俺達は住居兼作業場の話で、時間が少し遅くなった。
遅い朝食を食べに6人で『なごみ亭』に向った。
忙しい時間帯を過ぎたせいなのか、比較的店の中は空いていた。
「おはようございます!サリーさん。6人前お願いします」
「まあ、今日は大勢なのね」
「えぇ、アルバンさん一家も一緒です」
昨日挨拶に来た時にサリーさんもいたから、アルバンさんの顔は知ってる。
「エリアスお兄ちゃんの嫁のアディです。お兄ちゃんがいつもお世話になってます」
「まあ、かわいいお嫁さんね」
サリーさんが微笑む。
「なに!エリアスお兄ちゃん。これはどうゆうことよ?!」
『なごみ亭』の看板娘10歳のアンナちゃんがむくれている。
「私はまだ子供だから、オルガお姉ちゃん達のことは仕方ないと目をつむったわ」
なにを言ってます?
「この女は何よ!私と同じくらいじゃないの?」
「エリアスお兄ちゃん、この女だあれ?」
アディちゃんが聞いてくる。
「この『なごみ亭』の看板娘、アンナちゃんだよ」
「嫁のアディです。初めましてアンナちゃん」
「なにが、アンナちゃんよ!!あんた何歳よ?!」
「9歳よ」
「な、なんですって!!私は10歳よ!!私より年下に手を出すなんて、エリアスお兄ちゃんの節操なし!!」
「それがなにか?昨日から私達は同じ屋敷に住んでいるわ」
「な、なんですって!!」
いや、だって奴隷だし。
でも今日から建物が違うから。
「うふふふふ。プラトニックだけでは、男女は駄目なのよ」
な、何かしましたか俺?
「パコ~~~~ン!!」
アリッサさんのハリセンがアディちゃんを叩く。
「痛い?」
アディちゃんが痛くないのに、思わず両手を頭に載せていた。
「ほう、これが『オチ』を付けるということですか?分かりました」
アルバンさんが感心している。
「おい、なにを騒いでいるんだ?」
厨房からビルさんが出て来た。
「おはようございます!ビルさん。アルバンさん一家と今日は来ました」
「おお、あんたは昨日の…」
「お父さん聞いて。またエリアスお兄ちゃんが新しい女を連れて来たのよ」
「なにを言っているんだアンナ?」
「アルバンさん親子には昨日から同じ敷地に住んでもらっています。調味料作りを手伝ってもらっているので」
俺はそう説明した。
「ほう、そうなのかい」
「家族共々、よろしくお願いいたします」
アルバンさんが挨拶をした。
「こちらこそ、よろしく頼むよ」
「ビルさん、今時間は空いていますか?お話があります」
「あぁ、良いけど話はエリアス君達の料理を出してからだな」
「そうでしたね」
それから俺達は 朝食を食べた。
食べ終わった頃、ビルさんがやって来た。
「で、話って何だい?」
商業ギルドにソース、醤油、マヨネーズ、醤油タレを卸すことを伝えた。
そして『なごみ亭』でも店頭販売してほしいと話した。
「それは助かるよ!」
「店頭価格は統一しているので、店の取り分は1/3ですけど」
「俺にはそんな難しい話は分からないからな。任せるよ」
そう言うとビルさんは笑う。
ソースとマヨネーズがあるなら、食べたいものがある。
「ビルさん、新しい料理方法があります。やってみませんか?」
「おう、教えてくれるのかい?助かるよ」
「ではさっそくやりますか」
俺はそう言うとストレージから、魔道コンロとフライパンとボウルを出した。
そしてまな板と材料、キャベツを出し千切りにした。
ボウルに小麦粉、『味元《あじげん》』、キャベツを空気を含むようによくかき混ぜる。
フライパンの上に生地を流しスプーンの角を使って、約2cmの厚みになるように押し広げ焼く。
生地の上にバラ肉を3枚載せる。
そしてヘラを使い裏返えす。
そしてまた裏返して焼く!
ソースをスプーンすくい生地にぬる。
そしてマヨネーズを網状に垂らして。
はい、お好み焼きのできあがり~!
辺り一面にソースのいい香りが漂う!
「食をそそる、いい匂いだ。なんという料理だい?」
「はい、好みの物を入れて焼く。お好み焼きです」
「お好み焼きか!それはいい。さっそく店にも取り入れてみるよ」
「はい俺も後で商業ギルドに、特許を出しておきます」
俺達は屋敷に戻って来た。
「エリアス様、ソース、醤油はどこで作られているのでしょうか?」
アルバンさんが聞いてくる。
それはそうだろうな、それらしい建物も屋敷には無いから。
「ソース、醤油はあるところ(ストレージの中)で創って、あるところ(ストレージの中)に収納しています」
「そうでしょうね、私達の作業場を見ればわかります。創る時に一時《いっとき》だけ場所があれば、それ以外はマジック・バッグに収納しておけばいいのですから。あんな大容量のマジック・バッグは見たことがありません」
「そのことは秘密ですから」
「わかっております。私も商人の端くれ、マジック・バッグの価値は分かります」
こうしてエリアス商会は開店した。
その後、エリアス商会はたくさんの料理レシピを商業ギルドに申請した。
開示する金額もとても価格が安く、大勢の人が料理方法を知ることが出来た。
小麦粉などの粉物を使った料理がたくさん増え、街の人達がソース、醤油、マヨネーズ、醤油タレの味を知るのに時間は掛からなかった。
『なごみ亭』はこれを機に、宿屋を辞め食堂に専念した。
アレン領は調味料により食の街と呼ばれる程に、多くの料理文化が芽吹いた。
後《のち》の歴史学者によれば、それにはどんな料理にも欠かせない調味料があったこと。
そしてそれを提供している、エリアス商会の存在が大きかったと言う。
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