【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

想像した事を実現できる創生魔法。現代知識を使い生産チートを目指します。
ジェルミ
ジェルミ

第107話 閑話 ある施設スタッフの独り言

公開日時: 2022年11月2日(水) 15:10
文字数:4,067

 私は16人いるアミューズメント・スタッフの内の獣人メイドの1人。

 最初に斡旋ギルドのギルド長、アクアさんからこの話を聞いた時は耳を疑ったわ。

 新しい施設で人を捜していると。

 しかも勤務時間は8:30~15:30、昼休憩は1時間もある。

 

 そしてなにより嬉しいのは人種差別が無い事。

 私は女で獣人。

 この国は人族こそが一番だ、という人族至上主義。

 その上、 男性を重くみて、女性を軽んじる男尊女卑《だんそんじょひ》が横行している。

 街で暮らす以上は働かなければいけない。

 私は戦闘が多い冒険者より、戦闘メイドを選んだ。

 でも獣人の私は人族に比べると賃金が安く、富裕層に雇われることはない。

 安くても良いから、仕事がしたい。

 働かないよりは、マシだから。


 そんなある日、斡旋ギルドから使いが来た。

 ギルドに行ってみると、繁華街にある施設で人を募集していると言う。

 賃金は人種や男女の差別がなく能力主義だと言う。

 信じられなかった。

 そんなことを言う雇い主がいるなんて!!

 きっとよくない場所なのでは?

 私達を雇うと言ってどこかに売り飛ばす、そんな犯罪者もいるから。


 それなら明日、職場見学に行かない?、そうギルド長に言われた。

 職場見学?なんのこと?

 私が訝《いぶし》がっていると、雇う側から見に来ないかと言われていると言う。

 そこの雇い主は若いがちゃんとした考えを持っている。

 自分の働く職場を事前に、見学できれば働く側も安心できると。

 普通はそんなことはない、雇う側が私達を選ぶ。

 しかし事前に見学するということは、働く側が雇い主を選べると言う事だ。

 しかも雇い主の奥さんは獣人だと聞く。

 

 希望者も多かったけど結局は執事6人、メイド8人に絞られた。

 そしてその半数が私を含めた獣人だった。


 翌日、私達はギルド長アクアさんと、その施設へみんなで向かう。

 その施設は物凄いお屋敷だった。

 入り口の看板には『入館料お一人様5万円』とある。

 場違いだわ。

 私がこんなお屋敷の様な高級な場所で…。


 ギルド長のアクアさんがドアノッカーを叩く。

 するとドアが開き中から出てきたのは、この国では珍しい黒髪の美青年だった。

 名前はエリアス様と言うようだ。

 中に入ると猫族の奥様がいた。

 奥様は身長が高く凛々《りり》しく茶色の短い髪、思わず同性の私でも『お姉さま!』と言いたくなるような女性だった。


 みんなで中に入るとそこで、館内の簡単な説明を受けた。

 男性は従業員のアルバン様という男性が、私達女性は奥様のアリッサ様がそれぞれ案内してくれると言う。

 私はすぐにピンと来た。

 奥様のアリッサ様は人族ではない。

 私は獣人だから匂いには敏感なの。

 この国にはたくさんの種族が住んでいる。

 人族に与《くみ》しない者は森に住み、容姿が似ている者は人族に紛れて暮らしている。

 でも私もあまり他の種族は知らないから、奥様の種族が分からなかった。

 

 そして猫族の奥様はどこかに行ってしまった。

 あぁ、お姉さま…。


 施設の中は驚く物ばかりだった。

 あらゆるところで照明の魔道具が、ふんだんに使われている。

 1階の浴槽は凄かった!!

 今までこんな大量なお湯は見たことが無かった。

 そしてその大量のお湯に入ることが出来るなんて。

 シャンプーとボディソープという物が素晴らしい!!

 この香りと言ったら信じられない。


 それから2階の娯楽施設では見たこともない遊具で遊んだ。

 3階の休憩所兼レストランに行った時だった。

「なんだ、ここは!!獣人と一緒など、臭くてたまらん!!」

 先客が3組居てその内の1組の、50代の男性がそう聞こえる声で文句を言う。

「獣人を追い出せ!!」とそう聞こえる。

 やはりそうだよね、獣人が人族と対等なんて…。


 エリアス様は、それは出来ないと言う。

 表の看板に事前に告知してたはずだと、男性に聞いている。

 驚いたわ!

 私達、獣人の味方をしてくれるなんて。


 すると男性客は伯爵家の名前を出した。

 1人5万円も出せるなんて、やはりお客は富裕層の貴族だよね。

 もう帰ろうか、そう思った時だった。


 エリアス様はポーチからメダルを出した。

 すると男性客は慌てだした。

 それはファイネン公爵家の紋章が刻まれたメダルだったらしい。

「そうだろうね」アクアさんが呟く。

 そうだ、私も気づくべきだった。

 これだけの豪華なお屋敷と設備。

 後ろ盾が無ければ、できる訳が無い。


 しかしなぜファイネン公爵家ゆかりの者が、このドゥメルグ公爵家のアレン領にいるのかしら?

