僕の名前は「かずお」。僕を彼女にプレゼントした人が「かずき」って名前だったから、それをもじって「かずお」。
「上司、どんだけー! まじ、天に召されろー!」
僕の飼い主、彼女は「こっこちゃん」。
こっこちゃんはときどき(多いと毎週末)、こんなふうに声と語尾をわざとうわずらせて叫ぶ。こっこちゃんいわく「IKKOのものまね」らしい。僕は「イッコウ」がどんなものか知らない。おもしろいけど不気味なこっこちゃんのとなりで、僕は思いつくかぎり慰めの言葉をかける。
僕をこっこちゃんにプレゼントしたのはこっこちゃんの元彼氏である「かずき」だ。こっこちゃんと「かずき」は僕がここにやって来て3ヶ月目の夏、そうぜつなけんかをして別れた。こっこちゃんの22歳のお誕生日に、僕は元彼氏によりAmazonの倉庫からこっこちゃんが暮らすこの2LDKのマンションに輸送され、こっこちゃんと出会わせてくれた「かずき」とこっこちゃんが別れた今も「かずき」に言われた「まぬけづら」のまま、こうしてこっこちゃんといっしょにいる。
こっこちゃんはさらさらの髪の毛が腰まであって、目の周りがやたらきらきら、唇がやたらてかてか、まるでお人形さんみたいな女の子。「プログラマー」というお仕事をしていて、いつもパソコンと睨めっこしながらキーボードをかたかたたたいている。こっこちゃんと暮らしはじめてはや4年。僕はこっこちゃんがキーボードを鳴らす指のスピードや強さでこっこちゃんの機嫌がだいたいわかるようになった。
「だー! 仕事が終わらない。無能な上司がつまらないミスを連発したせいでなんで私が苦しまなきゃいけないんだ。もう仕事やめたい。しんどい。働きたくない。婚活しようかな」
「婚活しようかな」はこっこちゃんの口癖だ。100回くらい聞いている。
最近特別いそがしいからやつれた横顔と、少女漫画のヒロインみたいなくるんくるんのまつ毛。ああ、右の中指、ネイルがはげちゃってる。
悲しいな。なにもできない僕はこっこちゃんのとなりで、ただもふもふの両足をラグに放り出し、どう頑張っても力が入らない両腕をだらんとぶら下げているだけ。
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