登場人物紹介
源鋼:みなもと こう。源家次期当主である源閃《みなもと せん》の双子の弟であり、一族最高戦力。
八十葉 光:倭を統べる12家の中でも、親人間派として人間との共存を理念とする八十葉家の次期当主の18歳女性。
身長以上の黒い槍を持った男が、槍を構えて突撃する。明奈はその人物に見覚えがあった。今日の式では警備長を務めていた、育て主だった閃の親族。
「鋼、源の次男か」
奨の言う通り、その場に都合よく表れたのは源家の次期当主の弟だった。源家の中でも武力の象徴と呼ばれる、一族の最高戦力。
仮面の連中は、自身の周りにライトエメラルドに光る半径1寸の球体を50個近く浮かせる。2人分合わせてそれは100を超えるそれは、相手を撃ちぬくための弾丸だ。
迫ってくる槍使いに、容赦なく撃ちだされていく。それを前にしても鋼は敵への接近をやめない。
放たれた中距離攻撃は、間違いなく源家次男の鋼に当たる軌道を走っていた。しかし直撃する直前、その軌道が急転、鋼を貫くものは何一つなかった。
「何……!」
射撃を行った2人がその現象を見て焦りの表情を見せる。光刀を構えて待っている前衛の敵に、槍の刃を左から襲い掛かる。
あまりにも速いその斬撃を敵は的確に刃で受け止め防御する。受けた衝撃が想像以上だったのか、勢いを殺しきれなかった人間は、戦闘の場となったこの広い道のさらに場外へ飛ばされていった。
鋼は投擲の構えをとり、鋼は自らの槍を相手に向かって投げた。槍は人の力による投擲とは思えない速度で射撃兵の一人に向かい、その体を軽々と貫いた。
相手もも多少の犠牲は覚悟であり、一人が致命傷を負っても止めることなく。もう一人の射撃兵が懐に装備していた光刀を持って斬りかかる。
「来い!」
鋼のその呼び声に槍が反応を示し、主から離れてるはずの槍が独りでに動き出し、その持ち主のところへと戻っていく。
襲撃兵は槍を掴む一呼吸前に肉迫する。光刀の右下からの攻撃を、次男は躱しながら戻ってきた槍を掴む。そして、数回の剣戟に己の得物をぶつけ、自身の身に刃が届くのを防いだ。
攻守逆転。狙いすました槍の刺突が人間に襲いかかる。槍はこれまでと違い蒼いオーラのようなものを薄く纏い、これまでと違う状態であることを示している。
再び得物同士の激突。
先ほどとは違う。光刀は勢いを殺すことではできないまま呆気なく砕け、そのまま槍の先は間違いなく人間を貫いた。
鋼はすぐにその槍を抜き跳躍する。直後、先ほどまで鋼が立っていたところに、光刀と同じ色の光が、ほんの一瞬、薄い弧を地面と垂直に描く。その発生は、先ほど吹っ飛ばされた人間が、立ち直ってすぐに光刀を振ったのと同時だった。
鋼は空中で再び槍を構えた。先ほどと同じ投擲の構え。しかし先ほどと違うのは、蒼いオーラを、うっすらではなく濃く纏っていたということ。
射出された砲弾の如き槍は、夜闇を照らす灯よりも数倍の輝きを放って最後の1人へと放たれた。人間は次撃を放とうとするためすでに構えを取っており、音速に近い速さで飛来する攻撃を躱せる状態ではなかった。
「く……!」
人間の目の前にライトブルーの壁が現れる。盾の役割をするそれは、一定の破壊力を相殺し、使用者を守るためのもの。
使用者の表情は晴れなかった。恐らく受け側の人間は防御が不可能だと予感していたのだろう。
その予想通り、盾は一瞬すらもその槍と止めることなく砕け、そのままその先の人間へ。源家の敷地で使用人を殺害するという暴挙に出た人間の末路は、詳しく語るに及ばないが、槍に貫かれるだけでは済まなかったのは間違いない。
敵襲を片付け奨の近くに歩いてくる鋼。奨は動じることなく、彼を迎えた。
「馳せ参じるのが遅くなり申し訳ない」
「いいえ。別に。それより、そいつらは」
「反逆軍の過激派でしょう。京都に集まる人間どもの中には、〈人〉と戦うためのプロがいる。その中でも過激派は、〈人〉みな死ぬべしとか言うから手に負えないですよ。まさか島に侵入を許しているとは」
奨を見るその目つきは悪い。並みの小動物は目が合うだけで震えあがるだろう。現に明人は息を呑み、明奈は体を震わせている。次期当主の閃に比べて怖いという印象を受けるのは間違いない。
