私たちは罪を犯すことにした。きっかけは彼女の質問からだった。
「ね、自殺防止プログラムってみたことある?」
「いや、ないかな」
「あ、そうなの? 意外。じゃ今度見てみない?」
「いいよ」
「じゃあ明後日決行ね」
そんな軽い会話で私たちは自殺をする事にした。
決行当日、私はソファーに座っていた。目の前のテーブルには工作用のカッターがあった。それを手に取り刃を半分ほど出す。
例のプログラムを見るには自身の身体を傷つける必要があった。ただ、どのぐらい傷つければいいのかわからなかった。調べても「自傷行為は自殺と見なされます」と記載があるのみだった。
刃を眺める。さて、どこを傷つけようか。無機質なそれは鈍く光る。手首に刃を押しつける。金属特有の冷たさを感じ、その影響か背筋に寒気が少し走る。ゆっくりと、やや強めに刃を横に引いた。鋭い痛みが走り、それとともに紅き血が滲み出す。数滴、床にこぼれる。
突然、首の装置から警報が鳴り出した。無機質な合成音声が響く。
――死は罪です。死は罪です。
ああ、こんな感じなのか。
――世界憲法により、寿命以外で死ぬことは罪となります。
寿命で死ぬことなどありはしないのに。私は軽く鼻で笑った。
――自殺防止プログラムを発動します。催眠装置をお取りください。
気付くと机の上に装置が置かれていた。イヤホン型だ。それをとり、耳に装着する。
――自殺は罪です。自殺は罪です。自殺は罪です。
音声が流れはじめる。それと共に私の視界がぼやけはじめる。意識が遠くなるのがわかる。世界が漆黒に包まれる。
――そうして私は罪を犯し、罰を受ける。
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