フレンさん達が仕入れた話では女王は戦争を起こすと言ってこの国に攻め込んできているらしい。その為か町中が騒然としていて逃げ惑う人々であふれていた。
「女王は既にオルドラの城にいる。急いでいかねば国王様の命も危ないだろう」
「転移魔法で一気に城の近くまで向かう」
ルシアさんの言葉にフレンさんがそう言う。私達は彼の魔法でお城の近くまでやって来た。
「城の警備が厳重だな……」
「周りを巡回しているのはザールブルブの兵士ばかり、すでに城は占領されていると考えた方が良いだろう」
フレンさん達の話の通りに城の周りをうろうろしているのは見た事のない服を着た兵士ばかり。あれ、でもこの服装の兵士さん達どこかで見た事あるような?
「転移魔法で城の中に侵入するしかないだろう」
「まて、魔法を使えば相手に悟られる可能性がある。俺が裏道を教えてやるからついてこい」
フレンさんの行動を止めるとルシアさんは歩き出す。私達はその後についていった。
「実は別館の地下から城の内部に入ることができるようになっているんだ。この秘密を知っているのは俺と国王様だけ。つまりザールブルブの連中が知っているとは思えない」
「なるほど、隠し通路があったとは……これなら誰にも気づかれずに侵入できそうだな」
別館の地下へと向かいながらルシアさんが話す。それにフレンさんが小さく頷いた。
そうして地下通路を通り城の中へと侵入した私達は探知魔法を使い女王のいるところへと向かう。
それにしてもルシアさん流石は長年働いていただけはあって城の構造に詳しい。どこを通れば兵士と出会わないのか、見回りがいても視覚になるところはどこなのかをちゃんと理解していて彼のおかげでここまで見つからずに女王のいる玉座の間までやってこれた。
「乗り込むぞ」
「あぁ」
「はい」
フレンさんの言葉に私達は頷く。それを確認した彼が玉座の間の扉を開け放った。
「そこまでだ!」
「お兄様、フィアナさん?」
私達が乗り込むと玉座の間には女王とザールブルブの騎士の男の人が一人とアレンさんがいた。
「え、アレンさん?」
「どうしてフィアナさんがここに? コゥディル王国に避難されたのではなかったのですか」
私も何故ここにアレンさんがいるのか分からなくて驚くと彼がそう尋ねて来た。
「私はフレンさんと共に女王様がやろうとしていることを止める為にここに来たんです」
「お母様がやろうとしている事って?」
「アレン、聞いてくれ。女王は俺の命を狙いその罪をオルドラの国王に被せようとしている。そして世界中と戦争を起こそうと企んでいるんだ」
私の言葉にアレンさんが不思議そうに首をかしげる。フレンさんもそう言って説明した。
「お母様どういうことですか? お兄様の命を狙ったって……」
「全てはアレン、貴方のためです。国王の後を継ぎ王となるのにふさわしいのは貴方なのです。それなのに王はフレンを跡取りにすると言ってきかなかった。ですから今回の事を企てたのです。フレンさえいなくなれば貴方が国王となれるのですから」
「お母様……っ! お母様はそのためにお兄様の命を狙いその罪をオルドラの国王様に被せ処刑しようと考えているのですか。そして戦争を起こしフィアナさんやこの国の人達を危険にさらそうとしている。……ぼくはもうお母様のいうことなんて聞きません。これからお兄様に協力します」
女王の言葉にアレンさんはフレンさんの下へと駆け寄るときつい眼差しで母親を睨みそう宣言した。
「アレン何を言うのですか!」
「お兄様が必死に努力してお母様に認めてもらおうとしているのにも見向きもせず、お兄様を嫌い殺そうとしたこと、ぼくの事も利用して自分の思い通りにしようとしたこと。そんなお母様の言いなりになってもうなりません。ぼくは、もうお母様のお人形さんなって嫌だ。これからは自分の意志で自分のやりたいように生きます」
女王がヒステリックな声で叫ぶ。アレンさんはそう言い放つと睨み付けた。
「分かりました。貴方も私に逆らうというのならば容赦は致しません」
「っ!? 女王様ここでその魔法を使ってはなりません!」
女王が言うと赤黒い魔法陣が床一面に現れる。その様子に王国騎士の男性が叫ぶ。
「まさか、古代の禁断の魔法をここで使う気か?」
「っ、アレン、ルシア、フィアナ逃げろ! ここは俺が何とかするからお前達は逃げるんだ」
ルシアさんが言うとフレンさんが切羽詰まった声で私達に逃げるように言う。
「ぼくは逃げません。ここで逃げたらフィアナさんが住む町が……だから最後まで逃げたりなんてしません」
「敵を前にして逃げるなんて恥だからな。俺も何もできないかもしれないが最後まで知恵を絞ってなんとか助かる道を考える」
「私も逃げたりなんてしません。どうせ命の寿命は変わらないのなら、最後までアレンさんのお側に一緒にいたいです」
私達の言葉を聞いたフレンさんが覚悟を決めた顔で頷く。
「ならお前達の好きにしろ、俺は全魔力を注いで防御壁を作る。どこまでやれるか分からないがやれるだけの事をやってみる」
「ぼくもお兄様の手伝いをします」
フレンさんの言葉にアレンさんも言うと二人は手をかざして魔法陣を構成する。
「ちょっと待った!」
「待たせてごめんね。私封印の魔法を教えてもらってきたの。だからもう大丈夫よ」
死を覚悟する私達の下にルキアさんと姉の声が聞こえてきた。姉はすぐさま踊りを舞ながら魔法陣を描き出す。
「っぅ……私の身体から魔力が消えていく……」
女王がその場に崩れるようにして座り込む。王国騎士の男性も負けを認め剣をその場に捨てた。
「もう、大丈夫よ」
「……っ」
姉の言葉に私達は安堵したが途端に体に異変を感じる。心臓が跳ね上がり息が苦しくなって私はその場に倒れ込んだ。
「フィアナさん!」
「まさか、魔法薬の効果が発動したのか?」
倒れた私を抱きかかえ泣き出しそうな顔で見詰めるアレンさん。フレンさんも焦った声をあげた。
「……アレンさん、私、もうダメみたいです」
「っ! そんなこと言わないでください。どんな魔法なんですか? ぼくがその魔法を解いてみせます。ですから教えてください」
息をするのも苦しい中で何とか声を絞り出す。アレンさんの言葉はとてもありがたいけれどでもアレンさんでも解くことは不可能なのだ。
「有り難いですが、それは無理なんです。この魔法は千年に一度花を咲かせる大樹の実を使った魔法薬じゃないと治せないんです。ですから、私にかかった呪いを解くことはできないんです」
「嫌だよ。やっと出会えたのに、死んじゃやだよ!」
私の言葉に彼が大粒の涙を流して叫ぶ。どんどん意識が薄れていく……
「最後にアレンさんに会えてよかった……約束、を果たせましたよね」
「フィアナさん、死なないで! ぼくはまだ貴女に……」
「フィアナ!」
アレンさんの言葉を聞きながら私は瞳を閉ざす。姉の悲痛な叫び声を最後に私の意識は途絶えた。
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