 不思議に思ったけれど、それは私の知るところではないわね。

 

 それから男性客は大人しくなりお茶を振舞われた。

 紅茶は分かるけど緑茶やウーロン茶というものは初めてだった。

 でもとても美味しかった。

 今まで飲んだどのお茶よりも。

 するとエリアス様は、カステラというお菓子を全員に2枚出して下さった。

 しかもそのお菓子は小麦粉に卵、砂糖、ハチミツを入れ焼いたものだと言う。


 卵だけでも珍しいものだ。

 森に取りに行かないと無いからだ。

 しかし森には魔物が居るかもしれない。

 そんな危険を冒してまで、わざわざ卵を取りに行く者はいない。

 そして砂糖を使っている時点で高級菓子だ。

 

 その上、ハチミツが入っていると言う。

 その場に居た全員の手が止まり驚いた。


 ハチミツは貴重な甘み。

 どんなにお金を積んでも、手に入らない。

 なぜなら売っていないからだ。

 

 凶悪なキラービーという蜂の魔物の巣から採れるものだ。

 もし売っていたとしても、オークションにかけられるほどの高値になる。


 するとエリアス様は時間が経つと、硬くなるから食べた方が良いと言われた。

 カステラはとても美味しかった!!

 こんな甘味があるなんて。


 エリアス様は1枚目のカステラを食べ終えた際にお皿を出すように言われた。

 そして一人一人にスプーンで一杯ずつ、黄金の液体を配ってくださった。

 それはなんと!あのハチミツだった!!

 みんな体が震えた。

 持って帰ろう、私を含めて先客の3組の人達もそう思っただろう。

 しかし時間が経つとカステラに。浸み込んでしまうから食べた方が良いと言う。

 エリアス様は、なんて意地悪な方なのかしら?

 食べるのが勿体なかったけど、みんなで美味しく食べたわ。

 信じられないくらいの甘さだった。


 その後、先客も帰り私達に働く気があるのか聞かれた。

 勿論、全員働きたいと答える。

 エリアス様は嬉しそうに頷き、今後はエリアス社長と呼ぶことになった。




 翌日から私達は施設『ラウンド・アップ』で働き始めた。


 働き始めた時はお客様は1日2~4組だった。

 それでも富裕層の人なら付き人が必ず2人はいる。

 でも施設の規模の割りにはお客の人数としては少ない。

 しかし主人と付き人を入れれば1組3人で15万円にもなる。

 従業員16人の給与はそれで払える。

 

 そして今では王都や他の七領からのお客様で連日、施設は賑わう。

 どうやらハチミツ効果で、たくさんの人達がやってきているらしい。

 主人と付き人2人分のお金15万払えば、ハチミツを食べることが出来るからだ。

 その上お風呂に入り美味しい茶を堪能し、手ぬぐいとタオルは持ち帰れる。

 ハチミツだけと考えても安いと思うだろう。

 

 そして今では従業員全員、エリアス社長を尊敬している。

 いつも何かの時の為に施設には、アルバンさんかアリッサ奥様がいてくれる。

 オルガ奥様は本館にいつもいて、あまりこちらには出て来てくれない。

 あ~、お姉さま。


 そんなある日、施設清掃やバスローブの洗濯は誰がしているのか気になった。

 庭の手入れもそうだ。

 これだけのお屋敷なのに、メイドも庭師もいない。

 しかも私達は接客しか行っていない。

 私はアリッサ奥様に聞いてみた。

 すると事も無げにエリアス社長が、早朝や業務終了後にやっているという?!

 何と言う事だ!こんな広い施設を1人でやっているなんて。

 いったい何時までやれば終わるのだろう?

 きっとエリアス社長は毎晩、夜遅くまで…。

 そんなことは噯《おくび》にも出さず毎朝、社長はさわやかな笑顔を見せてくれる。

 私達に指示すればいいのに。


 アリッサ奥様にそれを言うと、エリアス君はそういうの嫌いだから、と言う。

 お金を払って人を雇っているのに、指示をするのが嫌いだからで済ますなんて。

 なんて人が良いのかしら?

 私は社長の人柄に心を打たれた。

 そんな優しい人は私の知る限り、今までの雇用主ではいなかった。


 そしてお昼を食べないと力が出ないから、と言われ近くの『なごみ亭』と言う食堂と提携して昼食も無料で食べられるようになった。

 信じられない待遇だわ。


 今、私は3階の休憩所とレストラン担当になっている。

 カステラをお客様に配り、1枚を食べるとみなさんお皿を差し出す。

 すると私はハチミツの入った入物を持ち、スプーンで一杯分をお皿に垂らす。

 その間、人族のお客様は目を見開き口を開け、まるで犬族が『待て』、をしているかのような顔をしている。

 狐族の私が人族の上に、立っているような優越感に陥《おちい》る。

 

 獣人の私が居ても、何も言われることは無くなった。

 それはきっとファイネン公爵家ゆかりの、施設だと言う事が広まったからだろう。


 ここで働いている執事やメイドは毅然としていなければならない。

 斡旋ギルドでもここで働きたいと言う希望者が後を絶たないと言う。

 こんな好待遇で環境の良い職場を辞める使用人はいない。

 だから欠員待ちになっているらしい。

 

 仕事が終わると、お客様相手の仕事だからいつも綺麗にした方が良いよと、言われお風呂に入って毎日帰る。

 エリアス社長がメイドに『今夜、泊まっていく?』と聞いたら全員頷くだろう。

 エリアス社長は異種族を差別しない人だから。


 そしてハチミツを持っていて、いつでも人に配れるだけの財力と権力がある、


 優しさと思いやり、財力と権力を備えている男性は滅多にいない。

 いても私達では近寄ることもできない。

 でもエリアス社長なら…。


 そして今日もメイド全員が仕事終わりにお風呂に入る。

 体を綺麗にしてエリアス社長から声が掛かるのを待っている。

 しかし社長から声が掛かるメイドは誰もいなかった。

 

 どうやらエリアス社長は奥手で、奥様からの推薦が無いと駄目みたい。

 まず奥様から口説かないといけないのね。

 ふぅ、難しいわ…。


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