官吏登用試験発表の三日後。休日で自宅に戻ったシレイアは、予定通り修学場同窓会に参加した。
「皆、久しぶり。出席予定者が全員揃ったから、同窓会を始めるよ! なんといっても、今回の主役はこの五人! 五人揃って官吏登用試験に合格しました! 皆、拍手!」
主催兼司会者でもあるエマが、借りた修学場教室の前方にまずシレイア達五人を立たせてから、開会の宣言をする。すると教室全体から歓声が沸き起こった。
「うおぅ、凄いな!」
「お前達だったら、絶対やると思ってたぞ!」
「本当に俺達の誇りだよな!」
「シレイア、おめでとう!」
「本当に、自分の事のように嬉しいわ」
「皆、ありがとう」
「それじゃあ、後は皆、自由に懇談してね。終了時間になったら声をかけるから」
エマが言った通り、今回の主役はシレイア達であり、彼女達は次々にやって来たかつての同級生に祝福の言葉をかけられつつ激励された。
「おめでとう」
「頑張れよ」
口々に言われる言葉にシレイア達が笑顔で礼を言い、互いに近況などを話し合って楽しく過ごしているうちにいつしか人垣がなくなり、各自教室内に散って語り合い始める。人波が途切れて五人が一息ついていると、最後にレスターがやって来た。
「皆、合格おめでとう。いよいよ官吏として働くんだな。頑張ってくれ、応援してる」
彼の祝福の言葉に、五人はこれまでと同様に笑顔で応じた。
「ああ、レスター。ありがとう」
「そっちも頑張っているみたいじゃないか。たまにしか顔を合わさないが、会うたびに落ち着きや貫禄が増しているというか……」
「俺も思った。とても同い年とは思えないぞ」
「やっぱり貴族の屋敷に勤めだして六年も経つと、この間学生だった俺達とは違うよな」
「そうなのか? 自分では良く分からないが」
苦笑して首を傾げたレスターだったが、次の瞬間真顔になって話し出す。
「実は今日、五人に相談というか、意見を貰いたいことがあるんだ」
「急に改まって何だ?」
「俺は今、シェーグレン公爵令息のナジェーク様の直属として働いているんだが、今日の同窓会に出席するために休みを申請したら、『その同窓会の時に例の官吏志望の同級生達も来るなら、今年の官吏登用試験に落ちた生徒の中で、何人か推薦して貰って欲しい』と頼まれたんだ」
「ちょっと待って、レスター。全然話が分からないわ」
「あまり大っぴらにできない話だから、ちょっとこっちに移動してくれ」
慌ててシレイアが問いを発すると、レスターが教室の一角を手で指し示しながら促してくる。シレイア達は何事かと思いながらも、おとなしく言われた通りに移動した。そして他の同級生達と若干距離を置いた状態で、レスターが詳細を語り出す。
「さっきの話の理由だが、順を追って説明すると、シェーグレン公爵家ではこの数年、数々の新規事業に着手したり領地の開発に力を入れているんだ」
「ああ、それは知ってる。提携しているワーレス商会と同様に、羽振りが良いよな」
「庶民の俺達だって、それくらい知ってるさ」
「それで各種の運営に優秀な家臣を配置しているんだが、慢性的に人手不足なんだ。それで昨年と一昨年は官吏登用試験に落ちた人の中から、何人かずつナジェーク様が試験して採用していた。クレランス学園官吏科に所属していたくらいだから学力には問題ないだろうし、領地で住民に声をかけて一から募集したりするより手っ取り早いからな」
その説明にシレイアは頷きかけたものの、若干引っ掛かりを覚える。
「なるほど、一理あるわね。でもどうして登用試験に落ちた人に声をかけるの? 試験を受ける前に、優秀な生徒に声をかければ良いんじゃない?」
「一応、官吏を目指している生徒だし、それに加えて優秀な生徒を横取りする形になったら、王家に対して申し訳が立たないんじゃないか?」
「確かにそうかもね」
それなりに理屈が通りそうな理由に、シレイアはまだなんとなく納得しかねる気持ちだったが一応頷いておいた。すると今度はローダスが、冷静に確認を入れる。
「レスター。その他の伝手《つて》で雇われている人もいるんだろう?」
「ああ、それは勿論、他の紹介で雇われた人間もいる。それで、過去二年間はナジェーク様と懇意にしていて信頼できる生徒が官吏科に所属していたから、その人に頼んで不合格者の中から何人か推薦して貰ったそうなんだ」
「どうして何人か推薦するんだ? 学力は問題ないと判断しているなら、全員試験を受けさせれば良いだろう」
「学力に問題が無くても、性格や家庭環境や趣味嗜好や主義主張に問題がある場合があるだろう? ある程度同じ時間を過ごしてきた同級生に把握できる程の問題がある人間を、シェーグレン公爵家は採用しない」
きっぱりと断言したレスターに、その場全員が深く同意した。
「……ああ、うん。了解した」
「そうよね。学力が問題なくても、他で色々問題がある人っているわよね」
「そういう人間を試験する手間が惜しいってことか」
「当然だな。凄く納得できた」
「実に無駄がない判断だな。さすがはシェーグレン公爵家だ」
その時五人の脳裏には、つい三日前のガーディの一件が浮かんでいた。そこでいち早く気を取り直したローダスが、話の先を促す。
「それで? 今年は官吏科に直接知ってる生徒がいないから、レスターを介して話をもってきたってことか?」
「そうなんだ。ナジェーク様は『在学中にシレイアとは剣術大会の実行委員会で良く顔を合わせていたが、卒業して二年近く交流は無いし、いきなり個人的に頼みごとをすると驚くだろうから』と仰っていた」
「そこまで気を遣っていただかなくても、声をかけて貰えればいつだってお役に立つのに」
「『これから五人とは先輩後輩の間柄になるからよろしく』とも言っておられたな」
シレイアは恐縮しながら言葉を返したが、続くレスターの台詞に五人全員が顔色を変えた。
「そうか! ナジェーク様はれっきとした財務局所属の官吏だし、これから先輩になるんじゃないか!」
「それじゃあ、変な推薦はできないぞ」
「当たり前だ。もとより変な人間を推薦する気はないがな」
そこでシレイアは、慎重に確認を入れる。
「レスター。詳細について確認させて貰っても良いかしら?」
「ああ、なんだ?」
「推薦の条件に、男女は関係ある? それから、こういう事ができる人間が欲しいって要望はあるのかしら?」
シレイアがそう口にした途端、他の四人は瞬時に真剣な面持ちで聞き耳を立てた。微妙に緊張感が満ちる中、レスターが落ち着き払って彼女の問いに答える。
「それについては、ナジェーク様から伺っている。男女関係なく推薦して欲しい。それから一通り勉強ができるのは勿論だが、計算処理能力に優れているとか、法律条例過去判例に詳しいとか、柔軟な発想ができるとか、なにか秀でた所がある人物ならなお良いと仰っていた」
「分かったわ。じゃあレスター、皆で相談するからちょっと待ってて」
「ああ、分かった」
そこでレスターは心得たように数歩離れ、五人は円形になって話し合う態勢になる。
「落ちた五人はガーディ、ハワード、ウォルター、リンクス、ダニエラだが……。さっきまで聞いた条件なら自ずと決まると思う。どうだ?」
ローダスがそう話の口火を切ると、次々と遠慮のない意見が上がった。
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