追憶の誓い

~時渡りのペンダント~
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アレン視点

公開日時: 2022年5月15日(日) 03:00
文字数:3,110

 ぼくがあの人と出会ったのは確かお兄様にひどく拒否られ孤独を感じていた頃だった。

 

「ぅ……くすん」

 

「どうして泣いているのですか?」

 

「っ!?」

 

いきなり知らない女の人から声をかけられ恥ずかしくて黙り込んでしまう。そんなぼくにあの人がそっと近寄ってきたのだ。

 

「王子様、始めまして。私は怪しい人ではないので安心して下さい。私は国王様の友人です」

 

「お父様の?」

 

お父様のご友人という事で安心したのは確かだ。お父様の友人なら悪い人はいないと当時から信じていたので、その言葉に安堵したのは覚えている。

 

「はい、王子様とお話がしたくて今日はここに来ました」

 

「ぼくと?」

 

ぼくと話をしたいという彼女の言葉にお母様の姿がないことを確認してから口を開く。

 

「ぼくももっといろんな人とお話したいと思っていたんです。でも、お母様が周りの人は敵だから話しちゃダメだって、ねぇ、お姉さんは敵? それとも……」

 

「私は王子様の味方ですよ。だからお話を聞かせてはもらえませんか?」

 

そして話をしているうちにこの人は本当に親切な人なのだと分かった。ぼくの味方なのだといった言葉に嘘偽りはなくその澄んだ赤い瞳に魅せられたのは今でも覚えている。

 

「それで、どうして泣いていたのですか?」

 

「……さっきお兄様に突き倒されたんです。ぼくはお兄様と一緒に遊びたかっただけなのに。お兄様、ぼくのことが嫌いなのかな? だからぼくにいつもひどいこというのかな」

 

今でこそ仲の良い兄弟であるお兄様とぼくだが当時はまったくと言っていいほど真逆で嫌われていた。

 

お母様もあまり会うなとぼくに話すほどで、その言いなりになっていたことは今考えると馬鹿らしいことではあるが、お母様に嫌われたくないぼくはお人形のように一つ返事で聞いていて、同じお城にいるにもかかわらず部屋も別々で兄弟だけで会ったことはなかったのである。

 

「フレン王子がアレンさんの事を嫌っているなんてことはありません。ただ、自分でもどうしたら良いのか分からなくて、それであなたに酷い事をしてしまうんだと思うんです。でも、本当はアレン王子と仲良くしたいと思っていると思います」

 

「ぼく、ね。お母様の期待に応えるのが怖いんだ。お母様の期待に応えられなかった時お兄様の様に突き放されるんじゃないかって思ったら怖くて。だけど、自由に生きられるお兄様が羨ましいと思うこともある。そうすると心の中がもやもやしてこの気持ちの正体が分からなくてぼく、ぼく。どうすればいいのか分からなくなるんだ」

 

優しいあの人の言葉にぼくは溜め込んでいた感情を吐き出す。すると心が軽くなっていくのが分かった。

 

「アレン王子は、幼いのによく頑張っています。女王様の気持ちに応えようと努力して、それが出来なかったらと不安になりながらも頑張ってきて。でも、それはフレン王子も同じなんです。お母さんに見てもらいたくて勉強も魔法も剣術もいろんなことを頑張ってきました。だけど、女王様がそんな努力しているフレン王子を認めてあげることがなく、見るのはいつも貴方の事だけ。だからアレン王子に嫉妬してその苛々をぶつけてしまったんだと思うんです。でもね、お兄さんはあなたの事本当はとても大事に思っていると思います。ですから、アレン王子がフレン王子の唯一の味方になってあげてください。きっと一人ぼっちで寂しい思いをしているのはフレン王子も同じはずですから」

 

「うん、わかりました。ぼくお兄様と仲良くしたい。もっとお兄様と一緒に遊びたい。だから、お兄様のこと好きでいたいんです」

 

「アレン王子、有難う御座います。きっとその気持ちはフレン王子にもちゃんと伝わりますよ」

 

