姉さんからの説教は数十分ほどで時間こそ長くはなかったが、心にずきずきと刺さるような痛さが染みわたった。
今回の僕の失態を丁寧に一つずつリストアップされ、それがなぜダメだったのか、なぜこの選択を取ったのが過ちだったのか、事細かに説明されたからだった。
「減点方式で採点したから、高校のテストで見たら大体43点ぐらいだと思いなさい」
「……赤点は回避してますか……?」
「いや、お話になりません。70点あってようやく最低限の力があるって証明になるから、スタッフとして雇いもしないわね」
「おぅ……」
加点ポイントがいくつかあった気がしたんだけど、それすら全く叶わなかったか……。
「……あっ。えっとさ、こんなことしても焼け石に水かもしれないんだけど、ノスリの槍の謎を答えたら、加点される?」
「あら、分かったの?」
「えっと、予測だから当たってる自信はちょっとないんだけど……」
「いいわよ、聞いてあげるから言ってみなさい」
彼女は先ほどまで説教に使っていたスマホのメモ画面から目を離し、真剣な表情で僕の言葉を待つ。
「えっと、ノスリが持っていた槍が矢と同じ形状をしていたから、ただ突き刺すだけの道具じゃなくて、弓として射ることも可能なんじゃないかって。矢に特殊な魔法がかかってるも考えたんだけど、もしそうなら矢筒に入ってた矢の全部にかけてあってもおかしくないのに、姉さんの銃弾で粉々に壊れたものもあった」
「そうね、二発目の矢は完全に壊れたわ」
「姉さんが手加減してるのかと思ったりしたけど、そんな様子もなかった。だから、条件はノスリにある可能性が高いと思って考えたら、一つの仮説が浮かんだ」
「ふむ、その仮説は?」
見定めるような視線を浴びて、深呼吸して気持ちを落ち着かせ、続ける。
「ノスリが木の矢を『弓で射る』か『投げる』か、だと思った」
姉さんが意外そうに、目を細めた。
「弓で射た場合、矢は壊れる。けど、ノスリが投げるとそれは槍判定になって、壊れない。壊れないというより、強度が増すのかな……?」
「ふーむふむ、案外なかなか」
「あ、えっと……正解?」
「ほぼ正解よ。ノスリたち巨人族は神の鍛冶屋とも言われていて、その手が作る武器や道具には特別な加護が付くの。ノスリに聞いてみたらわかるでしょうけど、弓と投擲に加護が付いているみたいね」
「へえ、それってどんな加護なの?」
「推測だけど、弓には必中の加護、投擲には堅牢の加護が付いてると思うわ」
「必中? 堅牢?」
疑問を投げかけると、彼女はスマホでコマ送りの動画を再生した。
その中身は、デッサン人形が白い空間の中心に立っており、飛来してきた細長い槍のようなものが、ぐるっとカーブを描いて人形に突き刺さっている動画だった。
「これが、必中。対象に狙いを定めると、全く見当違いな方向に放ってもそこに向かう力ね」
「え、強くない?」
「さらに言えば、かなり貴重な力よ。対象を何かしらの手段で認識する必要はあるけど、基本的に素早いものにこれを付与するだけで、かなり強いわ」
「銃弾とかに付与できたりしたら?」
「ホーミング弾になるわね。ただ、強度があがるわけではないから撃ち落とされたり、防がれたら意味はないわ」
「銃弾を防ぐって……」
まあ、防弾チョッキとかシールドで防げはするんだろうけど。
目の前にいる人は、銃弾で矢を撃ち落としてたからなぁ……。
戦いの次元が違う。
「じゃあ、堅牢っていうのは?」
「頑丈になる、ってことね。ノスリが投げたものは、強度がすさまじく上がるのだと思う。私の弾が当たって壊れないのは、堅牢と過再生ぐらいだから、きっとノスリは前者ね」
また知らない単語が出てきたが、聞き出したら止まらなさそうだからこれぐらいにしておくか……。
「そうね、10点あげましょう。おめでとう、53点よ」
「それでも70点には届かないんだね……」
「けど、良いセンスね。正直驚いたわ、分析力は交渉人としての見込みありと言えるぐらいよ」
「そっかぁ……え、交渉人?」
姉さんが発した単語を思わず聞き返してしまった。
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