あれから暫く経ち私はルキアさんと結婚して新居へと引っ越してくる。
「ルキアさん、これはこっちでいいですか?」
「あぁ、そこで大丈夫だ。これはキッチンだな」
「ワン、ワン」
忙しく引っ越してきたばかりの家に荷物を運びこむ私達の邪魔をしないようにケージの中でおとなしく待ってくれている殿。ルキアさんになついているし私が飼っていたのもあり、実家から一緒に連れてきたのだ。
「殿、ごめんな。窮屈だろうがもう少し待っててくれ」
「ワン!」
ルキアさんの言葉に「大丈夫」と言わんばかりに一鳴きすると私達が作業を終えるのをじっと見守る。
「はぁ~。何とか今日中に終われたね」
「そうだな。フィアナ、お疲れ様」
「ワン、ワン」
ようやく全ての物を置くことができ一息入れている私にコーヒーを入れて持ってきてくれた彼が差し出してくる。ケージから出してもらった殿も自由に私達の足元を走り回っていた。
「フィアナ、オレはこれからも変わらずに王国騎士としての仕事がある。だから勤務で家を長く開ける事もあると思う。それで、寂しい思いをさせてしまうこともあると思うが、大丈夫か?」
「大丈夫だよ。私の側には殿も一緒だし。それに、ルキアさんが王国騎士としてこの国を護ってくれているから安心してここで暮らせるし、それにね。帰ってくる場所を守るのが私の務めだと思うから、だから、ルキアさんも安心してお仕事頑張って来てね」
ソファーに座りコーヒーを飲みながら話しかけてきたルキアさんへと私は答える。
「フィアナ……ちょっとこっち着て」
「?」
ルキアさんがカップを机に置くと立ち上がりどこかへと向かう。不思議に思いながらその後をついて行くと一階のリビングの隣のお部屋のテラスへとやって来る。
「……フィアナを守らなきゃってずっと思っていたけど、でも、お前はいつの間にかオレが守らなくてもいいくらい強くなっていたんだな。だけどな、無理して強がらなくたっていい。フィアナは、フィアナのままいてくれればそれでいい。オレの帰るべき場所を守りオレを支えてくれようとしなくたっていいんだ。お前は、今まで通りオレの知っているフィアナでいてくれればそれでいい。それに家を守るのは殿がいるからな。お前一人で頑張ろうとしなくたっていいんだ」
「ワン!」
「ルキアさん……」
静かに語ったルキアさんが殿を見てにやりと笑うと彼もその通りだと言わんばかりに鳴いた。
「だから、寂しいなら我慢しなくたっていい……寂しいって言ってくれてよかったんだぞ」
「……平気だもん。これからずっとルキアさんと一緒に暮らせるんだから。だから、平気だもん」
「フィアナ……」
見抜かれていた事に自然と涙があふれる顔で答えると彼がそっと優しく腰を抱き私を引き寄せる。
「大丈夫だ。お前に寂しい思いも悲しい思いもこれから絶対にさせたりしない。フィアナを独りぼっちになんてさせたりしないから」
「ルキアさん……ごめんね。それから有り難う」
折角新生活が始まるというのにルキアさんと会えない時間が長い事ばかり考えていて、私はなんて我が儘だったのだろうと謝る。それからそんな私の事を気遣ってくれて有り難うと伝えると彼が悪戯っ子みたいな笑みを浮かべて見ていて不思議に思う。
「フィアナがそんなにオレと離れるのが寂しいんならしょうがないよな。国王様から頼まれていたし、お前も明日から家に来い」
「家って王国騎士団に?」
「あぁ。寿退社で受付女が一人辞めちまってな。それで代わりの者を探していたんだ。フィアナならやったことあるし頼めないかって国王様に頼まれてたんだよ」
「ルキアさん……」
ルキアさんの言葉に私は驚いて言葉が出なくなった。つまり王国騎士団の受付女として働くならいつでも会えるって言いたいのかな?
「これはオレのわがままだ。フィアナの側に少しでも長く一緒にいたいっていうオレの……だからお前だけじゃないんだ。オレも寂しいって思っていたから。こんな形で話をお願いするのは悪いと思ったけどでも……」
「ふふ、お互い様ってことで、ね」
申し訳なさそうに語る彼の唇にそっと人差し指を当てて私は照れた顔を隠しながらそう言った。ちなみに殿は番犬として私達が仕事で家を空けている間安全を守る係と任命される。
こうして明日からまた新しい私達の生活が幕を開ける事になった。
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