私はアリッサ。
魔法のことに関しては、詳しいと思っていたけれど。
ま、魔法剣だなんて。
魔力を違う属性に変換するなんて聞いたことが無いわ。
いいえ、違うわ。
魔力は魔力。
先入観にとらわれ、その元になる属性を替えられるかもしれない。
そう考えた人が居なかったと言う事ね。
でもあの剣をもらった時のオルガさんの嬉しそうな顔。
悩んでいたのでしょうね。
炎系の魔法は派手だけど、使い方が難しい。
魔物と戦うことが多い森の中では炎系は使わない。
なぜなら火災の元になるから。
命に危険があれば別だろうけど、魔法使いに比べると魔法剣士の魔力は弱い。
そして魔法だけなら、攻撃力はそれほどはない。
だから魔法剣士は難しい。
魔法が使えるという自負はあるが、魔法単体は大したことない。
中途半端に使えるばかりに、魔法を生かそうとする剣士が多く消えていく。
最初から使えなければ剣を磨くのに。
オルガさんのように、Aランクになる魔法剣士は珍しい。
しかしエリアス君の作った魔法剣はどうだ?
魔力を他の属性に変換するだけではなく、増幅させるなんて…。
エリアス君と一緒にいると、私の常識が崩れていく。
そして悔しいことに私はオルガさんには勝てない。
知り合ったのは私の方が早かったのに、いつの間にか2人はそういう関係に…。
その後になぜかオルガさんが、私を誘ってくれて…。
私もエリアス君は嫌いではないから、興味もあって応じたけど。
獣人族は群れで生活をすると聞く。
だから独占欲はないのかしら?
最初はそう思ったけど、何かが違う。
エリアス君は、オルガさんを頼りにしているのが分かる。
オルガさんの方がエリアス君より、少し背が高い。
エリアス君はまるで母猫を追う子猫のように、オルガさんに纏わりつく。
そして私は王都に行く少し前から、一緒に住んでいる。
だけど1度もエリアス君とは…。
「……サさん、…ッサさん、アリッサさん?」
「あ、はい」
「どうしたのですか?ボ~として」
「な、なんでもないわ」
「はい、これ」
「な、なに?こ、これは?」
「アリッサさん用に創った弓と矢です」
「わ、私も、もらえるの?」
「勿論です。オルガさんだけ創って、アリッサさんに無い訳ありませんよ」
「嬉しいわ、エリアス君」
思わぬことで嬉しくなり、私は思わずエリアス君に抱きついていた。
「では場所を移動しましょうか?」
エリアス君はそう言うと、血抜きの終った魔物をストレージに収納した。
私達3人は林を抜け岩場に来ていた。
「では試し打ちをしてみましょうか?」
そう言うとエリアス君は、弓の説明をしてくれた。
弓の中心の外側の上下に、上が緑と下に赤い魔石が付いている。
「これは?」
「上はアリッサさんの、風の魔法を増幅する魔石です。弓を持つ内側に上下に動かせる板があります。まずはそれを左手で上に押し上げてください」
私は言われた通りに、親指で板を上にあげる。
「では魔力を流して、弓を打ってみてください」
言われた通り遠くの木を的にして、いつも通り魔力を流し弓を打った。
〈〈〈〈〈 ドンッ!! 〉〉〉〉〉
あれ?
「凄いなアリッサさん。弓の軌道が見えなかったぞ!!」
そうオルガさんに言われた。
私にもそう見えた。
もう1度、試してみよう。
〈〈〈〈〈 ドンッ!! 〉〉〉〉〉
同じだった。
矢を手から離したと同時に、的《まと》にした木に刺さっている。
そして矢が深々と刺さっている。
「さすがですアリッサさん」
エリアス君が褒めてくれた。
ちょっと嬉しい。
「では今度は、板を下に下げてこの弓であの岩を狙って打ってください」
エリアス君はストレージから、銀色に光る弓矢を出して渡してきた。
私は言われた通り、銀色の弓矢を変え魔力を込める。
すると銀色の弓矢の先の鏃が赤く輝き始める。
「今です!」
エリアス君に言われ矢を放つ。
すると矢は普通の速度で飛んで行く。
ヒュ~~~~!!
伏せて~~!!
