襲撃者は剣を構え突進してくる。〈爆動〉を使った高速移動ではない。あくまで普通に突撃してくる。それはこの支援データの弱点を考慮してのことだ。
〈爆動〉は高速移動を可能にするが直線上に加速するもので細かい動きができない。軌道を読まれたら攻撃の的になる。
さらに通常では出せないほどの速さを制御するのに大きな意識を割く必要あるため、狙われたときの防御もミスが出やすい。
その上、発動には当然テイル粒子も使わなければならないため、攻撃にテイル粒子を多く使わなければならない中で無駄に使用することはできない。
故に〈爆動〉等の自分を動かす支援データは、ここぞというときにしか使われないことが多い。
それでも〈人〉を幾人も殺したという噂にたがわぬ身体能力で、接近する速さは文句のつけようがない。
明人は引き金を引く。彼が使う拳銃は銃口から奥行30センチと大きく、一撃ごとの威力を重視したセミオートの拳銃。
数発、金色に近い色のが発射される。
襲撃者は剣でそれを難なく弾き、埃を払った程度のつもりなのか、涼し気な顔で距離を詰めてくる。
それは見越していたのか、明人が特段驚いた様子はない。
弾かれたとみてすぐに明人が別の手段に出たのは、この場に現れた壁が物語る。
(〈向絶壁〉……? なんで明人先輩が)
明奈にはそれに見覚えがある。以前光を襲撃した相手が使った、相手からの攻撃を防ぎ自分からの攻撃を通す防御壁。
そして再び明人は襲撃者に向け銃を向け、攻撃を再開する。
一瞬、急きょ現れた壁の前で止まる襲撃者。そこに弾丸が襲い掛かるが、襲撃者は光弾防御のための障壁を展開し弾丸を防御すると、迷いなく自身の得物をぶつけた。
数回の斬撃で、〈向絶壁〉に似た城壁は破壊され、定義破綻でその存在が消失した。すでに標的まで5メートル以内と迫っていた襲撃者は一気に距離を詰めるべく〈爆動〉を使用。その距離を詰め、その勢いのままに剣を振るう。
明人はすぐに逃げ出そうとはしない。後ろにいる明奈を庇うように立ち続け、光弾を放ち続ける。以前は明奈もここで悲鳴を上げていたかもしれない。
しかし今は、明人を信じ動かなかった。
明人は迫る相手をギリギリまで見て、初手の剣の斬撃を躱す。縦方向に描かれた斬撃の軌道を横に動くことで躱した。しかし、それだけで、事が済むはずもなく、続けて剣の猛攻が襲い掛かる。今度は胴を真っ二つに斬る剣の横方向への剣戟。
しかし、その剣は明人に届く前に留められた。
明人と剣の間に、金属製の棒のが出現したのだ。明人の要請に応え、まるで地面から生えてきたかのように。
その剣を止められた一瞬を逃さず、明人は蹴りを入れて相手をけん制すると、手を伸ばす。攻撃を続けようとした襲撃者は何故か明人から離れる形で吹き飛ばされた。
「く……!」
20メートルほど飛び着地する襲撃者に、容赦ない明人の追撃。それを空中に展開するシールドで対処するも1発間に合わず、剣の片方を弾き飛ばされる。剣は見事に地面に突き刺さり、襲撃者がすぐには取りに行けない位に離れている。
ここで明人が叫ぶ。
「従者! 何してる!」
唐突に怒声を浴びせられ驚く春。しかし、明人はそれを意に介さず言葉を続ける。
「襲撃者が目の前にいる! 俺だけじゃ逃げられるかもしれないんだぞ! 近くのホテルから強い奴連れてこい! ここで襲撃者を捉えれば事件は大きく動くんだ!」
幸運にも、近くには御門家、八十葉家、天城家が寝泊まりしているホテルがある。
春は少し悩む。今は既に夜。わざわざそのような冠位の偉い方が休んでいるところに急に押しかけていいものかと。
しかし、春は判断力は高く、今の状況と今後のメリットを考え、
「分かったわ。どうかそれまで耐えて!」
