私はアリッサ。
普段は冒険者ギルドの受付をしている。
そして影では国の情報機関に属し、要人警護や諜報活動をしているエージェント。
私達、異種族と呼ばれる種族は人族より人口が少ない。
そして人と外見が離れているほど、街には住めなくなり森に住む種族も多い。
だが森は魔物が多く危険が付きまとう。
能力が高く外見が人族に似ている種族は、国の機関に所属し身の安全を得られる。
その代わり能力を生かし諜報活動や、要人警護につくことがある。
そしてあの日、冒険者のオルガさんに屋敷を案内されエリアス君の能力を知った。
自分の望んだものを創れる『創生魔法』。
そんな都合のいいスキルは聞いたことが無い。
一流の建築家が何年かかかっても、建てられそうもない完成度の高い建物。
しかも各部屋にはガラスの窓が張られている。
前日までこの土地は草や木生い茂げ、潰れかけた旧家が建っていた。
オルガさんが言うには、それを一瞬で更地にしこの屋敷を建てたと言う。
実物を見なければ信じられなかっただろう。
そして彼は容量の多いマジック・バッグを持っている。
それはもう、冒険者ギルドでも有名になっている。
彼一人で物資輸送が楽になり、軍事的な戦略も考えられる。
そして魔法は5属性も使えると言う。
3属性でも凄いことなのに、それを5属性も使えるなんて。
特に光魔法の術者は少なく、100年に1人くらいしか現れない。
その話を聞けば彼の子種欲しさに、たくさんの貴族が群がるだろう。
なぜなら貴族は魔法が使えることで、庶民との格差をつけているからだ。
この国は魔法が使える者が、家督を継ぐのが常識だ。
だが年々、魔法を使える者が減っていると聞く。
魔法を使える者同士での婚姻が仇になり、血が濃くなってしまった。
だが他から新しい血を取り入れたくても、魔法を使える者が少ない。
そこに5属性も魔法が使える者が現れたら。
自分の望んだものを創れる『創生魔法』。
大容量のマジック・バッグを持っているとしたら…。
彼をめぐって戦争が起きかねない。
そのため、冒険者ギルドのギルドマスターに話を通した。
各ギルドは国と裏では繋がっており、国から不干渉条例を発令してもらった。
これで私が彼を守る名目が出来たわ。
そして彼に手を出さない様に、各ギルドや貴族に通達した。
彼の存在を知らしめることになるが…。
不干渉条例を破った者には、厳重な処罰が下されるようになっている。
それが分かっていて手を出す者は、国の関係者にはいないだろう。
たまたま休みの日にエリアス君とオルガさんに会った。
私も非番なので身辺警備を兼ねて、付き合う事にした。
お屋敷に行くと家具やテーブルを、エリアス君が『創生魔法』で創った。
物を創るのを初めて目の当たりにして驚いた。
こんな簡単に創れるなんて…。
私が気に入ったのが三面鏡ドレッサーだ。
鏡が前と左右の板に三面に付いている。
左右に板を出すと前と左右から髪型が見えて分かりやすい。
それにこんなに歪みの無い鏡は見たことが無い。
売ってほしいとエリアス君に言うと、売り物ではないからと断られた。
私が落胆するとオルガさんが、どこに住んでいるのかと聞いて来た。
宿屋に泊まっていることを話した。
賃貸で家を借りるより、食事付きの宿屋の方が良いからと答えた。
するとオルガさんが、一緒に住もうと言って来た。
一瞬、何を言われたのか分からなかった。
こんな仲が良さそうな2人の間に入るんて。
しかも女性の方から誘ってくるなんて…。
するとこの屋敷は二人だけではなくて、私を迎えるためにも創ってくれたらしい。
そこまで言われては、もう断れなかった。
すると突然、エリアス君の愛くるしい顔を毎日見て居たい衝動にかられた。
そして私達はアバンス商会に、3人分の寝具を買いに出かけた。
アバンス商会はこの領でも、大手の老舗の商会だ。
会長のアイザックさんは、今でも現役で店に出ていた。
オルガさんがエリアス君の、木工家具を見てもらうように言いだした。
そして4人掛けのテーブル、椅子4つ、タンス、三面鏡ドレッサーと、椅子のセットをマジック・バッグから出した。
いくつ持っているんだろう?