エリアス君の声が聞こえた。
〈〈〈〈〈 ドカッ~~~ン!! 〉〉〉〉〉
私は思わずその場に伏せた。
そして顔を上げると1mくらいある岩の1/3が吹き飛んでいた。
私は驚き呆然と立ち上がった。
「エリアス君これは?」
「赤い魔石は火の魔力を凝縮してあります。銀色の弓矢は軽い鉱物で創ってあり、鏃に魔力が集まるように創ってあります」
「そ、それで?」
「火の魔力が先に集まり、矢が飛び目標にぶつかると爆発をします」
「それは、つまり」
「火の魔法の塊ですね」
「あ、エリアス君は生活魔法しか使えないから、それが集まるとあのレベルなのね」
「ええ、そうです」
「どう見ても爆裂魔法だわ」
「言い忘れましたが、あまり魔力を貯めるとその場で爆発しますから」
「どうして最初に言ってくれないの?」
「ですから、合図をしましたよね?」
「それはそうだけど、一つ間違えたら大変なことになっていたわよ」
「まあ、まあ。後は工夫してくださいね」
「いいな、アリッサさんは。私なんて魔石は一種類だぞ」
「その代わり魔石は大きめです。たくさん剣に魔力を流せば、ウインドカッターの様な剣技を飛ばせるかもしれませんよ」
「そうか、頑張ってみるよ」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
俺はアリッサさんとオルガさんが、弓と剣の練習しているのを見ていた。
二人はよほど嬉しかったのか、楽しそうにしている。
オルガさんは風魔法を剣に溜め、剣を横に一振りした。
すると大きなv字形のような風が飛び木々を倒した。
「やりましたね、オルガさん」
「あぁ、でもこれだと余にも遅すぎて、牽制くらいにしか使えないな」
確かにそれは分かるけど。
「それでも、凄いと思います。いつか役に立ちますよ」
「そうだと良いが」
アリッサさんは銀色の矢を使い、緑の魔石でブーストさせ矢を打っている。
速さだけではなく、貫通力が凄い。
そして弓の裏の板を真中で押しながら放つと、風と火の魔石を同時に使えることに気づいた。
風魔法で矢をブーストさせ、爆裂魔法で目標を破壊する。
エルフはとても視力が良い。
Explosion sniper(爆裂の狙撃者)と呼ばれる、スナイパーの誕生だった。
「あれ、エリアス君、どうしたんだろう?」
「こっちも変だぞ、エリアス」
2人が口々に何か言いだす。
どうやら威力が無くなって来たらしい。
「私の魔法剣の威力が…」
「私の魔法の弓が…」
「決まってますよ、2人共」
「「どういうこと(よ)?」」
「魔石の魔力切れですよ。ほら、色が薄いでしょう?」
「「本当だ(わ)」」
「では直しますね」
俺はストレージで森の魔素を集め、それぞれ炎と風の魔力に変換し魔石を創った。
そして剣と弓の魔石を入れ替えた。
「はい、どうぞ」
「はい、どうぞじゃないわよ。エリアス君、いったい何をしたの?」
「魔素を収納できる話はしましたよね、アリッサさん」
「えぇ、聞いたわ」
「その収納した魔素を、俺が使える魔力に変換して魔石にしただけですよ」
「魔石て人工的に作れるものなか?」
オルガさんが驚く。
「そんなことが出来たら、みんな大金持ちよ」
アリッサさんが答える。
あぁ、そうか。
俺の魔法属性は5つあるから、明日から魔石だけ作って売ればいいのか?
「エリアス君、もしかしたら魔石を作って売れば良いとか思っていない?」
「いや~、そんなことないですよ。アリッサさん、ヒュウ~、ヒュウ~」
「口笛吹けてないわよ。そんな大量に魔石を売ったら不審に思われるわよ」
「それは、そうですね。やはり真面目にコツコツとですか」
「それが一番よ」
そう言いながら3人で今日狩ったウサギ、イノシシ、熊系の魔物は10体以上いる。
その時点でギルドに売却すれば、不審がられるレベルだということをアリッサも既に感化され気づかなかった。
俺達は時刻も夕方になりアレン領に戻った。
そして『なごみ亭』に夕食を食べに寄った。
「いらっしゃ~い!!」
看板娘、アンナちゃんの声が響く。
「今夜のお勧めはなに?」
「肉野菜炒めだよ」
「それを3人前頼むね」
「お父さん、エリアスお兄ちゃん達に3人前ね~」
「あいよ~」
厨房の奥からビルさんの声が聞こえる。
出てきたのは蒲焼の醤油タレを使った、肉野菜炒めだった。
「美味しい」
「美味しいね~」
「この醤油タレ美味しいね!」
俺達は食事を楽しみ帰宅した。
オルガさんとアリッサさんはゲームで遊び、俺はボーリングをして時間は過ぎる。
そして夜になり、お風呂に入った。
もうする事が無い。
正確にはあるのだが、なんて言ったらいいのか。
するとオルガさんが口を切った。
「じゃあ、エリアス、アリッサさんまた明日。明日から交代で寝ようね。お休み~」
そう言って自分の部屋に入っていった。
残された俺とアリッサさんは、モジモジするしかなかった。
「で、では行きましょうか」
「え、ええ」
そして俺達は俺の部屋に入った。
夜は更けていく…。
……………………。
………………………。
…………………………。
……………………………。
も、もう無理…。
体力が…。
ドラゴンと渡り合える、この私が…。
エリアス君には…。
あのオルガさんが、いいえあのオルガが私を仲間に誘う訳よ。
これを1人でなら…。
でも私が増えても無理みたい…。
もう1人、いいえ2人はいないと体がもたないかも…。
でも口が堅く信用できて、エリアス君を愛してくれる女の人が他にいるかしら?
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