官に牛耳られていたんだ。で、俺は俺で別件でその魔物神官の暗殺の依頼を受け、勇者達はアイテムを手に入れるため、魔物神官討伐を試み……」


 要はたまたまターゲットが一緒になったんで共闘したんだ。


「共闘って言うか、私達が来なかったらアンタ死んでいたわよね?」

「ちょ、ニアさんね。そんなのは言わなくて良いの!」

「あの時のエイオスさんは神官に捕らえられていて、打ち首になる寸前でしたよね?」

「ギルちゃんも余計なこと言わなくて良いから! って言うか、アレはたまたまですぅ! いつもはあんなドジ踏まないもん。勇者御一行が来ているって言うから、ちょっとその腕前を確かめさせてもらっただけですぅ!」

 予想だにしなかった暴露にエイオスが口早に言い訳を口にする。


 別に死刑寸前のエイオスを見なかったことにも出来たのだが、捨て犬の様な目でこちらを見てきた事もあり、良心の呵責かしゃくに耐えられず助けたのだ。

 そのまま神官を倒す所まで付いてきて、その後も俺達の後を付け回し、気付いたらちゃっかり仲間に加わっていた。


「ねぇ勝手に付いてきたみたいに言うのやめてくれない? 何で俺の時だけそんなもっともらしく嘘の回想言うの? 読者は本当にそうなんだと思い込んじゃうじゃん。ちゃんと正式に仲間に入れてくれたじゃん?」


 俺達がでっち上げた嘘の回想を言っているのか、エイオスが嘘を吐いているのかの判断は読者の皆に委ねようと思う。

 しかし、ここでさっきの酒場が出てくる事になる。


 魔王の神殿ももう間近。

 最後に仲間に加わったのがエイオスと言うのを些か不安に感じた俺は、マコトノの村にある酒場に寄った。


 不思議な事にこの酒場、何故か入り口のドアを開くと、中が以前仲間を置いてきた酒場と同じ。

 故に、違う村にいながらにして、仲間の入れ替えが出来るのだ。


「待って待って? なんか酒場に寄ったなと思ったらそう言うことだったの?」

 真相を知ったエイオスの顔から血の気が引いた。


 そう。最後の仲間がエイオスである事に不安を感じた俺は、エイオスを酒場に預け、以前置いてきたウマの合わない仲間を連れ出すと言う苦渋の決断を下したんだ。


「え、ショックなんですけど? 聞きたくなかったわぁ」

 最早エイオスは涙目になっている。


 しかし、そこはさすが運のパラメーターに秀でたエイオス。

 以前酒場に置いてきた連中は皆既に家に帰っており、エイオスをこのまま連れていく以外の選択肢がなくなっていた。


「僕らが置いてきたのに勝手にいなくなるもんなんですね。普通迎えに来る来ないに関わらず、ずっと酒場に居てくれるはずなのですが……」

 と、思い出しながらギルがムムム、と顎に手を当てる。

 ニアも、

「まぁ、勇者の仲間になったとは言え、彼らも人間。自分の生活もある。他にやることもあるでしょうし、ただ待っているだけなワケがないわよ」


 今明かされる驚愕の真実に、すっかり項垂れているエイオスに、

「だがな」

 と、俺は言葉をかけた。

「結果として、俺はお前がパーティメンバーで良かったと思っている」

「勇者……」

「戦闘に於いては役に立たないが、会話も弾むしウマも合う。このパーティ内のムードメーカーだ。皆がボケてばかりの中でこそ、お前のツッコミも光る。それに、聖剣に光を宿せないヤツが一人でも居てくれれば、俺は多少なりとも安心していられるからな」

「結局それかよ!!!」


 とまぁ、落ち着いてオチが付いた所で、これが現パーティメンバー集結秘話とさせて頂こう。


 意外な一面が見えた事で、このキャラ好きだったけど嫌いになった! とか、そんな寂しいことは言わず、これが俺達なのだと改めて認識した上で、認めて頂けたら幸いである。


「こんな感じだ、アネモネ」

 と、今回の言い出しっぺであるアネモネに言葉を投げると、

「あら……?」


 俺達が昔話に花を咲かせている傍らで、小さく寝息を立てていた。

 随分長い時間話してしまったもんだと、俺達も顔を見合せ微笑み合うと、時間の経過に気付き各々が欠伸をしながらベッドへと入っていく。


 あわよくば、これで寝て起きたら全回復して呪いも解けていないかな。なんて、淡い期待を抱きながら。

 そして、もし解けていなかったら、次はどういう行動を起こすべきか。次なる作戦を練りながら。


 ベッドに横になり、窓から見た月は綺麗な満月だった。



 呪いのカウントダウン

 運命の刻まで

 あと6日 (レベル161)

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