【悲報】最強の勇者御一行様、死に損ないの魔王に呪いをかけられ最弱パーティにされてしまう!(略して悲報勇者)

九季さくら
九季さくら

第二章 勇者御一行と剣と魔法の街・リンクシティ

第7話 勇者御一行、新たなる旅立ち

公開日時: 2020年10月19日(月) 17:02
文字数:5,647

「朝だぁあああ! 起っきろぉおおお!」


 その朝、ニワトリよりもやかましい目覚まし時計が俺達の耳元で鳴り響いた。否、がなり叫んだ。


「うるっせぇな!」

 飛び起きた俺はハッと我に返り、辺りの景色を見渡し、今がどういう状況なのかを理解した。

 目覚まし時計もといアラクネー・アネモネの大声と俺の怒声により、他のメンバーも目を擦りながらのそのそと起き上がる。


 そうだ。俺達はとりあえず戻って来た村の宿屋で一泊したのだ。

 窓から射し込む陽の光を見て、本当に魔王を倒したのだと改めて実感する。


 実感すると共に、俺は慌ててステータスを確認し、

「クソッ! やっぱり寝ただけじゃダメか……」

 思わず舌打ち混じりに悪態をついた。


 レベルは156まで下がり、最大HPをはじめとするステータスも減少。

 遂に俺の防御力もエイオスと同じくマイナス圏に突入した。これで俺もお風呂のお湯程度でやけどする体にリーチがかかったと言うワケだ。


「お前らはどうだ?」

 わかってはいたが、とりあえず聞いてみた。


 しかし返ってくるのは予想通りの返答で、

「ダメだわ。私はもう少しで運が0になる……」

「俺もダメだわ。素早さが少し下がったし、防御力もマイナス350になった。もう紙で指切っただけで出血多量で死ぬんじゃないかな?」

「まだマイナスのパラメーターこそないですが僕も満遍なく下がってますね……」

 と、各々に首を振る。


 そこに、

「ギル様……目の下クマだらけ……大丈夫?」

 ギルの顔を覗き込んだアネモネが心配そうに言った。

「ありがとうございます、アネさん。大丈夫です。ちょっと夜トイレが近くて、なかなか寝付けなかっただけなので」

 ギルはもの恥ずかしそうに笑いながら言葉を返す。

 が、待ってくれ。

 

