人を乗せる?
待てよ、俺はあることを思い付いた。
「アイザックさん、思い付いたことがありまして」
「どんなことでしょうか?」
「その前に見て頂きたいものがあります」
「なんでしょうか?」
俺はストレージ内の『創生魔法』で、6人乗りのリヤカーを創り出した。
4輪の全長を伸ばし席を三列にした朱色のお洒落な物だ。
上に幌《ほろ》を付けて日差しが強い時や、弱い雨なら防ぐことができるようにした。
木材をサンドペーパーを掛けた様に仕上げ、朱色の花を搾り染め上げた傑作だ。
「なんて奇麗な仕上がりでしょうか、これをどうされるのですか?」
「リヤカーを街の中心街に配置し、郊外に帰る人を乗せるのです」
「ほう、それは」
「街はどうしても搬入の関係で城門から中心に向けて店が多く栄えています。逆に郊外、街の奥から買い物に来る人は時間もかかり、帰りは荷物を持つので更に重く大変になります」
アイザックさん、オルエッタさん、アリッサさん、オルガさんの顔を見渡す。
「そこで帰りはこれに乗り、楽して帰ってもらうんです」
4人はそれぞれ、なるほどと言う顔をしていた。
「そして中心街の同じ路線を通り、帰りは街に向かう人を拾い生計を立てるのです」
「ほう、それはいい」
「それから相乗りの需要があれば、もっと大々的にやりましょうか」
「大々的にですか?」
「えぇ、決まった路線を、決まった運賃で、決まった時刻で通る様にするんです」
「どういう事でしょうか?」
「街の中心から郊外へ、郊外から街の中心に2人引く6人乗りリヤカー、いいえ人力車と呼びましょうか。それを定期的に出すのです」
「6人乗り人力車を定期的に出す、そのメリットはなんでしょうか」
「相乗りになるので、どの区間まで行っても一律料金にします。決まった時間に通り乗れるので予定も立てやすい。そしてお客が乗降できる地点にポールを立て停車場所を作ります」
「停車場所ですか?」
「停車場所で乗りたいお客が待ち、乗っていたお客が降りる。そしてその場所は、なにかのお店の前が良いと思います」
「お店の前ですか?」
「はい、待っている間に店先に、手頃な物が売っていたらどうでしょうか?そして降りる時にも、手頃な物が目に入ったら購買意欲がわかないでしょうか」
「では店先を停車場所にする事によって、集客を手伝うという事でしょうか?」
「その通りです、アイザックさん」
「ではどうやってお店と契約するのでしょうか?」
「相乗り人力車の需要があれば、集客の手伝いが出来るので月単位で僅かな金額ですが料金を店側から頂きます」
「僅かな金額ですか」
「えぇ、停車場所になったからと言っても、それほど大きな売上げになるとは思えませんから。だた宣伝にはなると思います」
「宣伝ですか?」
「停車場所に差し掛かる前に、降りたい人が居るのか確認しないといけません。その為、相乗り人力車にベルを付けます。そして人力車を引いている俥夫《しゃふ》は2人にして毎回こう言うのです。『次は雑貨と小麦の店、アバンス商会前です。お降りの方はいらっしゃいますか』と。降りる人が居る時はベルを鳴らしてもらい、降りる人が居ない、または待っている人が居なければそのまま通り過ぎるだけです」
俺の話に4人は聞き入っている。
「そして相乗り人力車に乗る度に、店の名前を毎回聞き刷り込まれていくのです。そして何かの時には『〇〇商店』だな、と思い出してもらえると思います」
「そこまで壮大なお考えを…」
「停車場所の料金は僅かでも、この街の主要な道の全てに、相乗り人力車が通ればそこには数えきれないほどの店があるでしょう。そして最初の営業活動は大変ですが、一度お店に加入してもらえば後は毎月、料金は商業ギルドに振り込んでもらえばいいのですから。塵も積もれば山となるです」
更に俺は畳みかける。
「そして店が並んでいる場合、一軒しか加入できません。考え方によっては『うちの店は相乗り人力車が停まる店』として、他の店舗と差別化できるかもしれません」
俺は一気に話したので少し疲れた。
「そして売上は2人分の人件費とリヤカー代を稼げばいいのですから。それほど稼ぐ必要もありません。それに商業ギルドに相談して提携してもらい、街の商店街の活性化に役に立つのです」
「そのお話、このアバンス商会にお申し付けください」
アイザックさん、まだ仮説ですが?
真剣な顔して怖いな。
そして俺はまた調子に乗り語り出してしまった。
リヤカーを使い運送や荷物配達、引っ越しを手伝う商売を始めるとか。
物を運ぶだけでお金がもらえ、人件費だけだから安くても儲かるとか。
そんな安易な話を得意になってしてしまった。
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※黒猫の宅配便(Ukkīpedia調べ)
アレン領、アバンス商会会長アイザックが前身となり始めた商売。
当初は街の中心部から郊外へ、人を乗せる相乗り人力車から始まった。
発案したのは出入りの卸の商会の思い付き話だった。
当時事業に行き詰まりを感じていた、会長アイザックはその話に可能性を見出す。
商業ギルドに後ろ盾になってもらい、商店街の活性化に力を注ぐ。
その後、卸の商会の言った思い付きのまま、リヤカーを使った事業に力を入れる。
運送や荷物配達、引っ越しも行う商売を始める。
時はベビーブーム。
バブルの登り口。
食文化が発達し王都から人がたくさん訪れ、お金を落としていく。
その時勢に乗り、アバンス商会はアレン領一番の商会にのし上る。
宅配便の会社の名前は卸の商会の、経営者の青年が名付け親だと言う。
アバンス商会の会長アイザックが、宅配事業を始める際に卸の商会の青年に何か良い名前が無いか相談したところ『黒猫の宅配便』の名をもらったと言う。
黒猫なら黒一色マークだから、ロゴの色も安く済む。
その経営者の青年は2人妻がおり一人は猫族で、名づけの時にその場に居合わせた猫族の夫人はとても喜び青年に抱き着いたという。
もう一人の夫人もその場におり、『やっぱり男も初めての女には…』と、何かブツブツ言っていたと言う。
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