次の日の朝が来た。
俺は今日、オルエッタさんが友達を連れて来ると言うので待っている。
前日、女性3人が訪ねてくると言うので、どう『もてなし』ていいのか考えた。
アリッサさんには、お披露目会の時と同じで温泉施設でいいのではと言われた。
なにをソワソワしているの?と逆に不審がられた。
奥さんが居る時に、知らない女を連れ込むようで、と言った途端に、
「 パコ~~~~ン!! 」
また昨日渡したハリセンで叩かれた。
なにか楽しんでませんか、アリッサさん?
そんなに気に入りましたか、それ?
そんなものを仕舞うために、腰のマジック・バッグがあるのではありませんよ!!
すると九時くらいだろうか、ドアノッカーを叩く音がした。
トンッ、トンッ、トンッ、
叩くと叩かれた門が反応し、屋敷の中にある受信機から音がする仕組みだ。
インターフォンも考えたが、来た人が使い方が分からないだろうと思いやめた。
「は~~~い!!」
聞こえる訳もないのに、俺は屋敷の中で返事をしてしまった。
そして門に向かう。
ギィ~~~~~!!
ドアを開けると馬車が3台止まっている。
「エリアス様!」
見ると先頭の馬車はアバンス商会で、オルエッタさんが顔を出していた。
「ようこそいらっしゃいました!!さあ、どうぞ」
俺は挨拶をして、庭の中に馬車3台を招き入れた。
アリッサさんや、オルガさんもやって来た。
「エリアス様、今日はよろしくお願いいたします」
オルエッタさんと使用人が1人、馬車から降りてくる。
そして2台目、3台目の馬車から、女性が侍女を2人ずつ連れて降りて来た。
「エリアス様、こちらはキャシー・スタンリー子爵夫人とタニア・グランディ伯爵夫人です」
馬車の2台目、3台目の順に紹介された。
子爵と伯爵なら、5代爵位の内の3番目と4番目か。
この世界の貴族の階級は公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵の順だ。
2台目の馬車より、3台目の馬車の作りがいいのはそれが理由か。
「エリアスです。そして妻のアリッサとオルガになります」
俺は胸に手を当て軽く頭を下げた。
「まあ、獣人が妻だなんて…」
キャシー子爵夫人が声をあげる。
40歳くらいの金髪の女性だ。
「招かれておいてそれは失礼ですよ、キャシー子爵夫人」
そう窘《たしな》めたのはタニア伯爵夫人だ。
42~43歳の緑の髪のひとだ。
「し、失礼いたしました」
「奥様、お迎えは何時に致しましょうか?」
タニア伯爵夫人の従者が聞いている。
「そうね…、ここは楽しい場所で、時間を忘れてしまうでしょう、とオルエッタ様から聞いたわ。15時くらいでいいかしら?」
俺を見てタニア伯爵夫人が聞いてくる。
「えぇ、お好きなだけどうぞ」
「では15時にお迎えにあがります」
そう言って馬車3台は帰って行った。
そうだよな、ここで待っているなんて無駄だよな。
「では中をご案内いたしましょう」
玄関から門近くまで小石を引き、その間に飛び石を置いてある。
だから玄関までは歩いてもらう事になる。
俺はそのまま別館の玄関までお客様を案内した。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
私はアバンス商会のアイザックの妻、オルエッタ。
夫からエリアス様のお屋敷の話は、事前に聞いていたけどまさかここまでとは…。
そして言われたことはエリアス様の件は、あまり詮索しないほうがいいと。
国の保護下にある、最重要人物の可能性があると言うことだった。
大きな門のドアノッカーを御者が叩くと、エリアス様が出て来た。
やっぱりこの屋敷で、間違いなかったのね。
私は夫から話を聞き、そんな夢の様なお屋敷に行ってみたいと思った。
王都での話を聞きエリアス様に、会ってみたいと夫にお願いした。
そしてエリアス様を初めて見た時、あまりの美形に驚いた。
黒髪、そして黒い瞳なんて勇者伝説くらいしか聞いたことが無い。
パジャマとタオルケットの話をすると、温泉で使う分くらいなら良いと言われた。
『遊びにくれば差し上げますよ』、そう言われたような気がした。
だから私が遊びに行きたいと言うと、とても驚いていたが快く承諾してくれた。
やっぱり来てほしかったのね。
この、甘えんぼさん。
紡績店にも綿も卸してもらえることになった。
そして昨日、エリアス様達が来られた時も、新しい事業の話を主人としていた。
その晩、主人は若い頃のように目を輝かせて、これからのリヤカーを使った宅配と言う新しい事業を私に語っていたわ。
エリアス様は我が家にとっては、とても大切な人だと存在だと感じた。
それから私は普段から仲の良い、キャシー子爵夫人とタニア伯爵夫を誘った。
彼女達は商売を通じて知り合った。
貴族だけどそれを超えて、若い頃から子育ての苦労などを話す仲だった。
馬車3台でエリアス様の屋敷に向かった。
途中から高い塀が始まり、3mを超す門があった。
門の中に入ると、更に信じられない光景が。
三階建ての見たこともないような大豪邸。
各部屋はガラス張りで、公爵家でもここまで豪華ではない。
エリアス様に案内され歩く。
あれ?
正面の玄関から入らないの?
奥の建物に向っているわ。
たしか別館に温泉があると聞いていたわ。
本館は案内してもらえないのね。
残念だわ。
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