「ギル……お前もなのか?」

「お前も、って事は……ジョエルさんも?」

「あぁ、もう何回トイレに起きたかわからん。だから全然寝た気がしない」

 そうだ。思い返しただけでも7、8回はトイレに起きている。酒を飲んだワケでもないんだが。


 ムムム、と眉根を寄せていたギルは何かに気付いたようで、

「ジョエルさんも……と言うことは! まさかニアさんも────」

 そんなギルの言葉を遮り、ニアが電光石火の早さでギルの頬っぺたを引きちぎれんばかりにつねった。


「ギルちゃーん? 何でうるわしきレディにそんな話振る? アンタにはデリカシーってもんがないのかなぁ?」

「いでででで! 痛いじゃないですか! 放してください! それに目が怖い!」

 と、すっかりギルは涙目になっている。


「ホント、アンタは礼儀正しく真面目そうに見えて実は一番無礼者なのよね」

 ニアは最後により一層力強くつねると、ようやくその手を放してやった。


「ニアが麗しいかはともかくとして、お前もトイレ近くて眠れなかったのか?」

「ともかくじゃねーよ! てかここにもデリカシーないのが居たよ! なんなのこいつら!」

 言いながら、今度は俺にニアの魔の手が伸ばされ、今まさに俺の頰をつねろうとした時────


「多分これだ」

 と、一人距離を置いて大人しくしていたエイオスが、魔王の呪いリスト片手にやって来た。

 そして、ある一文を指さし、

「ほら。夜寝ている時だけ頻尿になるって項目がある。だから皆もれなく寝不足だよ」

 あっけらかんと言い放った。


 あんの野郎……

 こんな細やかな嫌がらせみたいな項目まで作りやがって。改めて、この呪いリストを見ると怒りがこみ上げてくる。


「皆……どうするの……?」

 と、心配そうにアネモネが問う。

 無理もない。折角仲間になったと思ったら、仲間に少しずつ死が忍び寄って来ているのだから。


「とりあえず、この村に居ても解決しない。他の村を当たろう」


 それが俺の出した結論だった。

 そんな俺の案に疑問を抱いたのはやはりアネモネで、

「6日間しかないんだよ? 悠長に移動する余裕なんてあるの? 他の村に行くのだって時間かかるよね……?」

「それは心配ないよ」

 と、エイオスがその質問に対する返答をする。

「全部の村に……ってワケじゃないんだけど、転移のほこらって言う、祠間を一瞬でワープ出来る不思議な施設? 設備? 場所……? まぁ、そんな祠があるんだよ」

 お前もあやふやじゃないかよ。


「それを使えば祠のある村同士の行き来には時間はかからないのよ」

「そんなのがあるんだぁ! ワープしてみたい!」

 ワープと聞いたアネモネはすっかり舞い上がっている。

 こいつは良いな。観光気分で。



「ここですね」

 そんなこんなで、俺達は身支度を済ませ、村のはずれにある祠に来ていた。

 ただ一つ心配なのは、

「なぁ。万が一にも、ちゃんとこの世界に転移出来るんだよな?」

「ん? 今更何言ってんの? 何度となく使ってきたじゃん」

 と、エイオスが不思議そうに問う。


「いや、俺達は呪われた身……ワープ自体は出来たとして、ちゃんと他の村の祠に行けるのかなって。間違って他の作品にワープしちゃった、とかならないよな?」

作者アイツならやりかねないけど、さすがにないでしょう……いや、ないと信じたいね」

「転移したらイスラムだった件……とかになったらシャレになりませんからね。いきなり扮装地帯はマズイです」

「キミの発想がマズイわ」

 真面目に言い放つギルの目を見ることなく、エイオスが言い切る。


 そして、おもむろにワープゲートに近付くと、

「でも多分大丈夫だよ、これ。ちゃんと行き先に他の村の祠の名前出てるし」

 先導を切って調べてくれた。

 こう言う時、無駄に行動力のあるエイオスが居てくれると助かる。背中を押してもらった感じだ。


「いつの間にそんな心配性になったんだか」

 と、ニアが俺を見てほくそ笑む。

 うるせぇやい。

「ワープ♪ ワープ♪」

 アネモネはスキップしながらワープゲートへと近付いた。


「ジョエルさん」

 と、俺のかたわらでギルが声をかけてきた。

 なんだ?

 

「僕は今までの旅で、ジョエルさんの危機回避能力をずっと見てきました。こう言うときのジョエルさんの嫌な勘は割と当たる」

「やめてくれない? 行くかって気になってた所で不安煽らないでくれない?」


「ここはどうでしょう。エイオスさんもやる気ですし、先見隊として先に行ってみて貰っては……無事この世界線の祠に着いたらまたすぐ戻ってきて貰えば良い。もし戻って来なかったら、あり得ない場所に飛ばされたと判断が出来ます」


