「一つ、確認したいのだけど。今の話の流れだと、民政局で色々経験を積んだ後は、外交局に戻って来いとか言われているんじゃない?」
半ば確信しているような問いかけに、ローダスは苦笑を深める。
「さすがだな。やっぱり分かったか。頃合いを見て、呼び戻すと言われた。他の人間には秘密だから、口外はしないでくれ」
「安心して。それくらいの分別はあるから」
「それなら良かった」
「うん、状況は分かった。それなら私も頼みやすいかな?」
「何の事だ?」
何やら一人で頷いているシレイアに、ローダスは怪訝な視線を向けた。するとここでシレイアが話題を変えてくる。
「ローダスに、キルティ語とエランダス語を教えてもらおうかなと思って。勿論、大陸共通語は読み書き会話に不自由はしないけど、他の外国語はちょっと……、というか、かなり不安があるから」
急に真顔で言われた内容に、ローダスは一瞬意外そうな顔つきになったものの、すぐに快く了承した。
「ああ、勿論構わないぞ? 外国から資料を取り寄せた時に、翻訳なしに読めた方が良いよな」
「まあ、それもそうなんだけど、ローダスが外交局に戻るなら、私も一緒に移籍してあげても良いわよ?」
「……は? 移籍って……、何を言ってるんだ?」
唐突に言われた台詞の意味が飲み込めず、ローダスは半ば呆然と相手を見やった。対するシレイアは、呆れ顔で事も無げに告げる。
「ちょっと。何、唖然としているのよ。現に、所属局移籍の前例を作ってしまった張本人が」
「いや、それは確かにそうだが……」
「それで、ローダスが外交官として国外に赴任する時には、私も一緒に行ってあげるわ。どう? 史上初の外交官夫婦じゃなくて夫婦で外交官だなんて肩書、ワクワクしない?」
「…………え?」
満面の笑みで問われたものの、ローダスはまだ固まって思考停止したままだった。そんな彼を放置したまま、シレイアが真顔で考え込む。
「そうは言ってもね……。確かに外交局に私を引き抜いて貰うのは難しいかもしれないから、その時は民政局で初の女性局長を目指すわ。そうしたら史上初の局長同士の夫婦になるわけか。正直、どっちも捨てがたいわね……」
「……………」
シレイアはブツブツと呟きながら、自分の考えに没頭していた。しかし少しして、一方の当事者のローダスが沈黙を保ったままなのに気がつく。
「ちょっとローダス。さっきから、何を黙っているのよ。どちらも私には無理とか思っているわけ? あまり見くびらないで欲しいわね」
若干気分を害しながら、シレイアが声をかけた。それでローダスは我に返ったらしく、慎重に口を開く。
「いや、そうじゃなくて……。別に、どちらかに絞らなくても良いんじゃないか?」
「え? どういうこと?」
「つまり、シレイアが将来外交局に移籍して、俺と共に国外赴任を経験してから民政局に復帰して民政局長になれば、どちらも叶えたことになるよな?」
「…………」
ローダスは、これ以上はないくらい大真面目に告げた。それを耳にしたシレイアは、無言のまま両目を限界まで見開く。その数秒後、彼女は歓喜の叫びを上げた。
「言われてみればその通りだわ!! そこまでは考えが至らなかった!! さすが、ローダス!! やっぱり目標は高く持たないと駄目よね!!」
その賞賛の言葉に、ローダスが楽しげに笑って応じる。
「正直、ちょっと高すぎる気がしないでもないが、俺達だったらこれくらいで丁度良い気がしてきたからな」
「確かに、これぐらいが私達にはちょうど良いわ! それじゃあ目標に向かって、二人で頑張るわよ!」
「ああ、これからもよろしく」
そこで二人は固く手を握り合い、庭園内の散策などそっちのけで、今後の仕事と壮大な夢について大いに語り合ったのだった。
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