涙ぐみながら考える。
「何でこんなことになったんだろう」
あそこであの女の子を助けていなかったら。見捨てていれば。
思ってもいないことが頭に浮かんでくる。
いや、実際まったく思ってないことはない。
でもそれはただの責任逃れだ。その考えが浮かんでくる自分に反吐が出る。
「くそ、くそ、くそ、くそ、くそ、くそ、悔しい!」
こぶしを壁に叩きつける。
そんなことをしたって何も今の現状を変える理由にはならないと分かっているのに、何度も何度も叩きつける。
僕にもっと力があれば。もっと強ければ。
路地裏に独りで座って何分。いや何時間経っただろうか。
いろいろな異臭がするため誰もここには近づいてこない。
また、まだ朝日が出でないので暗い。
誰も、哀れんだ目で、弱者を見るような目で自分を見ない。
それだけが救いだった。
「…………!?」
自分のほうに近づいてくる足音が聞こえた。
なんでこんなところに来るんだよ。
足早にここから立ち去ろうとすると。
「待ってください!」
聞いたことのある声だなと思い、声がした方を見てみると昨日の入団試験で助けた女の子がいた。
ふと、また嫌な考えが頭によぎったがすぐに取り払う。
「やっと見つけました! お礼をするためにずっと探してたんですよ!」
もう終わったんだ。お礼なんてされてもなんも意味がない。
「改めて、先ほどはありがとうございました。おかげで助かりました!」
そう言って女の子は元気よく頭を下げてお礼をしてきた。
【英雄】たちの気持ちが少し分かった気がした。
やっぱりあのときの判断は間違ってなかった。
そう思える瞬間だった。
「私はジュリです! あなたは?」
「‥‥‥僕はアルベール・グライアレット」
「アルベール、どうかしたんですか? 落ち込んでるみたいですけど……」
とジュリがまた体を近づかせて聞いてくる。
話すべきか少し迷ったが全てを話すことにした。
「‥‥‥そっか、ごめんなさい」
「いや、僕が弱かったから、力がなかったから。ジュリには何も非はないよ。それより相談に乗ってくれてありがとう」
相談に乗ってもらえて少し気持ちが楽になった。
これから頑張っていこう。そう思えるようになっている。
いつしかここに漂っていた異臭も消えている。
ジュリがにんまりと口角を上げて言った。
「アルベールは【英雄】になりたいんですよね」
「うん。なりたかったよ」
もう自分の限界を知ってしまった。見てしまった。
【英雄】になんてなれないと自分の頭が理解してしまった。
でもあの試験で、試験の中では本物の冒険ではなくとも冒険の楽しさも知ってしまった。
だから村に引きこもっているよりはこの外の世界で冒険者になって本物の冒険をしてみたいそう思ってしまった。
だから【英雄】にはなれなくとも僕は冒険者の仕事を続けてみようと思う。
「うん! 決めました。助けてくれたお礼に協力してあげます!」
謝礼金でもくれるのだろうか? 何をしてもらえるんだろう?
そんなことを考えいると。こちらに手を差し出して。
ジュリは直接頭に届くような声で。
「私たちと一緒に‥‥‥【英雄】にならない?」
朝焼けの光が二人を照らすこの瞬間新たな【英雄】が生まれる原点になるということをまだ誰も知らない。
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