リヤカーの話が終わり、俺達はアバンス商会を後にした。
去り際に俺はアイザックさんに、あるものを渡した。
「エリアス様、こ、これは…」
「ツッコミ用のアイテムです。奥様用にお使いください」
俺はそう言って渡した。
アリッサさんやオルガさんも欲しがったので、仕方なく2人にも上げた。
どうするんだそれを?
そして奥さんのオルエッタさんが、『明日伺いますからね』と言っていた。
お披露目会以降、人が屋敷に訪ねてくるのは初めてだ。
失礼のない様にしよう。
でもこの世界の常識は違うな、と思う。
仕事で関わり合いのある人の奥さんが明日、友達を連れて遊びに来ると言う。
奥さん自体、この前初めて会ったばかりなのに。
友達の友達は友達だ、的な考えなのだろうか?
ところ変わればと言うが、元の世界なら考えられないことだ。
俺達は屋敷に戻って来た。
まずは捕まえて来たラプタ(鳥)の小屋を作る事だった。
ストレスなく飼育したいので8畳くらいの小屋を創った。
7匹なら広さは十分だろう、そして水入れや餌箱を置いた。
その中に捕まえて来たラプタを放つ。
【スキル】世界の予備知識で調べてみた。
目の前に検索画面が現れ、パソコン画面のように調べ物が出来る。
実にご都合主義的なスキルだ。
ラプタの餌は大麦や小麦、家庭の生ごみや雑草でも良い様だ。
1日に1回産卵し5日間程度産み続ける。
そして1~2日休んでまた5日間、産卵を繰り返す。
これで明日から卵が食べられるかもしれない。
俺はそれを楽しみに屋敷に入った。
アリッサさん達は、お風呂に行ったみたいだ。
屋上の露天風呂もさらに拡張し、岩風呂を多数創った。
1.5mくらいの塀を周りに創り、3階から外を見渡せるようにした。
そしてする事が無くなった。
卸の商会を立ち上げたが、毎日何かすることがあるわけではない。
いわゆる俺はニートみたいなものだ。
『創生魔法』で創れば、それは高額で売れる。
だがそれでいいのか?
俺はそう思い、何か人の役に立つことがしたいと思った。
そうだ!
ストレージからアスケルの森で採って来た薬草を出した。
この世界には魔法が発達しているおかげで医療がおろそかだ。
怪我はポーションや、教会の回復魔法に頼っている。
それも高価でお金の無い人は縁がない話だ。
そして病気は治せない。
医学が発達せず人を治す、医師が居ないからだ。
それなら病気でないにしろ、簡単な症状なら緩和できる薬を作ろうと思った。
俺は二階の書斎に入り、薬研《やげん》を『創生魔法』で創った。
薬研《やげん》とは細長い舟形の V 字形の器の中に薬種を入れ、軸のついた車輪状の碾き具で回転させながら押し砕き粉末にしたり、磨り潰して汁を出す鉄製の道具だ。
時代劇などによく出てくる、薬を煎じる器具だ。
これならこの世界の人達でも作れる。
俺にしかできないものは高価にはなるが、いずれは妬みや反感を買う。
技術や知識は必要だが、これからは俺以外でも作れる物にしよう。
他の人達にも技術や知識を広めよう。
共存共栄だな。
俺は薬草をストレージの中で、時間を加速させ乾燥させる。
そして薬研《やげん》で、ゴリゴリ磨り潰す。
ゴリゴリゴリ、ゴリゴリゴリ、
ゴリゴリゴリ、ゴリゴリゴリ、
磨り潰す音に気付いたのか、アリッサさんとオルガさんが入って来た。
お風呂から出たのに風呂上がりの匂いがしない。
風呂上がりの匂い=ボディソープがないからだ。
これでは、そそらん…。
シャンプーを含め、それも今後の課題だな。
「ねえ、エリアス君。いったい何をやっているの?」
アリッサさんが、薬研を指差して聞いてくる。
「これは薬ですよ」
「薬?!」
「病気や傷の治療、または予防のために服用するものです」
「「 病気や傷の治療?! 」」
アリッサさんとオルガさんの、2人の声がハモる。
「えぇ、ただ俺が作っているのは、薬草が手に入りやすい民間薬ですけどね」
「民間薬?どんな効果があるの?」
「そうですね、整腸、腹壊し、切り傷、虫さされ、かゆみ止め、腫物、喉の痛み、痔、風邪、喉痛、胃痛、腰痛、しもやけ、滋養強壮ですかね」
「「 そ、そんなにあるの?! 」」
アリッサさんが驚いている。
「ただ病気は治りません。症状を緩和するだけですから」
「それだけでも凄いわ。それをどうするの、エリアス君」
「はい、低価格で売って、薬草の作り方を無料で配布を…「パコ~~~~ン!!」
その時、物凄くいい音がした。
見るとアリッサさんが昨日渡した、ツッコミ用のアイテムを手に持っていた。
殺傷能力ゼロとは思えない程の音だハリセンは!!