今から思うとあの人がいたからぼくはお兄様と仲良くできるようになったような気がする。

 

お兄様もぼくに優しくしてくれるようになったのはこの人が裏で手を回してくれていたからなのではないかと思った。

 

「あ、あの、涙でお洋服を濡らしてしまいごめんなさい」

 

「気にしなくて大丈夫ですよ。私でよければまたいつでも受け止めてあげます」

 

話しをしていた時は平気だったが彼女の美しい顔を見ていたら急に心臓が跳ね上がり頬が赤くなっていく。恥ずかしくて慌てて顔をそらして謝った。今から思えばこれが恋だったのだろう。だけどこの時のぼくはまだ幼すぎてそれがただ単に気恥ずかしさからくるものだと思っていた。

 

「そろそろ行かないと。また、お話聞かせて頂けますか?」

 

「また話に来てください。ぼく、待っています」

 

もっとお話をしていたかったがあの人は何かを気にしている様子で立ち去ろうとする。これが最初の出会い。それから彼女との時間はぼくにとってとてもかけがえのないものとなり、唯一心落ち着ける時となっていった。

 

「あ、お姉さん。今日も来てくださったんですね」

 

「こんにちは、アレン王子。ずいぶんと明るくなりましたね」

 

あの人が会いに来てくれただけで嬉しくて、今日はどんなお話をしようか。何を聞こうかと考える。

 

「お姉さんに会うのが楽しみで……この前お兄様がぼくにお花をくれたんです。最近お兄様がぼくに優しくしてくれるようになったんです。お母様に気付かれないように二人でこっそり会うのも楽しいですよ」

 

「そう、フレン王子と仲良くできているようで安心しました」

 

いつものように話す時間。だけどこの日はぼくにとってはある意味忘れられない思い出となった。

 

「あの、お姉さん。その指輪って、もしかしてどなたか大切な方から頂いたものなのでしょうか?」

 

「……これはね、私の大切な人から貰った物なの。お守り代わりにいつも身に着けてきた」

 

いつも気になっていた指輪。その指輪を送った人は彼女の恋人なんじゃないかと。不安で尋ねてみるとやはり好きな人から貰った物だと答えられ悲しくなって俯く。

 

そうだよね、彼女は大人だから彼氏がいたって不思議じゃない。そんなことわかりきっていたことなのにこの時のショックは今でも覚えている。

 

「……アレン王子。この指輪を貴方に託します。また会えるための約束です。これをどうか大切に持っていてくださいね」

 

「どうして、急にそんな事を言うのですか? それは、とても大切な方から頂いた物でしょう。なのにぼくに譲るなんて……」

 

恋人から貰った大切な指輪を何故ぼくに差し出してくるのか分からなかった。その全ての意味を理解するのも知る事になるのも大きくなってからであったが、大切なものを譲るなんてそんなことしていいはずがない。だから断ったのに彼女は……

 

「私、ここには用事があって尋ねてきていたのです。でも、その用事ももう終わります。そうしたらもうここには来れなくなるの。だから、最後にアレンさんの顔を見ておきたいと思い今日ここに来たんです」

 

「どこか遠くに行ってしまうのですか? どうして……」

 

ともかくぼくにその台座だけの指輪を渡して彼女はもうここには来れないと言った。その日から本当にあの人がぼくの前に現れる事はなくなる。

 

「アレン王子、どうかその指輪をずっと大切に持っていてください。そうすれば必ずまた、会えますから」

 

「……分かりました。ぼく、この指輪を大切にします。お母様にだって見せません。ずっとずっと誰かにとられないようにかくして持っています」

 

この指輪を大切に持っていたらまた必ず会えるから。そう願うように言われた言葉にぼくも真剣に答えた。そうしてまた会える日が来るのを待ち続けて大きくなったある日、フィアナさんに出会った。最初はあの人に似ているから気になったのだが、彼女があの時のお姉さんであることを知り、そうしてあの時の言葉の意味を知る事となる。ぼくはいつまでも待っているよ「君」がぼくの下に戻って来てくれる日を。

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