Against human:恋し紅色に染まった蝶 影の女神を殺すため戦場を飛ぶ

『彼女は恋をして、その恋のために命をかけてでも戦う』
戸﨑享
戸﨑享

15 初期研修(前)

公開日時: 2020年12月8日(火) 00:45
文字数:2,108

人間を雇う理由は雇う〈人〉によって様々だ。主な用途で分別をするのなら、その使い道は4つの種類に分別できる。


まずは、テイルの供給源として使うため。


テイルは現代においては、旧時代の電気やガスの代わりを果たしている場面が多い。しかし、〈人〉はテイルを作り出すことができないため、エネルギー生産を人間に任せることになる。


人間は日中己のテイルを使い、発電所の代わりとなって、〈人〉の生活に必要なエネルギーを供給するのが仕事となる。


2つ目は専門技能を持つ人間の確保のため。


医学や法学等専門の教養を身に着けている者、特殊な資格を持っている者は引く手数多だ。


そして3つ目は、やはり〈人〉の食料とするためだろう。


〈人〉は自分でテイルを生成できない割には、日常生活でテイルを多く使う。そのためテイルの補充をするために、人間からテイル粒子を摂取するのが一般的だ。


〈人〉の体には、テイルを吸い出す特殊な器官が口内にあるためかつては人間の手にかぶりついて摂取を行っていたが、それももう100年も昔の話だ。今では、それはあまりに下品だという話になって、特殊なデバイスを相手に接触させることで摂取を行う方法が開発された。


そして4つ目がいわゆる、明奈のように、働き手として雇われる場合だ。


それぞれの州は、人財の獲得や、自身の勢力と領土を拡大し倭の中での発言権を大きくするために他の家との競争関係にある。傍から見れば、かつて島国の天下統一を巡って戦った戦国時代に様相はよく似ている。


武力行使に備え兵力を備え、そして、州内総生産を上昇させるためには、人手はいくらあっても足りない。そのため〈人〉だけではなく人間も必要になる。


源家では主に4つ目の用途で人間を必要とする〈人〉へ、人間の供給を行っている。源家では主に人に仕えるための一般教養と、従者としての人格形成に重きを置く一方、必要な知識以外を入れない方針である。


仮に、子どもの育成を一枚の絵を完成させることに例えよう。源家の教育は、最高級の絵の具と紙を用意するところまでで止めて、残り実際に描くのは買い手にバトンタッチという状況と言えるだろう。


買い手にとってもこれは都合が良い。


それぞれの家で人間の運用方針や覚えさせたい心構え等が違うため、余計なことを知らない状態の方が無駄な思考やこだわりが生まれず、早くその家のやり方に慣れさせることができるようになる。


初期研修を行う必要があるという手間がかかるものの、元々が働き手として最高クラスの基礎教育を受けているため、将来においては良い人財になるのが保障されている。


買い手となった家は、最初の、仕事に関する技能研修や、修業等のために人員と時間を割くことを躊躇うことはない。


明奈も例外ではなく、どのような形でも明奈が何をすれば、奨や明人の役に立てるかを、2人が示してあげなければならない。


明奈に何を教えるべきか。実は明奈が夢を見ているちょうど同時刻に二人でいろいろを話し合っていた。


元々、明奈をずっと雇ったままにすることは考えていなかった。


奨は傭兵を自称するだけあり、命の危険に晒されるのも珍しくない。万が一があったとき、明奈を一人きりにして何が支障があるのは望むところではない。


たとえ初めて会った相手でも、まだ世の中を知らない少女で、しかもこちらから雇ったからには、無責任はことはしたくなかった。


ほぼ徹夜になりながらも、明奈に何をしてほしいのか、何を教えて、どのように動いてほしいのかを考えた結果、考えたにも拘わらず結局は、自分達が旅をしながら身に着けてきた技術を教えることになった。


5分程度で思いつきそうな結論、話し合った意味があるのかないのかはさておき、16歳の若すぎる身分で旅をしても何とか生きていくために、今まで身に着けた知識を明奈に教えることで、明奈が将来損をしない力を身に着けさせる方針となった。


「何を……するのでしょう?」


商店街を歩きながら、明奈は、先ほど奨が言った、必要なことを教える、という言葉についての質問をする。


奨は明奈の前を楽し気に歩き、その間周りを注意深く見ている。明奈にその理由と共に、自らが教える予定である技能を説明する。


「俺は、お前に戦いの術と料理を教えてやろうと思ってな」


「料理?」


戦いの術というのは納得できる。昨日、氷使いの人との戦闘を見せられれば、教えられるだけの技術が奨に在るのは目に見えているし、傭兵という職業であるからには、その従者となった自分は、何かしらの戦闘に備えたことを教わるのではないかと予想はしていた。


明奈が驚いたのは2番目のもの。


料理自体は知っている。先ほどの飲食店でも出たように現代においても料理と言う文化は残っている。


しかし現代においては食品の価格が高騰して、毎日食材を買って料理をするという行為はできない。実際に料理を行うのは、人間の料理人と、趣味で比較的裕福な人だけだ。


源家の謙虚に生きるための教育を受けた明奈が、自分がそのような貴族の趣味に手を出していいとは思えるはずもない。


「料理はその……、高貴な方々の趣味で、私なんかが身に着けていいのかと……」


奨は弱腰になっている明奈をみて失笑する。


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