と言って、危なげな足取りで急いでホテルへと向かった。
剣が片方になった襲撃者だが、まだ撤退する様子は見せない。
とことんまでやる。それを察し、撤退の期待を裏切られた明人は、気を引き締めなおし、明奈告げた。
「思ったより相手がヤバそうだ。奨にも連絡してあるけど、向こうの攻撃だけは気を付けてくれ。庇っている余裕はなさそうだ」
「……はい」
「こっから手札の出し合いになる。巻き込まれないように気をつけてな」
明奈の返事を聞き、明人は何かをその場に落として走りだす。
襲撃者は明人が迫ってくるのを見て剣を横に振る。
構えを取ったのを見て気合を入れたのかと、明人は止まらずに接近を試みる。
しかし、明人は直後急きょ何かをくぐるがごとく屈みこむ。
色のない何かがその頭上を通り過ぎ明奈の前で消えたのを確認する。
(斬撃が飛んできている! しかも透明かよ……)
同じような攻撃支援データに〈撃月〉と呼ばれる斬撃を飛ばすものがあるが、それには白に近い黄に半月状な形がくっきりと見えるため対処はしやすい。しかし、それが透明でさらに音もしないのは、見切る難易度は跳ね上がる。
明人がしゃがんだ隙をつき、襲撃者は再び明人へと接近。左からの斬り上げを見舞う。
明人はそれを躱すが、道を譲る形となった。襲撃者は明人をスルーし、明奈の方へと〈爆動〉を使い接近する。
一瞬で明奈の目の前まで近づいた襲撃者。襲撃者の目的は明奈、であればわざわざ明人を相手にすることはないと判断したのだ。
その時、明奈の前に壁が立ちはだかる。しかしそれは先ほど破った壁。襲撃者は再びその攻撃をもって壁を破壊しようとする。
それは不発に終わった。明人が明奈を守るために仕掛けた罠はそれだけではない。地面が突如発発光し、大きな爆発を起こした。明人はそれに合わせ、数発襲撃者へと発砲する。
爆発の煙で詳しくは見えないが、その煙から後ろへ跳躍し抜け出す剣士の姿があり、爆発も先ほどの発砲も効果がなかったのは目に見えたことだった。
しかし、その瞬間。明人が発砲していないにも関わらず、数筋の光弾が光芒を描き襲撃者へと襲い掛かる。
さすがに予想していなかった攻撃だったのか一発目が頬を掠めるが残りをシールドで防ぐ。対テイル用の障壁は形と場所を自由に設定することができる。
先ほど明人がやったように地面に固定し壁のようにすることも、今襲撃者がやっているかのように、位置は体との距離で設定して自分が動いてもシールドがそれについて行き、距離が保たれるようにすることもできる。
シールドを展開したまま突っ込んで来る襲撃者。明奈を攫って離脱するのは諦め、明人の撃破へと方針を切り替えている。
シールドがあるにも関わらす、明人は迷いなく銃口を向け何かを放つ。
当然それらの弾丸はシールドによって防がれていく。距離は再び詰められ剣の間合いに。
「ん……?」
声になるほどの疑問を呈したのは襲撃者の方だった。見ると、自らが発生させたシールド赤く発行する楔が刺さっていることに気づく。
一瞬、遅かった。
「爆ぜろ」
口を動かした明人の命令を受けて、火を噴き炸裂する。シールドは割れ、爆炎が確実に襲撃者を巻き込んだ。
銃:遠距離攻撃の中でも、銃は撃ちだす弾丸に特殊な効果をつけられる特性があるため、多彩な攻撃を行うのに適している。弾道が曲がったり、爆発する弾丸を放ったり、弾を受けた相手に毒や不利な効果を付与したり、その攻撃の多彩さが強みになっている。ただし、銃身の生成や弾への特殊効果付与には相応のテイルを消費するため、コストは一番大きいことに注意。
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