するとアイザックさんが商人の顔になり、売ってほしいと言い出した。
特に三面鏡ドレッサーが、気に入ったようだ。
やはり目をつけるとことは同じなのね。
エリアス君は交渉ごとは苦手と思い、私が代わりに相手をした。
そして全部で100万円にもなった。
普通に働いても月10万になれば良い方だ。
そう考えたら生活費10ヵ月分。
危険な冒険者をやらなくて済む。
しかも定期的に卸すことになり、これは売れると私は思った。
お金のある上流階級の女性なら、見逃すはずはないと。
それから2人は森に果物採取に行くと言う。
私も果物は大好きだ。
しかし私1人で森に入るには危険すぎる。
でも背後を預けることが出来る人と一緒なら別だ。
弓を持ち防具を着て彼らに同行することにした。
森に入るとエリアス君が、走ると言い出した。
150年前には『疾風のアリッサ』と呼ばれた私だ。
手加減をしてあげないと。
でも実際は違った。
エリアス君は断トツで早かった。
追いかけた私とオルガさんは息が上がったが、エリアス君は乱れていなかった。
そして突然、広範囲に鑑定魔法を使い始めた。
範囲を広げ魔石を持つ魔物を捜していると言う。
こんな馬鹿な使い方は聞いたことが無い。
これが出来れば魔物を捜したり、逆に避ける事もできるからだ。
そしてオルガさんと、息の合った狩りを見せてもらった。
右側です、エリアス君がそう言った。
すると茂みの中から体長1m、全長2mはありそうなワイルドボアがでてきた。
その瞬間エリアス君は、左肘を出し腰を落として構えた。
そしてワイルドボアは、エリアス君の左腕に突撃して止まった。
まるで見えない大きな、壁にぶつかったかのように。
するとオルガさんが飛び出し、ワイルドボアの首をミスリルソードで一刀する。
このやり方でいつも2人は狩りをしているらしい。
私はエリアス君にどうやったのか聞いたわ。
でも教えてはくれなかった。
私はオルガさんからエリアス君の生い立ちを聞いたわ。
閉鎖的な人の少ない村に住んでいたから、世の中のことが分からない。
騙されたことが無いから、人を疑う事を知らない。
そしてオルガさんは『私が側に居るから、エリアスは今のままで良い。変わる必要はない』と言った。
揺るがない愛情、私もそんな気もちで彼を愛せるだろうか。
それからが大変だったわ。
お披露目会を開きアバンス商会アイザックさんとお供が2人。
冒険者ギルドの受付コルネール。
商業ギルドのギルドマスター、アレックさんやノエルさん。
Dランクパーティ『餓狼猫のミーニャ』の3人がやってきた。
そしてこの前来た時にはなかった、3階建ての別館が建っていた。
暇と材料と魔力が余ったから、ちょっと創ってみたと言う。
そんなことはあり得ない。
何が余ったというの?!
オルガさんはもう慣れたのか反応が薄い。
私にとって、それからは驚きの連続だった。
美味しいお肉を食べ、美味しいワインを振舞う。
どこの大貴族様だろう、そう思うくらいの贅沢だった。
1階の大浴場や屋上の露天風呂。
冷蔵庫、照明魔道具、魔道コンロ、ワイングラス販売。
そしてボウリングやゴブリン叩き、ベアベアパニック。
どれをとっても楽しい事ばかり。
ここは夢の世界だ。
そして3階のリクライニングシートでみんなで寝ることになった。
私が今夜から泊まるのを分かっているのに。
焦らしているのかしらエリアス君は?
綿と言うフワフワの素材て作ったというタオル、手ぬぐい、バスローブ。
タオルケットと、そしてパジャマ。
パジャマに使われている、ボタンという留め具は画期的な発想だった。
服装は今まで紐止めしかないからだ。
特許を取るように勧められ、みんなにボタンをあげていた。
他にもドライヤーと言う、濡れた髪を乾かす便利な魔道具もあった。
アバンス商会アイザックさんと、商業ギルドのアレックさんは反応しなかった。
購入したくても魔法具を購入し、彼らも予算がないようだった。
朝はアスケルの森で採って来た香辛料を使い、カレーの肉野菜炒めという料理を作ってくれた。
とても食をそそる美味しそうな臭いがして、今までにない癖になる味だった。
そして散会となった。
自分で着たパジャマとタオルケットあげて、そして驚くことに高価なボトルに入ったワインも配っていた。
いったい、どれほど気前が良いのか。
そしてどこで身に付けたのか分からない豊富な知識。
彼は突っつけば何でも出てくる魔法の箱のようだ。
望めば何でも出てくる魔法の箱。
エリアス君は誰にでも好かれる。
そして危うい。
世間知らずで、世の中を知らない。
彼の性格、気前の良さ、そして魔法の箱を狙って人が集まる。
そして彼はいつか傷つき、泣く日がくるかもしれない。
だから私は…。
彼の盾になることを、この時に決めた。
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