明奈;主人公。13歳の少女で源家の教育機関を卒業した新社会人。
太刀川 奨:明奈を買った主の1人。16歳の少年で、傭兵として各地を旅している
須藤 明人:奨の相棒で明奈のもう1人の主。明奈のことを気に入っている。
教育機関で歴史の教科用図書を用いて国の歴史を勉強するように、何年前、どんなことがあったか、というのを聞くだけだ。違うのは、そこに本人がその時何を思ったのかという感想も付け加えられていることだろう。
明人と奨が出会ったのは3年前。故郷を〈人〉に燃やされ、全てを奪われたところから始まった。
「あの時は、もう死んでもいいって思ったな。何もかもあそこで失った」
それから明人の旅は始まる。
まず、しばらくは奨にただついて行く日々が続いた。
奨は明人のことをアシスタントという形でついて行き、各地を転戦する奨のそばで何度も死にかけたという。
その時、奨は金を必要としていたのは、日々の生活費に加え、情報屋で情報を買うためが主だったという。
「俺のために生きるんだから、戦いの術も磨けとか言われて、戦いの術を教えてもらった。君がさっきやってた訓練、あれ第一段階だから、頑張るんだよ。これからさらにむっちゃ厳しいから」
「そうなんですか……私、あれをクリアできる気がしないのですが」
「まあ、オレもそう思ったよ……今に比べて、ずいぶん教え方も荒かったし。傍から見たらただの弱いものいじめだからなアレ」
その頃の映像があり、そこには、これ以上むりー、と弱音をはく明人と、限界を超えてからが面白いんだろ、という奨の姿。
そこから、明人が逃げ始め、奨はそれをすぐ捕まえて、逃げたら飯抜きだぞ、と宣言。
自分が知っている訓練とは違う言い合いをまんざらでもない顔で行う2人が面白く、明奈はくすっと笑ってその映像を見た。
「ひどいだろー、こんなかんじであいついじめて来るんだ」
1年がたった頃、転戦して金稼ぎに付き合う中で、明人は自力で奨の旅の目的を察する。誰かを探してるのだと。
それも長い間、自分と出会う前からずっと、ただそれだけのために必死に生きて、戦って、金を稼いでいるのだと。
「当時奨に聞いたよ。なんでそんなことをするって。人間なんだからもしかすると殺されているかもしれない。捜すだけ無駄かもしれない、それどころか、お前自身もそんな稼ぎ方をしてたらいつ死んでもおかしくないって。そうしたらあいつ、すっごい清々しい顔で言ったんだ」
一呼吸置き、奨のモノマネをしながら、
「死ぬのは怖くない。師匠との約束がある。その約束を果たすまでは、全力で生きる。そう決めたんだよ。師匠が死んだときにガキなりにね」
奨が当時言ったことを再現する。
「俺はその時の言葉を聞いて、厳しい生き方に納得したのと、少しの憧れを持ったんだ。人間のくせに、そんな強い意志で生きている奴は初めて見た。俺も男の子だからさ。なんか、格好良く見えたんだよ奨が。だから、俺もやれる限りやろうかなって」
その後、奨は冠位の天城家に、三日三晩狙われ、戦い続けて瀕死の重傷を負ったことがあった。
その時は偶然居合わせた八十葉家の使者に助けられ、何とか逃げたものの、奨は今にも死にそうな顔で長い間目を覚まさなかったという。
「決断したのはその時だったな。ここまで必至に生きている奴が、何も成し遂げられず死んでたまるかって思ったんだ。だから、俺ぐらいは、奨の手助けをして、こいつの約束を叶えるための仲間になろうって」
ちょうどすべてを失い、生きる意味をなくしていた明人は、奨との悪くない1年とその間の美味い飯の礼をするべく。いよいよ前向きに協力をする手伝いをすることを決意したのだ。
それが18か月前頃の話である。
ある程度自分の身を守れる程度には力をつけた明人は、いよいよ自分から奨にメリットを与えられないかと明人は考え始めた。
「当然、奨にはまるで戦いの腕は及ばないけど、奨にはできないやり方で戦いを助けたり、奨の生活を俺からも何か支えられないかと思ったんだよね」
それまで明人はずっと奨の近くにいた。その間、奨から聞かされていた話は多々ある。その中には日々の愚痴も混ざっていたが、それを当時思い出した。
その結果、まず奨は明らかに、デバイスの扱いが悪いことが分かった。
そこに目を付けた明人はテイルについて猛勉強を始める。詳しくなればいずれは、奨のデバイスを長持ちさせ、そのお金を他に回せるのではないかと考えた。
しかし、それだけ明人は満足しなかった。
「観察。とにかく、奨について観察した。あいつもよく言っていたからな。まあ、戦闘での話だけど。攻撃をしたければ攻めるのではなくよく見ることだって」
「よく見ること、ですか?」
「ああ。相手がどんな動きが好きか、どんな動きが嫌いか、どんな行動が好きでどんな行動が嫌いか。それをよく見て判断しろって。まあ、そんなことをいつも言われてたから、自然とアイツの観察をしてたんだよ」
「観察ですか……?」
「そしたら戦闘でいつも怪我をしている時の法則が見つかった。あいつ、遠距離戦が苦手なんだ。結構克服している自覚は持っているみたいだけど、やっぱり斬り合いよりは不得手みたいだな」
「へえ……意外です……なんでもできそうな感じで」
「当時は遠距離攻撃手段も持ってなかった。単純に近づいて斬るという行為を繰り返すだけ。それじゃあ、的になりまくる。だからまず俺が、銃を使えるようにした」
「どうして銃なのでしょうか?」
「ああ……当時はそこまで考えてなかったんだよ。一番使いやすそうなのが銃型だったからかな」
明人が自然な照れ笑いを見せるところを見て、明奈が冗談ではないことを察する。
「でもこれでよかったと思っているよ。今となっては一番合う武器だって思ってる」
銃を使えるようになってから、明人は積極的に奨の戦闘に介入するようになった。その後戦績はさらなる改善を見せるようになる。
もともと相手の半分以上は〈人〉だったため、武器のクオリティの差で押し切られて敗走することが多かったが、明人が支援を入れることで、敗走率が下がった。
「奨は前衛、俺が後衛。それだけで随分と楽になったって言ってたよ。その頃から、奨の俺に対する態度もさらに柔らかくなったように感じたな。俺の事を相棒だって言ってくれるようになって。役に立ってることが分かったときは、嬉しかった」
「私から見て仲が良いように感じましたが、ここでようやくなんですね」
「ああ。その頃から遠慮もなくなったな。俺はエンジニアと銃使いとして奨をサポート、奨は前衛で俺を守りながら戦って、あと美味い料理も食わせてくれる。後は、話し相手として相性も良かったからか、結構仲良くなった」
明人はその頃をここまでの話で一番嬉しそうに語っていた。
遠距離攻撃:この時代における遠距離攻撃の手段は多様だ。というのも、飛ばすものはテイルによって弾速や射程はどうにでもなる。故に代表的な遠距離武器と言えば、光弾を直接浮かして放つ、弓矢を使う、銃を使う、等があるが優劣はなく、光弾を直接浮かす方法は低コスト、弓矢は連射が利かない代わりに威力が高め、銃は弾丸に特殊な効果を加えられる、など、使い分けができる。
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