Against human:恋し紅色に染まった蝶 影の女神を殺すため戦場を飛ぶ

『彼女は恋をして、その恋のために命をかけてでも戦う』
戸﨑享
戸﨑享

25 俺達の証を君に

公開日時: 2020年12月20日(日) 22:40
文字数:2,274

八十葉光に雇われたのはそんな変化があってからすぐのことだった。


今からちょうど1年前。1か月の間、八十葉光のボディーガードとして人間が集められたことがあり、そこに奨と明人も応募したのだ。割高の給金と人脈を広げることも兼ねて。


「奨の探し人の情報はいろいろ集まっていたんだが、結局足跡だけでな。このまま個人レベルで探しても進展がないと考えた俺らは、どこか大きな組織とつながりを持つことにした。やっぱり個人で集められる情報には限界があるから」


「それで八十葉様とお知り合いになったのですね」


「ああ、ちょうど光さんのボディーガードを募集しているっていう話があってね」


奨と明人はその仕事に立候補した。


しかし、八十葉が直々に募集をかける仕事であり、さらにボディーガードと言う話もあって、この仕事は面接のときからものすごく厳しかったのだ。


「試験内容えぐかった」


「そんなに……?」


「まずは応募者全員でバトルロイヤルをさせられた。人のなかで200人になるまで無人の山で戦わされてさ。そこから面接の実際に八十葉分家の連中と決闘。とにかく強さを求められるからか、仕事にありつくまでに命懸けだったよ」


そして当然、それはまだ第1段階。その後奨と明人を待っていたのは、八十葉と同じ位の冠位伊東家の襲撃から光を守る戦いの日々。


相手は冠位の戦闘集団に属する人間に加え、伊東家に名を連ねる高位〈データ〉の使い手も迫り、光を守るため、凄まじい採用試験を乗り越えた同僚たちが少しずつ数を減らしていく。


「たった4人しか残らなかったときは、もうだめだおしまいだ、とも思ったけれど、ちょうどその時戦いも終わってね……。何とか生き残った」


しかし、同時に奨と明人に襲ったのは、明確な死への恐怖だった。


昨日まで肩を並べていた人間が刻一刻と消えていく。それは今まで自分たちのことしか考えてこなかったからこそ感じなかった、人命の脆さと死ぬときのあっけなさを痛感した。


「その頃かな。すっごく怖くなったよ。もしも俺達が目的を達成できなかったら、俺たちがこの世界で生きていた意味がないという証明になってしまう。なんだか俺はとても寂しいし悔しいと思った。俺も奨も、ずっと頑張ってきたのに、それを誰にも覚えてもらえていないのは」


奨も明人も現在16歳。しかし、人間は20歳から最大テイル保有量の減少が始まり、それにつれて死亡率が高くなっていく。


利用価値がないとみなされ殺される、テイル粒子不足が起こりやすくて殺される。現代、よほど特殊な技能がなければ30歳まで生きている人間はあまりに少ない。


若いうちから自分の死に方を考えるのは、決しておかしいことではないのだ。


「その時、早達春って子が源家にいるという情報を光さんからボーナスの給金代わりにもらった。それで、次の目的地をこの島にしたんだ」


「もしかして、先輩たちがこの地に来たのは、光様の助言があったからなんですか?」


「パーティーで偶然会った時は驚かれたよ。なにせ無理だろうと本気で思ってただろうしな。俺らも難しいとは思ってたよ。なにせ招待券を手に入れないといけないんだから。でも、島に行かないと春って子に会えないしどうしようって。そしたら幸運にも手に入ったんだよ。まあ、どうやってかは割愛するけどな」


源家は成人になった子供を別の家に紹介し雇ってもらうことを仕事としている。


奨はそれを聞き、そこで子供も買おうと言った。明人は驚きを隠せなかったが、八十葉での仕事が今までずっと人探しだけだったのが、もう1つの些細な目標ができたと言われ、その話に乗ることにした。


「きっと俺を気遣ってくれたんだろうな。俺が感じてた恐怖や寂しさを察してくれてたんだ。弟子をつくろうって言ってくれたんだ。弟子に、自分たちのノウハウを一杯教えて、それでもしも自分たちがいなくなっても、活躍してくれたら、それは喜ばしいことじゃないかって」


そこから必至にお金を貯めて、この島へとやってきたという。






「きっと、奨の役に何か立てないかって考えてただろ?」


「そ、そうです」


明人は明奈をまっすぐ見て、その明奈の思いに返事をした。


「俺も奨も、君を使い潰したいわけじゃない。君にいろいろと残したい。……もちろん、できる限り責任はとるつもりだ。できる限りずっと一緒にいるつもりだ。その間君に俺達の弟子になってもらって、俺達が持っているいろいろを教える」


明人は明奈を真っすぐ見て訴えた。


「そうしてもしも、君が将来、それでいい思いをしたり、しっかりと生きて行けたりしたら、それは俺達が君の役に立ったって証明だ。俺達が生きてた意味がきっとそこにある」


明人は、昔話をしながらやっていたメンテナンスを終え、明奈のデバイスを本人に返す。


「だから、今は本当に気にしないでいい。一緒にいて、素直に俺達に付き合ってくれればいい。俺達もきっと君の役に立つことを教える。それで、将来、君が何か成し遂げたいことができた時、俺達の教えが役に立てばそれでいいんだ」


「でも、私は先輩の役に立てないと、せっかく買われたのに、意味はないから」


「うーん、それじゃなんかなぁ」


明人は首を振る。


「せっかくやりたいことやって生きてきた2人が主なんだ。俺個人としては……君にはやりたいって本気で思う夢を見つけてもらいたいって思ってる。俺達が教えることも、本心からそうしたいと思っている目標に活かしてほしいな」


明人は、包み隠さず自らの思いを伝えた。


もうすぐ日が落ちる。今日の明人の研修はここまでになった。奨が宿で待っているからと、片付けをして宿へと戻ることにする。

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート