助けてくれた男の人の後についていくとそこは王立ギルドという場所で。王国中の冒険者が仕事を探してやって来るところ。その中へと入っていくと壁一面に貼られた仕事募集の広告の前へと立つ。
「ここには国中の仕事の依頼が集まる。この中から君がやれそうなお仕事を見つけてそれを受付に持って行くんだ」
「有難う御座います」
男性の言葉に私は壁一面に貼られた依頼書を見る。するとある広告に目が留まった。
「これにします」
「王立図書館の本の仕分け作業……か。確かにそれくらいなら君でもできそうだな」
私が手に取った紙に書いてある文字を読んだ男性が納得した顔で頷く。それから受付に依頼書を持って行くと男の人が何か受付女の人に耳打ちしていた。
「それではフィアナさん。こちらの依頼をよろしくお願い致します」
「は、はい」
受付の女性がにこりと笑うと私に話しかけてきて私は初めて仕事の依頼をこなすこととなった。
「ベルシリオ様より話を聞いているわよ。本の仕分けの作業のお仕事をしたいっていうのはフィアナだったのね。貴女なら大歓迎よ。早速お願いするわね」
「はい」
いつも本を借りているため顔見知りとなった館長のアニータさんに出迎えられ私は作業場へと向かう。内容はとても簡単で種類別に本を仕分けていくだけという作業だった。
そうして日暮れまでに作業を済ませると私は仕事完了の報告をするため再び王立ギルドへと向かう。
「フィアナさんお疲れ様でした。こちらが本日のお仕事分のお給料になります」
「あ、有難う御座います」
報告書にギルドのスタンプが押されるとこれで依頼が完了したということになるらしい。そして人生で初めてのお仕事をした証の給料袋を手に取る。ぶ、分厚い……これが働いた人の喜びか……
働いて稼ぐということの幸せに私が喜んでいると誰かが近寄って来る。
「どうやら無事にお仕事を終える事が出来たようだな」
「あ、貴方は……有難う御座います。あの、ちょっとよろしいでしょうか」
「?」
真面目な顔をして声をかけてくれたのはあの眼帯の男の人で私は彼に話すとある場所へと向かう。
「ちょっとここで待っていてください」
「あぁ……」
お店の前で待ってもらうと素早く中に入り私はいろいろな物を見詰め悩む。
「男の人が喜びそうなものって何だろう……」
何がいいのか全く分からない。適当に選ぶのもお仕事を紹介してくれた彼に申し訳ないし、何かないかなっと思ってみていると白いハンカチが目に留まった。
(ハンカチなら日常でよく使うしいいかも)
私は頷くとそれを購入して外へと出る。
「あの、今日は本当に有難う御座いました。それでお礼をと思ったのですが、男の方がどの様なものがいいのか分からなかったので日常で使えるかなと思ってこちらを」
「! こ、これは……」
私が言うと購入したばかりのハンカチを差し出す。それを見た男の人が驚いた顔をした。どうしたんだろう? もしかしてハンカチなんていっぱい持っているから必要なかったのかな?
「あ、あの……ご迷惑でしたか?」
「いや、少々驚いてしまった。……有り難う」
私の言葉に彼が我に返った顔するとそう言って受け取ってくれた。笑うととっても優しい顔をするんだな。
「あ、自己紹介が遅くなりました。私はフィアナです」
「俺はベルシリオという。フィアナ、感謝の気持ちはちゃんと受け取った。ハンカチを有難う」
そう言えばまだ名乗っていなかったことを思い出し慌てて自己紹介する。彼も答えてくれた。ベルシリオさんか、そう言えばアニータさんベルシリオさんから話を聞いてるって言っていたけれど、もしかしてベルシリオさん私のために話を通しておいてくれていたのかな?
「いいえ。私こそ有り難う御座います。実は私今まで働いた事が無くてお姉ちゃん達には私にはお仕事なんて無理だって言われていたんです。ですから私も皆と同じようにちゃんと働けるんだって分かって嬉しいんです。だから本当はもっとちゃんとしたお礼がしたかったのですが、何がいいのか分からなくて……」
「いや、このハンカチに十分君の感謝の気持ちは込められている。だから心配しなくて大丈夫だ」
私が言うと彼は心配ないと笑ってくれる。真面目で誠実そうな人だな。ルシアさんも真面目で誠実だけどベルシリオさんも同じくらい……うんん。それ以上に実直な人なんだろうな。
「さ、暗くなってしまった。また先ほどの人攫いのような者に狙われると良くないから、家の近くまで送っていってあげよう」
「有難う御座います」
彼の言葉に私は頷くと家の近くまで送ってもらった。
「ここまでで大丈夫です」
「では、気を付けて……俺はこれで失礼する」
立ち止まり言うとベルシリオさんは立ち去っていった。さて、このお金を姉に渡さなくちゃ。私は急いで玄関へと向かう。
「ただいま!」
勢いのままリビングに入るも部屋は電気も灯っていなくて薄暗かった。どうやらお姉ちゃん達はまだ帰ってきていないようだ。
「まだ踊りを踊っているのかな?」
もう辺りも暗くなるというのにまだお仕事を頑張っているのかな? 仕方ないので夕飯の準備をしながら二人の帰りを待つこととなる。
「ただいま……」
「お帰り」
夕飯の準備を終えた時に玄関から姉の声が聞こえてきた。リビングの扉を開けて中へと入ってきた二人はぐったりとした様子でソファーへと倒れ込む。
「お姉ちゃん、お金集まったの?」
「それがね、一日中頑張ってみたんだけれど金額分を稼ぐことが出来なくて……」
「俺がもっと頑張ればよかったんだが……すまない」
私の言葉に姉もフレンさんも面目ないといった感じに答える。
「また明日頑張ってみるわ」
「ちょっと待って、お姉ちゃん……これ、このお金を使って」
姉の言葉に私は待ったをかけると大事にしまっておいた給料袋を取り出し差し出す。
「このお金どうしたの? ……フィアナあなたまさか」
「ち、違うよ! ちゃんとお仕事して稼いできたお金だよ」
私が何かしでかしたのではと疑う姉へと私は説明する。
「フィアナがお仕事を?」
「そうだよ。もう私だって昔と違って寝込んでばかりじゃないんだからね」
唖然とする姉に私は胸を張り言い切る。病人あつかいは今日で卒業なんだから。
「フィアナ、凄いじゃないか。ティア、これで薬が買えるな。フィアナのおかげだ」
「そうね。フィアナ有り難う」
二人の言葉に私は誇らしくて頬が緩む。こうして翌日私と姉で薬を貰いに王国魔法研究所へと向かうこととなった。
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