「それにしてもさすが。あの男の迎撃もこなすとは、傭兵『太刀川』の名は伊達じゃない」
「お前……どこでそれを」
「知ってるからこそここに招待した、と言うべきか。しかし、『まだ』何も。……まだ島に潜入している無礼者がいるかもしれません。お帰りはお気をつけて」
鋼は一瞬だけ明奈に目を向ける、反射でお辞儀をした明奈に特に何かを述べる事はなかった。その余裕がなかったのは、迎賓館の入り口に1人、女性が姿を見せたからだ。
「何事?」
「光様!」
鋼は慌てて奨の前から走り去り、入り口に現れた八十葉家からの来賓の前へと走り、目の前で一礼する。
「申し訳ありません。お騒がせ致しました」
奨と話す時よりも、鋼はより敬意を見せる。それも当然のことで、この源家は八十葉家の傘下の言える家だ。上位の立場である八十葉のご令嬢を不機嫌にしてしまえば、家の待遇が悪化することは想像に難くない。
八十葉のお嬢様は不快そうな顔はしていない者ものの、鋼は彼女にここで起こったことの説明を始めている。奨はそれを見てため息をついた。
戦場となった場所では、源鋼と共に参じた警備員が作業を始める。
デバイスの力で破損した道が修復され始める。十数センチの深さのある痕も3秒で元通りだ。物の復元を工事を行うことなくできるテイルの有益な使い方の一つと言えるだろう。
奨は目の前で起きた戦闘を振り返る一言を述べた。
「まさに〈人〉の力だな。人間数人ががりでも、1人を相手にこのザマか」
明奈が口を開く。しかし、勝手な発言が失礼にあたると思ったのか、その口を閉じてしまう。明人が彼女に気にしないよう促して、明奈は口をもう一度開いた。
「ご当主様のご家族が戦っているところ……初めて見ました。すごかったです」
「おそらく2割も力を使ってないんじゃないか?」
明奈は連れていかれる人間を見ながらつぶやく。
「〈人〉に抗うのは……あんな風になると分かっていながら、なんで、戦おうとするのかな……」
その質問に、端的な答えを与えたのは明人だった。
「人という存在を、一部の人間は忌み嫌っている。この世から排除するべき敵だと。そう考えている奴もいるのさ。今の侵入者も、そんあ連中なんじゃないか」
「……私、少し混乱してます……そんなこと、あり得るんだ」
明奈はそんな人間が実在することを知らなかった。教えてもらえていなかった。
「この世界は、強い人に従って生きるのが人間としての正しい生き方です。あの、四十八番を殺した人が言ってたように。そう、ずっと信じてきました」
奨はそれを肯定する。
「源家の教育は間違っていない。多くの人間は〈人〉の支配の中で生きている。今のこの世界の大多数の人間は、〈人〉のために働いている。その対価として、〈人〉側が戦いから彼らを守っている。そうやって生存の仕組みができているのは事実だ」
そんな彼女の中にある価値観を否定はせず、そこに付け加えるように
「ただ、別に人に仕えることだけが生き方じゃない。死ぬかもしれなくても自分自身で道を選ぶ奴もいるのさ。俺らみたいにな?」
一方で世間知らずの義妹へ向けて、明人がウインクをしながら告げる。
「何を格好つけてる」
奨がツッコミを入れた。明人は口をわざとらしくとがらせる。
「いいだろ別にぃー。ほら、とっとと宿にいこうぜ、明奈とももっとゆっくり話したいし、疲れたし」
先ほどまで真剣な表情だった明人の気持ちの切り替えの早さが、少し可笑しくて、明奈は少し愉快な気分になった。
光弾:テイル自体がエネルギーを保有する粒子のため、テイル粒子をそのまま集め、弾丸にして放つだけでも射撃攻撃として成立する。一般的に光弾と呼ばれる攻撃方法であり、想像や、射撃武器を併用することによって威力や性質を変えられるが、そのままでも発射の意志を伝えるだけで撃てる。
源鋼:倭を12分する家の1つ、八十葉家のなかで10本の指に入る男。子供の育成を担う重要な役割をもつ源家を守護する役割を持っており、彼の持つ槍〈覇鋼〉の投擲は一城を一撃を崩壊させる破滅の魔弾となるという噂もあり、他の家への武力的な切り札として八十葉領内外で恐れられる。
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