僕に乗り移った神様、『ミズチ』はそもそもどこから来たのかについて。
虹羽さんの見解はこうだ。
「結奈ちゃんが仕事先で拾った妙な鱗があったんだけど、その日はずいぶん体が重かったみたいでさ。回復のために家に帰るのを優先したら、そこで不審者の侵入さ。んでね、その鱗の形状が今のみなと君の胸にある鱗と瓜二つらしいから、きっとそこから入り込んだんだろうねぇ~」
とのこと。
ざっくりしてるが、その線で間違いないだろう。
あの日、姉さんのポケットから落ちた鱗の感触と、僕の左胸にある皮膚の感触は似ている。
蛇のような、ざらつきのある硬い表皮。
あれに触れたらミズチの声も聞こえたわけだし。
ただ、疑問に思うことが一つだけある。
僕はミズチの声を、どこかで聞いたことがある気がしている。
初めて会った気がしない、程度のおぼろげな感覚だが、結局確証はないのでその件は特に相談しなかった。
一蓮托生になった相手との馴れ初めなんて、いまさら気にするだけ無駄だ。
そんなこんなで、僕は現世では超貴重な半神半人となって、残りの人生を歩むことになった。
半神半人の僕は、検査も含めた軟禁状態から解放されていの一番、ノスリに会いに行った。
人間世界の裏側にある、巨人の大きさがちっぽけに見えるほどの大樹がある森で、彼らは暮らしていた。
ノスリと、ノスリが助けた女の巨人、二人で。
寝ていた期間と検査の期間も合わせると一か月近くは経っていたため、ノスリとの再会を喜ぶ前に、彼の姿を見て驚きを隠せなかった。
岩のようにごつごつして、苔も生えていた皮膚が、奇麗な肌色になって見違えていたのだ。
どうやら、奴隷だった女の子に甲斐甲斐しくお世話してもらっているらしく、二人の空気は夫婦といった感じだった。
ちょっとおバカで人情味にあふれた男が、愛情深いお嫁さんに慕われている幸せそうな光景に、思わず笑みがこぼれた。
そんなおり、ノスリが僕に笑いかけた。
「みなと。おれ、おまえのたすけがなかったら、だまされて、このこをたすけられなかった。だからこんどは、みなとが、たすけてほしいときに、おれがちからになるぞ!」
兜を取って、いかつい顔つきを崩して感謝を述べてくれたノスリの前で、僕は涙ぐんでしまった。
こんな風に温かく笑ってほしかったから、僕はミズチに力を借りたんだ。
深く戒めると、自分の行いにほんの少しだけ自信が灯る。
周りに散々迷惑をかけてしまい、説教もたくさんもらったが、巨人のヒーローがくれた温かい言葉だけで、沈んでいた心が晴れた。
その日の夜。
僕は改めて、力を貸してくれた張本人であるミズチにも感謝を伝えるべきだと思い、自室のベッドで彼女に語り掛けた。
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