 真顔で言うギルバートと言う男に、俺は確かな恐怖心を感じた。

 こいつはバカだ。バカ真面目だし、意外と冗談も通じない。だからこそ、今の発言をマジのマジに言っているのだと思うと、俺は恐怖する事しか出来なかった。

 このパーティ内で実は一番やべぇヤツ説もあるギルバート。俺は、魔王よりもこいつの方が怖いかも知れない。


「ジョジョー! ギル様ー! 早くー!」

 と、向こうからは俺の気も知れず、アネモネが俺達を呼ぶ。


 四の五の言っている場合ではないか。

 これを使わなければ移動だけで時間かかり、6日なんてあっと言う間に過ぎてしまう。


「仕方ない。皆で行きましょう、ジョエルさん。恨みっこなしです」

 と、ギルも頷き、ワープゲートへと向かって歩み始めた。

 俺の恐怖から歪んだ顔を気にも止めない。


 くそっ、いい加減覚悟を決めるしかなさそうだ。

 俺も皆にならい、ゲートの前に行く。


「とりあえず、万が一にもワープ中離ればなれにならないように皆手を繋ごう」

「そこまでしなくても大丈夫だと思うよ?」

 あまりに心配性な俺にエイオスも笑った。

 が、俺の指示通り、皆で横一線に並び手を繋いだ。


 そして、エイオスが過去に訪れた村の名前リストから、

【リンクシティ】と言う、剣と魔法が栄えた大きな文明都市の名を選択する。

 ここになら何かしらのヒントになりそうなモノがあるんじゃないかと思うのだ。


「南無三!!!」

 意を決して選択を確定すると、視界がグニャリと歪んだ。

 吐き気を催す程の目眩めまいが俺達を襲った。



 ◇


「ほら! 全然大丈夫だったよ!」

「ワープ面白かったー! 凄い凄い♪」

 と、目を開けるのが怖く、なかなか目を開けられないでいた俺の耳に、そんな明るい声が聞こえてくる。

 その声に安心した俺も続いて目を開けた。


 既に祠の扉を開けた面々が外へと飛び出して行く。

 しばらくして、突然の眩しさにも目が慣れてきた。

 視界は見覚えのある世界観の街の風景を映し出す。

 祠の外に出ると、街の離れ、少し小高い丘の上にあるこの場所から、街の全貌が一望出来た。間違いない。【リンクシティ】だ。安心した。


「で、どこから回るん?」

 と、エイオスが街を見下ろしながら問うてくる。

「まず防具屋にでも行くか」

 俺が下した次なる決断が上記の物だった。


「え、なんで?」

「僕らのステータスは本来なら装備のプラスアルファ分となる数値も関係なしに、マイナス補正がかかってるんですよ? 今更防具なんて……」

 と、ニアやギルも首を傾げる。


 俺の考えはそれとは別だ。

「いや、ステータス云々の前の問題だ。俺達は昨日村に帰ってどうなった?」

「風呂で火傷した!」

「そうじゃねぇ。村に帰った俺達を見た村人はどうした?」

 俺はまだ俺の作戦を理解できない連中に、出来うる限り最大のヒントをくれてやる。


「村人は……ジョジョ達を歓迎してた!」

 と、先に解答したのはアネモネだ。

「そうだ」

 俺は満足げに頷き、

「俺達は他の人達に顔が割れ過ぎている。これからどの村を訪れるかわからない中、そんな毎度毎度『勇者御一行様! お疲れ様でした!』とか言われ、宴に誘われ、それを断り続けるのも時間の無駄。それ故の防具屋よ。防具屋にならローブの類いの顔を隠せるモノくらいあるだろう」

「そうか! さすがジョエルさん! 天才的ですね!」

 俺の作戦の真相を知ったギルが俺を讃える。

 照れるじゃねぇか。


「そこで、アネモネに頼みがある」

「アネに!? 何!?」

「今言った、顔を隠せるローブの類いの防具を人数分買って来て欲しいのだ。幸いにもここは剣と魔法の街。良く魔法使いが顔まで覆うローブをかぶってるだろ? そんなので良いんだ。俺達が買いに行ったら、さっき言った様に文字数を無駄に使うだけの面倒なやり取りが増えてしまう」

 俺のお願いを聞いたアネモネは、

「そんなの! お安いご用だよ!」

 自信満々に微笑んだ。


「ありがとうね、アネちゃん♪ 宜しくね♪」

 言って、財布係のニアが袋ごと金をアネモネに手渡した。


「あのさぁ、この間の道具屋でのお札まとめ買いで思ったけど、改めて不思議な呪いだよね? アイテムの所持上限が1つになるってのも、当時持っていた中から強制的に世界獣の歯1つになったモノの、お札複数個まとめ買いできたり、それ以降はまた本来の所持上限まで持てるっぽいし。所持金に関しての項目もないから結構裕福な状態だし」

