Against human:恋し紅色に染まった蝶 影の女神を殺すため戦場を飛ぶ

『彼女は恋をして、その恋のために命をかけてでも戦う』
戸﨑享
戸﨑享

11 街の中

公開日時: 2020年12月3日(木) 23:45
文字数:2,110

登場人物

源閃:舞台となっている孤島の管理者、源家の次期当主。春と共に明奈の教育係を務めた。

博士:テイルについて研究を行っている老人。源家に招待され、明奈が買われたパーティーに参加していた。

食事処を出る頃には9時近くになっていた。


明人は少し具合が悪そうにお腹をさすっている。それもそのはずで、食事処で朝とは思えないほどの朝食を腹の中に入れたのだ。


「美味しかったです」


満足したと一目でわかる笑顔を見せる明奈も、恐らく明人と同じほどには食べているのだが、なぜかこちらはぴんぴんしている。


明人は、相棒を見る。


「ああ、デザートも頼んでしまったが、満足のいくものだったな」


奨も満足そうににっこりして明奈に同意する。こちらも特に何も体に異常を感じてはいない。


「まさか明奈が奨と同じ体質とは……」


そんな独り言を明人はつぶやいた。





午前九時にもなると、商店通りは全店開店し、かなりの賑わいを見せている。この時間は観光客よりも、この島に住む住人を多く見る。


商店街には、観光客向けの店もある一方で、住民向けの生活必需品を売っている店も多い。


「表にはこんなにも、人間がいるんですね」


「そう言えば、さっきの食事処も、人間の従業員を〈人〉の支配人兼料理人が動かしてた感じだったな」


「だが、さすが親人間派と言われる八十葉家の傘下の家の領地だな。見たところ理不尽な目にあっている人間はいない。ちゃんと人間が〈人〉の社会の中でも働いている。これは、珍しい光景だ」


外の世界をよく知らない明奈は、より詳しく外を知りたく思い、奨に尋ねる。


「珍しいのですか……?」


「ひどいところだと、人間の扱いは家畜以下だ。そうだな、昨日の男がいただろう。人間を道端で食ってたやつ。ああいうのがスタンダードで、人間は好き勝手にこき使われたあげく、いつでも好きに殺して、お咎めはなし、むしろ常識、みたいなところの方が普通だ」


「え……」


「まあ、驚くよな。源家の教育は厳しいが、前提がちゃんと人間が働ける場所に派遣するというものだ。その教育もその前提で行われるだろうし、教えられていないのも無理はない」


聞き耳を立ててみると、この地で暮らしている人々の声が聞こえてくる。


「本家への納品はこれで全部?」

「ああ。数はそろっているはずだが……なんかまずかったですかね?」

「単なる確認。そう気になさるな。この時期は繁忙期だからね。気を緩めると上に怒られる。役所の〈人〉はおっかないぞー。ぶっちゃけ下町にいる連中の部下として働く方がマシよ」

「それはご苦労さん。お互いもう17歳だもんなー。もう少し生きられれば、出世も夢じゃないんじゃないか?」


明人は〈人〉と人間が共に話をしているところを興味深くじっと見ていた。


奨達のこの後の予定としては観光のついでに、明奈に必要な一通りの必需品をそろえることだ。しかし、当然明奈は今お金を持っていないため、買いそろえるのは主である奨や明人の役目になる。


まず最低限必要なのは、明奈個人のデバイスだ。デバイスは戦闘にのみ使うものではない。生活に必要なあらゆる道具や消耗品、エネルギーなどは現代においてテイルで生み出すのが常識になっている。


倭の国の本土ではオンラインショップですべて済むのだが、この島のように、重要な施設がある地域では、警備上の問題で外界のインターネットと接続できない。


そのため、現場調達。目的の専門店へと赴き、直接売人から購入しなければならないようになっている。


テイルデバイスもその一つに数えられている。


専門店を外から覗くと、数多くの種類のモデルが飾られているのが見え、値段も高価なものからワンコインの簡単なものまで存在する。当然高いものほど、頑丈だったり、物質の実体化の速度が速かったりと、性能が良くできている。


しかし、必ず一人につき一つというわけではない。外出用、生活用、仕事道具用などと、使い分けをする人もいる。


「とりあえずは明奈がどれくらいのイメージ力があるかどうかを試したいところだが……」


「その前に、手に会うデバイスを決めないとダメだろ。女の子だし、アクセサリー型とか」


「お前がつけてるの見たいだけだろそれ」


「そ、そんなんじゃねえよ」


目の前で二人の主が何かを話し始めるなか、後ろから何者かが迫っている気配を察知した。明奈には奨が昨晩見せたような明確な気配察知はできないはずだが、そんな彼女でも察知できるほどの存在感を持っている存在。


「おや、随分と朝が早いようで」


店にも入らずしゃべり倒している二人の前に、その男は現れた。


「え……なぜ?」


明人が怯み、

「これはどうも」

奨の表情が明人と話し込んでいる時のリラックスしている様子から、一気に様変わりする。


明奈はその方々に一礼し、自らは目の前に現れた男から見て、主の後ろになるように移動する。


この場に現れたのは2人。


1人目は初老の男だった。もっとも人の身で初老の見た目とといことは、およそ80歳前後と言っても過言ではないほどの年数を生きている。


「ほう、これは、活きのよい若人だ」


昨日のパーティー会場においては、私設の研究所の所長という身分で参加をしていたことを、明人と奨は覚えている。


そしてもう一人。後ろで明奈が怯えているのはこの男が原因だった。


「太刀川様、須藤様。良かった、見つかりました。商店通りにいると報告を受けましたが、合流できて良かった」


この土地の管理者。源家当主の源閃だった。

~派:〈人〉が人間をどのように扱うかは大きく3つの派閥に分かれる。1つは『人間も〈人〉も仲良くしようぜ』の親人間派、『実力のある者が優遇され、そうでない者は捨てられる。そこに人間と〈人〉の差はない』とする実力主義派。『人間は下等生物だから奴隷、それ以下のように扱って当然だよね』という人間差別主義派。風潮は家ごとに異なり、源家は親人間派である。

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