あれから数カ月が経ち、私の生活に少しだけ変化が訪れた。主幹の仕事で忙しく食事もままならないらしいルシアさんに朝食を作ってほしいと頼まれ、時々別館へと訪れるようになったのだ。
「本当にこんなのでいいの?」
「あぁ、これでいい」
ルシアさんにご飯を作るのは良いのだけれどいつも野菜のスープと卵とベーコンが乗ったトーストなのだ。彼のためならばもっといろいろと作って食べさせてあげたいと思うのに。
「もっと他にも作れるんだよ?」
「これがいいんだ。フィアナが前に作ってくれて初めて食べたこの味が忘れられなくてな。だから時々食べたくなるんだ」
そんなこと言われたら何も言えなくなっちゃうよ。嬉しすぎて変な顔してないか心配しながら私はごまかすように口を開く。
「ルシアさんのためならいつだってまた作ってあげるよ」
「あぁ、よろしく頼む」
優しく微笑む彼の顔を見ていたらこの幸せな時がずっと続けばいいと思ってしまう。仕事が忙しくてなかなか会う機会のないルシアさんの側にいられる時間は限られているから。だから、少しでも長く一緒にいられたら……そう思うのは私のわがままなのかな。
「そうだフィアナ。今度一緒に図書館に行こう。アニータに頼んでお前が好みそうな本を用意してもらっているんだ」
「え? でもお仕事忙しいんじゃ……」
お仕事が忙しいのに大丈夫なのかと思っていると彼が小さく笑う。
「たまにはお前とゆっくり本を読むのも良いと思ってな。それともフィアナは俺と一緒に読むのは嫌か?」
「嫌なわけない! とっても嬉しいよ」
思っても見なかったことを言われて私は嬉しくてすぐに答える。それからというもの事あるごとにルシアさんは私と一緒にいる時間を作ってくれるようになった。
もしかして朝食を作りに来て欲しいっていうのも私と一緒にいたいからなのかな? そうだとしたら嬉しいな。この何気ない日常が永遠に続いくことを願いながら私は今日もルシアさんの側で笑っている。
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