俺は思わず頭を押さえた。
不思議だ。
痛くはないのに音だけで、痛いような錯覚に陥《おちい》り頭を押さえてしまうなんて。
恐るべしハリセン攻撃。
肉体には痛みを与えず、精神のみを攻撃するアイテム。
しかもそれはオルエッタさん用だったはずだ。
2人に渡すのではなかった…。
アリッサさんが物凄い速さで、俺の目の前に来た。
そしてイキナリ俺の口に、両手の親指を突っ込み左右に広げた。
「馬鹿なの?!」
モゴ、モゴ、モゴ、
俺は突然のことに驚き、足をバタバタさせた。
「なにをしているのよ、アリッサ」
「だってオルガ。このお馬鹿小僧がまた…、理解出来ないことを言っているのよ」
あれ?
2人共、呼び捨てになってる。
いつの間に、そんな仲になったんだ?
俺はグイ、グイ、口を左右に広げられている。
「もう許してあげればアリッサ」
「だってオルガ、あまりにもおかしなことを言うから…」
「仕方ないだろう、それがエリアスだよ」
「でもね…」
腑に落ちないお顔をしながら、アリッサさんは顔から手を離してくれた。
ふぅ~。
口に親指を突っ込まれ左右に広げられた時には、思わず『学級文庫』て言いそうになったぞ。
「どうして、そんなことを思ったの?」
「それはアリッサさん、この世界には薬が無いからです。庶民ほどお金が無くてポーションも買えない。それなら和らげる程度ですが、それを広めることができたらと思いまして」
「それを広めて、どうするのよ?」
「どうしもしません」
「へ?!どう言うこと?」
「俺達はもう十分にお金はあります。これ以上は儲けを考えるのではなく、みんなが良くなるようにしていきたいと思います」
「どう言うこと?」
「『創生魔法』で創った魔道具は高く取引されます」
「それはそうよ」
「でもそれでは妬みを買います。だから儲けるだけではなく、他の人達にも技術や知識を広めようと思うのです」
「でも薬草の作り方を無料で配布は極端ね」
「そうでしょうか?」
「私達だからエリアス君の言う事は、信じるけど他の人は違うわ」
「そ、そうですね」
「それならまず低価格で、実際に販売をして効果をあげてからね」
「わかりました、そうしましょう」
「それからエリアス君。さっき滋養強壮にも効く、と言ってたけど意味を教えて?」
「食べ物から取った栄養を、体に必要な栄養に変え体の全身に届けることです。その結果、体の弱っているところを強くする働きがあります」
「具体的には?」
「なかなか疲れが取れないとか、疲労回復ですね」
「それは肉体労働者は助かるな」
オルガさんも話に加わる。興味があるのかな?
「それからイカリソウと言う薬草は、『あなたを離さない』という花言葉があります。羊が食べて精力絶倫になったという伝説が…「「 駄目!!絶対に飲んでは駄目よ、エリアス(君)は!! 」」
突然アリッサさんとオルガさんが、物凄い顔をして口を揃えて言う。
近い、近い、顔が近い。
「駄目よ、絶対に飲んでは駄目だからね!!」
「そうだぞ、エロ、いやエリアス。さすがにこれ以上は…、無理だぞ」
2人は必死に止めてくる。
どうしたのだろう??
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