 と、財布を持って行ってきます! と手を振るアネモネを見ながら、エイオスが言った。


「ガバガバよね」


「まぁそこは、アイテムも所持金も全部なくしたら、それこそ呪いを解く旅も何もなくなり物語がなり立たなくなってしまいますからね。魔王も配慮したんでしょう」


 なんてやり取りを俺は黙って聞いていた。

 魔王がガバガバなのか、作者がガバガバなのかはわからないが、この際どうでも良いことだ。



 そして、待つこと20分。

 既に黒ローブをまとったアネモネが大荷物を両手に戻ってきた。

 ちゃっかり自分の分も買った様だな。まぁ良い、駄賃ってやつよ。


「か、買ってきた!」

 肩で大きく息をしながら、アネモネは荷物をどさりとその場に落とす。


「ご苦労。助かったぜ」

 ニアがアネモネから財布を受けとる傍ら、俺はアネモネが買ってきたローブを早速手に取り、広げ、羽織る。


 俺に続き、ギル達もローブを羽織っていった。

「どうだろうか?」

「うん、良い感じだと思います」

「でも、なんか私達が昔倒した怪しい邪教の集団みたいじゃない? 黒魔術使いそう」

「色は黒しか無かったんだもんー!」


「あのさ」

 そんな俺達の御披露目会に水を差す声。

 エイオスである。

「なんか……俺のだけおかしくない?」

 言われて見てみると、エイオスは頭からストッキングをかぶっていた。

 顔の皮は伸び、まるで福笑いの様な顔になっている。


「お前ふざけてんのか?」


「そんな言いぐさないよね!? ふざけてんのはキミらでしょーが! 俺だけ変なの買って来られるかもなぁって思ったらやっぱりだよ! お約束かよ!」

 息もしづらいのだろう。エイオスはフガフガなりながら渾身のツッコミをする。


「顔も隠せているし、どこもおかしくないじゃないですか? むしろ以前より男前ですよ?」

「360℃どっから見てもおかしい所だらけだろうが! こんな男前いてたまるかよ!」

「ならかぶらなきゃ良いのに……」

「在庫が4着しかなかったんだもんー!」

 アネモネは、最早見えてるんだか見えてないんだかわからないエイオスにいーっ!と歯を向けた。

「ならキミが着てるそのローブを俺にくれませんかねぇ? 別にキミは顔割れてないんだし」

「嫌だぁ! アネも皆と同じ格好が良い!」



 いつまでもぎゃーぎゃーやってるコイツらは放置だ。

 とりあえずこれで顔は隠せた。魔術の類いに強いヤツくらい居るはずだ。そいつを探そう。

「流すな流すな。この顔のまま人前出れるワケねーだろ!?」

「と言うか……」

 そこで、ギルが何かを閃いたようで、

「確かに僕らの顔は割れていますが、この街に立ち寄った時のメンバーは、ジョエルさんとニアさん、僕の三人です。エイオスさんはまだ仲間になってなかったですし、別に顔を隠すまでもないのでは?」


「それもそうか!」

 意気揚々とエイオスはストッキングを脱ぐ。

 最初から気付けってんだ。


「ギルちゃんが言うまで誰一人として記憶の片隅にもなかったでしょうが!」

 丸めたストッキングを地面に投げ捨てながらエイオスが叫んだ。


「まぁ良い。とりあえず皆で手分けして魔術に精通している人物を探すぞ。そして2時間後、またここに集まろう」


 ローブのせいで皆がどんな顔をしているのかはわからないが、ローブの中でうむ、と頷いたのを感じた。


「よし、行くぞ!」

「おーっ!!」


 俺の掛け声を封切りに、俺達は丘を降り、各々がここだと思う場所を当たる事にした。



 呪いのカウントダウン

 運命の刻まで

 あと6日(レベル153)

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